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24話 だから招かれざる客は誘われたのである。 1

 読んでいただきありがとうございます!

 外から聞こえる生徒のガヤガヤとした声をBGMに、俺は無言で新聞紙を片手に窓と対面していた。新聞紙を持っているのには理由がある。そう、掃除だ。と言っても俺は今やってる窓一枚で仕事は全て片付くのだがな。

 そう威張りながら窓を丁寧に外側から中心に向けてムラなく拭いていく。この作業は地味だが仕事上スルーを決め込むことは絶対に出来ない。なんせテーブル席に座った客が外を眺めた時、窓に多少のムラが残っていてそれが露見してしまうとお陀仏確定だからな。別に大袈裟だと言われても構わない。そのぐらいの心意気でやらねば真剣に取り組むことは出来ないのだ。


「キメラ君、手際がいいわね」


 珍しく登大路が俺を褒める。急に褒められたものだから、少し照れくさくて頬を掻きながら目を逸らし小さく礼を述べておく。一応な、一応。

 登大路はまだ会話を終わらせる気はなさそうで続けて俺に尋ねてきた。


「家で掃除を担当しているのかしら?」

「それもだが……あれは去年の一学期の大掃除だな。班のメンバーに窓拭きを頼まれて全員なら本来10分で終わるとこ一人で25分かけて取り組んだからだな。いやーあの時の俺は班に頼られていたと思うとなんだか——」

「……もういいわ」


 ドン引きしたような、哀れむような目付きで俺を見た後何も言わずに持ち場へと戻っていく。今日の奴は変だなと思いつつ自分の持ち場であった窓を眺める。我ながら綺麗に拭けているではないか。やっぱ俺ってすごいわー。

 と自画自賛して悦に浸っているとテーブル席から高畑の耳障りなでかい声が聞こえてくる。


「窓拭き一人でやってたの!? でも押し付けられたなら仕方ないね!」


 それは慰めてるつもりなのかな? だとしたら君、かなり惨いぞ。現実逃避のために纏っていたオブラートが高畑によって一瞬で引きちぎられ、高畑は時に残酷であることを思い知らされた。

 その光景に流石の登大路も軽く咳払いし俺をフォローし始める。


「ま、まあ最近の高校生はいかに自分が楽するか考えているもの。貴方ならそうなっても仕方ないわ」


 まあフォロー出来てないんですけどね☆

 というか登大路の発言が最も心を抉ってくる。先程の高畑を針だとするなら、登大路はもうナイフ。そのぐらい差がある。高畑も登大路も会話が苦手なんだね。いや分かってたよ? 分かってたけど想像以上に酷すぎて、京もう立ち直れない気がしてきたよ。

 会話が途絶え訪れた沈黙の中、二人への憎しみを募らせつつカウンター席で鞄から小説を取り続きのページを開く。時々やってくる沈黙はこの部活においては救世主といって良い。人との関わりを最小限に抑えたい俺からすれば、おしゃべりほど非効率的な時間は存在しないと考えているためだ。わざわざ敵と談笑してやったところで俺にメリットはない。

 沈黙と読書を楽しみながら呑気に過ごしていると、俺を呼ぶ声が聞こえた。面倒なので無視したがまもなく二度目が聞こえたため、声の主の方へ重い足を動かして向かう。


「み、京……助けて……」


 そこにいたのは高畑だ。彼女は普段より弱々しい声で身体を震わせながら俺を涙目で見上げている。一体何事かというのか。


「なんだよ。めんどくせえな」

「出たの……」

「出た?」


 聞いたとて分からなかった。述語だけで話されても何が言いたいのかさっぱり分からない。分かるはずもない。それこそ俺の嫌悪するエスパーの仲間入りだ。

 彼女が人差し指を震わせながら隅の方を指したため、頭を掻きながらそこへ目を向けると俺は静止してしまう。


「で、出たー!」


 俺がそう叫び店の外へ一目散へ逃げ出すと、後ろから高畑も叫びながらついてくる。俺達の取り乱した様子に驚いたのか、登大路も小走りで外へやってくる。


「どうかしたの?」

「「で、出た……」」

「何が出たのかしら? 主語がないと分からないわ……」


 俺はその名を呼ぶことすら忌々しく首を横に振る。登大路はごくりと唾を飲んで、ふぅと息を吐いて扉のほうへ振り返った。


「私に任せて」


 そう呟くと扉を開き店内へ戻っていった。俺と高畑は心配でたまらなかったが、固唾を呑んでその場に留まることしか出来なかった。しばらく待っていると扉がゆっくりと音を立てながら開いた。そこには、ちりとりを片手に持った登大路が少し震えながら立っていた。


「こ、こんなの、平気よ……」


 弱々しくそう言った登大路は近くの茂みに奴を逃がした。全員緊張が解けてその場に座り込んでしまう。まさか奴がこの店に出没するとは……。俺は虫が大嫌いなんだよ。勘弁してくれ。というか登大路も高畑も虫苦手だったのか。意外だわ。


「まさかゴキブリが出るなんて……」

「やめろ馬鹿! その名前を呼ぶな!」


 高畑が奴の名を呼んだことで、俺は鳥肌が止まらなくなり変な汗が身体中から吹き出す。せっかく名前を呼ばず聞かずでやり過ごそうと思ってたのに、高畑のせいで台無しである。


「虫にビビるなんて子どもね。早く戻るわよ」


 登大路はいつもの冷静な様子で俺と高畑に告げて、足早に店内へ戻っていく。

 いや……俺達めっちゃビビってたけど貴方も大概でしたよね……。その理論だと貴方も子どもですよ。……まあ確かに子どもではあるか。いや何処かは言わないよ? 胸とか言わないからね?

 俺が心中であれこれ言っていると、登大路は店内へ入る直前にものすごい眼力で振り返って俺を睨んできた。


「失礼なこと考えてるわよね?」

「イエ、ソンナコトアリマセンヨ」


 少しビビって片言になりながら必死に弁明する。登大路は呆れたように息を吐いて、最後にまた俺を睨んで今度こそ店内へ消えていく。そしてその様子を傍らで見ていた高畑が苦笑しながら俺の背を叩いた。


「そういうの敏感なんだからね?」


 呆然としている俺にそう告げて彼女もまた足早に店内へ戻っていった。明確に何を指しているかは曖昧だったがなんとなく確信する。そして少しの疑問が心に現れた。そういうのエスパーだろうがなかろうが、女子は分かってしまうのだろうかと。


 店内へ戻った後、何故か高畑に罰として更衣室の掃除を任せられ、ひとり黙々と作業を進める。何に対しての罰か分からず反抗を試みたが、有無を言わさぬ表情に凄みを感じおとなしく受けてしまったが、今そのことを猛烈に後悔している。今頃二人はコーヒー飲んでよろしくやってんだろうな、クソが。

 高畑と登大路への苛立ちをぶつけるように激しくたわしでコンクリート床を擦る。てかなんでカフェ木造なのに更衣室の床だけコンクリートなんだよ。馬鹿じゃねえの。

 二人や店に毒を吐いて八つ当たりしていると、外から俺を呼ぶ大きい声が聞こえてくる。どうせ大したことじゃないと思い無視するが、強く戸を叩かれたので仕方なく出ると高畑が慌てた様子で俺の腕を掴む。咄嗟のことで抵抗など出来ず店内へ引っ張り出される。

 照明の明るさに瞼を閉じた時、聞き覚えのない男の声が耳に届いた。誰かと思い瞼を開けると見知らぬ男が登大路の手を握りながら立っていた。


「やあ、こんにちは。紀寺京くん」


 俺の存在に気付いた男はこちらを向き丁寧に挨拶をする。だが俺はそれに反応せず登大路に尋ねる。


「誰?」

「私の幼なじみの五條くんよ」


 その言葉を受けて彼は登大路から手を離し、俺に一歩近付いて軽く微笑む。しかし俺はその好印象な態度が眩しくて目を逸らしてしまう。そんな俺には構わず男は自己紹介を始めた。


五條龍都ごじょうりゅうとだ。彼女とは昔から家族ぐるみで付き合いがあってね」


 へぇと思い登大路に目をやると微妙な表情を浮かべ俯いていた。登大路が何を感じているか知らないが、それよりも驚くべき点が二つある。

 一つ目、登大路に幼なじみがいたということ。友達がいないとか言いつつ、バリバリ幼なじみ、しかも家族ぐるみの付き合いがある奴がいるときた。

 で、二つ目。目の前のごじょ……ごしょ……和尚おしょう? っていう奴が俺の名前を知っているということ。なんで知ってんの? そんなに俺は有名人なの? グッズ作成して金儲けちゃうよ?


「今日は話があってね」


 不敵な笑みを浮かべて話を切り出す和尚に、謎の重い空気を感じつつ固唾を呑んで待つ。登大路は相変わらず沈んだ様子で何も言わない。


 蝉の声も鳴りやみ日も沈みかける夏の夕方、遠くから聞こえてくるカラスの鳴き声だけが辺りに木霊していて、それが俺達に何かを告げようとしているように感じた。

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 登大路のキャラ設定も投稿予定ですのでお待ちください!


 30ptで高畑怜奈のキャラ設定を投稿します!

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