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22話 だから高畑怜奈が嫌いである。

 読んでいただきありがとうございます!

 注文を受けた高畑が自らコーヒーを淹れてギャルの席へ運ぶ。その足取りは少しおぼつかない様子で切なげに見えた。高畑がコーヒーを二人に出して三人で談笑を始めた。特に俺には関係がないため小説を読むことを再開する。


「高畑コーヒー作れんの!? やっばー! でも美味しくはないなー」

「それ言えてるっす。なんか変な風味がするっす」


 二人は言いたい放題で高畑に感想を告げる。高畑も愛想笑いで誤魔化しているようだった。俺と登大路は何も言わずそれぞれの作業を進めるが、正直集中出来ない。


「……美味しくなかったかー。残念!」


 なんだよ。今の間は。そんなんじゃだめだろ。高畑が真に受けていないと勘違いしたのか、二人はさらに勢いづいて言いたいことを言い始める。


「なんかねー。田舎にある都会を真似してるカフェの味」

「分かるっす。あーしも同じこと考えてたっす」


 いやそれは田舎のカフェに謝れ。風評被害すぎる。そして高畑はそれに笑って応じる。なにか言いたそうな様子で二人の意見を肯定し続けていて、正直見てられる様子じゃない。まあ見てないけど。


「てか登大路さんも働いてるんだー」

「それ言えてるっす。驚きが隠せないっす」


 その一言にこの場にいる者全ての視線が登大路に集結する。登大路はそれを感じたのか、コーヒーを淹れていた手を止めギャル二人へ会釈する。


「登大路さんと高畑が一緒ってすごいね!」

「分かるっす。全然釣り合わないっす」


 二人は高畑を馬鹿にするような高笑いをする。高畑はそれに愛想笑いしながら話を合わせていた。正直、イライラしてきているが必死に堪える。彼女らの問題に他人が首を突っ込むべきではない。


「そうだよねー……」


 またしても愛想笑いを浮かべながら高畑は俯いた。そして横目で俺の顔をちらっと見てくる。いや俺は関係ないので——そう無視しようとしたが、彼女の潤んだ瞳と目が合い俺は席を立ち上がった。


「いい加減にしとけ」


 ギャル二人になるべく冷酷に告げてやると、二人は驚いた様子で俺を見つめる。きっとこの威圧感に言葉も出ないんだな。そうに違いない。


「誰かと思えば紀寺じゃん。なんでここにいんの?」


 えっ、なんで俺のこと知ってんの? 怖い怖い。この菟田野? って奴の情報網えぐない? 陽キャってやばいな。


「ここの部員……」


 高畑が自信なさげにそう発する。そこは自信持って欲しかったな。だって俺部員だろ? なんか少し切なくなったんだけど。


「お前高畑の何なんだよ」

「何って……親友だけど」


 あたかも当然のようにそう答える奴に俺は笑いが漏れた。その様子を怪訝そうに見つめるギャルの瞳を見据えて俺は口を開く。


「親友ってなんだ?」

「え?」


 二度目の問いは予想していなかったのか少し間抜けな声で俺に聞き返す。だが俺は気にかけず話を進める。


「人の気持ちも考えずに言いたい放題やって、心抉るのが親友なのかって聞いてんだよ」


 俺が冷たく言うと二人は言葉を失ったのか俯いてしまった。陽キャにマウントとる俺まじかっけー。

 と勝利を確信しニヤつく口を右手で隠していると、数秒後に菟田野? が俺を睨み反論してくる。


「あんたに何が分かんのよ? 教室で一人で本読んだり寝たフリしてる陰キャが! 友達いないのに偉そうな口をきかないで!」


 その台詞を聞いた瞬間、俺の中でピシピシとなにかが崩れていく音が聞こえた。そして俺はその場にうつ伏せで倒れ込んでしまう。酷い。登大路より酷いこいつ。精神が一瞬で……。メンタルが強いことに定評のある俺が……。てかなんで俺の日常知ってんだよ……。

 そのままうつ伏せで倒れて彼女達の罵詈雑言を食らっていると後ろからコツコツと歩く音が近づいてきた。なにかと聞き耳を立てているとその主と思われる人物が口を開いた。


「菟田野さん、榛原さん」


 その声に俺は体が震える。この女じゃ修羅場が地獄になるだけだ、と俺の第六感がそう告げているからだ。俺が制止しようと指で登大路の足を軽くつつくと、ドスンという音と激痛が走った。あ、踏まれた。もはや絶叫する気力もなく、俺は満身創痍と化してしまった。


「私、親友がいないの。だから教えてほしいわ。その親友というものについて」


 登大路の威圧的なその発言で場の空気は一気に凍りついた。残暑を感じさせない冷たさですね。いやごめんなさい。今ふざけるとこじゃないね。善処します。


「し、親友ってのは特に親しい友達のことで——」

「では友達とは?」


 登大路がそう聞くと菟田野は何も言わなくなった。代わりに榛原が口を開いた。


「それは……自分の気持ちを言い合ったり一緒にだべったり出来る関係だと思うっす」

「そう……じゃあ貴方達三人は友達とは言えないわね」


 その一言で再び空気が凍りつく。登大路は相当ご立腹なんだな。そりゃそうか。友達が……高畑が助けを求めていたんだからな。

 登大路かっけーと感心していると菟田野が少し早口で反論を述べた。


「はあ? あんたに何が分かんの? 常にぼっちのくせに!」

「先程の貴方達三人を見ていれば嫌でも分かるわ。貴方達、高畑さんに一方的に意見を押し付けていたじゃない」

「高畑もうちらに同調してたじゃん!」

「それは本心からと言えるのかしら?」


 白熱した口論に俺は何も言えなかった。ただうつ伏せでやり過ごすことしか出来ない。しかし登大路がここまでギャルと戦えるとは驚いた。俺なんか瞬殺だったのに。

 と感心していると先程まで黙っていた高畑がこの白熱した戦いに終止符を打った。


「あのさ……!」


 その声によって場が一瞬で静かになる。続けて高畑は弱々しい声で俺達の名を呼んだ。


「綾乃っちと京、ちょっと外に出てくれないかな?」


 登大路がそれに返事をして俺を引きずっていく。待って、身体中痛いんだけど。歩けるから自分で歩けるから! 顔が床に当たっているせいで俺はその一言すら喋らせてもらえないまま外に連れていかれる。それより、なんでこいつも179cmの俺を引きずれんの? 怪力すぎね?

 と思いながら立ち上がり聞こえてくるあの三人の会話に集中する。


『その……あたしも凪と夏渚とは仲良くしたいって思ってて……でもあたし言いたいこと言える性格じゃないからこんなことなっちゃって……けど二人は友達に変わりないっていうか……』

『何が言いたいの?』

『……これからも仲良くして欲しい。すぐには無理でもいつか親友になれたらいいなって思ってる』


 なんだよ。ちゃんと言えてるじゃねえか。やれば出来るんだからもっと自信持てっつーの。あの馬鹿。

 と心中で愚痴を漏らしつつ、ちらっと登大路の表情を確認するといつもより穏やかになっていた。俺はそれに安堵しつつ高畑が呼びに来るのを待っていると、菟田野と榛原が扉を開け外に出てきた。


「ごめん。二人とも」

「申し訳ないっす」


 そう言って頭を下げる二人。それを見て登大路は首を横に振り頭を上げるように伝えた。そし登大路は微笑を浮かべて二人を諭した。


「謝れる人は立派な人よ」


 そう言いながら去っていく二人を見送っていたが……俺は絶対に奴らを、特に菟田野を許さないぞ。人の日常生活を馬鹿にしやがって。あの腐れビッチが。

 と文句を垂れていると高畑が俺達を呼びに来る。


「ごめんね二人とも」


 そう謝罪した高畑の表情はなにか吹っ切れたような感じで、俺と登大路は何も言わずに店内へ戻る。俺が高畑とすれ違った時に袖を掴まれて何事かと思い振り返ると、高畑が背伸びをして俺にそっと耳打ちしてきた。


「かっこよかったよ。ありがとね」

「ん」


 俺が無愛想に言うと高畑は満面の笑みで頷き店内へ戻っていった。本当に馬鹿だな高畑は。こんなぼっち陰キャをドキドキさせてどうすんだよ。

 何故か熱を帯び始めた頬に手を添え、先程の台詞をずっと脳内で繰り返し再生しながら俺は静かに心の中で呟いた。


 ——これだから女は嫌いなんだ。


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