21話 だからいちのせCafeは嫌いである。
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————人間とはヒューマニズムである。
我々、人間は古来より数多の自然と共存を図り畏怖してきた。時に助けられ、時に襲われ至極当然な関係を保っていた。だが近年、自らを尊重し発展を望んだ末に我々はその関係をいとも容易く切り捨て始めた。
これが所謂、環境破壊というものだ。我々は自らのためとあらば、数多の自然を破壊し糧とすることを厭わない。故に人間は傲慢かつ貪欲な生物へと変貌を遂げ始めている。
一例として、自然界で百獣の王と畏怖されてきたライオン。この存在はもちろん、人間にすれば脅威な存在に違いなかった。だがしかし、近年においてその価値観は薄れている。
というのも我々人間は動物園たる施設を考案した。これは自らの娯楽のために共存を図ってきた動物でさえ、ほぼ監禁状態に等しい生活を強いる劣悪な施設だ。ライオンであろうと我々には関係なかった。娯楽への欲を満たすことの出来るものがあればなんでも良かった。たとえそれが共に自然を生き抜いてきた仲だったとしても。
つまり現代に生きる我々は先人の知恵と努力を都合よく受け継ぎ、先人が紡いだ自然との向き合い方を都合よく捻じ曲げた。これはもはや先人への冒涜と言っても過言ではない。
人間とは世界一残酷で老獪な生物である————
「紀寺」
声色に少し怒気を孕ませた古市先生が俺の名を呼ぶ。空気がピリピリとしているのを感じながら、ごくりと唾を飲み先生に応じる。
「なんですか」
返事をしたが先生からは何も帰ってこなかった。不穏な空気が俺達を包み込むのを少し感じながら、俺は口元をぴくぴくと震わせる先生と静かに対峙する。
一呼吸ばかりおいて先生はものすごい眼力で俺を睨みつけ徐に口を開く。
「なんだこの痛い意味不明なラノベの説明みたいな文章は?」
「いや先生が課した宿題ですけど」
俺は何一つ間違っちゃいない。事実、先生から課された宿題を真面目に遂行したのみ。それの何が気に障ったというのか。不思議で仕方がない。
「私が課した宿題内容を述べろ」
「えっと……自然と人間の関係性です」
そこまで言うと先生は深くため息をつき、腕と足を組みながら呆れた口調で話し始めた。
「どう解釈すればこんな反人間的なレポートになるんだ。というか途中で論点がズレてるぞ」
「失礼な。これは反人間的だけじゃないです。現代への皮肉を込めています」
少しドヤ顔で先生を見下ろす。ここまで完璧なレポート、未だかつて先生も見たことないはずだ。
先生は俺の態度が気に食わなかったのか、トゲのある口調で俺に問いかけてきた。
「ほう。聞いてやろう」
先生がそう言ったのを確認し、俺は軽く咳払いをして瞼を閉じ「では……」としっかり前置きして話すことにする。
「人間と自然の関係って、学校における交友関係と同じだと思うんですよ。時に助け、攻撃され。自分達が楽しみを得るためならば、他人の人生を破壊することも厭わないわけで。要するに何をしようと若気の至りで済ませてしまう。これは自らのためなら他を顧みないという点で同義であると言えます。全く……まじで明治政府を冒涜してると言わざるを得ませんよ」
自らの意見を正当性を持って喋ることは大事なことである。俺はそう自信を持って長ゼリフを噛まずに話す。こんだけ自信持って言えば先生も否定的な意見は寄せないだろう。
「支離滅裂だな」
ですよね。先生が俺の意見を肯定してくれるわけないよね。まあ分かってたからダメージは少ないけど。
「書き直して再提出。明日までな。さあ早く部活に行った行った」
呆れた様子で立ち上がり、俺の背中を半ば強引に押して職員室から追い出される。扉を閉める前に先生は俺の顔を見て微笑を浮かべた。
「その腐りきった感性、矯正してこい」
いや感性は人それぞれなんだから押し付けんなよ。やはり古市先生は自己中、自分至上主義だ。ろくな先生じゃないね。
そう愚痴を漏らしながら俺は廊下をゆっくりと歩き下駄箱へ向かった。部活だるいな……。
ビルに囲まれた路地を歩いていると、見慣れない建物が見えてきた。それは東京の駅前にありそうな洋風のオシャレな建物だった。白い柵に囲まれたその建物は微かに高級感が漂っていて庭もテラスが整備され、小さい花畑もある。
——まじかよ
その一言しか出ない。当然だ。この前までボロボロで老朽化が進み廃墟のような建物があった場所にオシャレなカフェが出来ていたのだから。
俺は走ってカフェの元へ向かい、扉を勢いよく開ける。店内では例の二人がコーヒーを淹れていた。
「京おそーい!」
「もっと静かに開けなさい」
二人は少し驚いた様子で俺を非難する。一人は冗談、一人はガチで。
「すまん」
自分にも非があるのを認め俺は素直に謝る。ちゃんと非を認めれる俺賢いね。最近の奴らは他人に責任転嫁するからな。
と自分を褒めつつ他人を貶していると登大路が俺を睨んでくる。
「早く用意なさい」
「うい」
鬼のような瞳に怯えつつ俺はそそくさと更衣室へ逃げる。あんな眼力で睨まれたら誰だってビビる。変な汗かいちったもん。
じんわりとかいた冷や汗を頬や首に感じつつ俺は更衣室でさっさと着替えて店内へ戻る。二人でコーヒーを入れている登大路と高畑を他所に俺はカウンター席へ座り本を手に取る。コーヒーの入る音を耳に読む本は不思議と心地よく、スラスラと読み進められる。
案外これも悪くないと思っていると足音が近づいてきたため、ふとそちらへ目を向けると高畑がコーヒーを手に立っていた。
「なんだよ」
高畑は少し頬を紅潮させコーヒーを差し出してきた。
「の、飲んで」
正直コーヒーを飲む気分じゃない……と言いたいところだが、震えてカチャカチャと音を鳴らしているコーヒー見せられたら断れないわ。あ、勘違いすんなよ。俺に飲まれるために淹れられたコーヒーが別の人に飲まれるのが可哀想だからな。
軽くため息をつきコーヒーを受け取って一口飲む。……美味い。前より格段に味がいい。
「どうかな?」
声を震わせ不安げに聞いてくる彼女。前回、平均点とか言われても明るく振舞ってたけど、やはり少し本人としては気にしていたのだろう。
「英検4級から3級になった感じ」
「えーと……」
「上達したってことよ」
意味を理解出来ていない高畑に登大路が補足する。それを聞いて嬉しかったのか、彼女は俺の手を握り笑顔で礼を言ってくる。別に礼を言われる筋合いはない。美味いと思わせたのは紛れもなく彼女の実力だ。
「実力だろ」
無愛想に目も合わせず言う。それでも彼女は礼を言うのをやめなかった。俺は何も返さず静かにコーヒを味わうことにした。
テンションMAXの彼女の興奮を登大路が収めていた。それを気にせず俺は小説を読むことを続行する。
「キメラ君は不器用ね」
登大路はコーヒーを淹れながら俺にそう言ってくる。不器用とかじゃなく率直の感想だ。なんせ俺は人一倍ひねくれているのだからな。
「率直だっつの。てかお前も大概だろ」
「身に覚えがないわね」
俺には覚えしかないですね。だって君、高畑に言いたいこと伝えられてないじゃん。そのくせ強がってるし。不器用以外の何物でもないやん。
「京は不器用なんだね!」
いやだから急に会話に入ってくんな。正直この流れどうでもいいんだよ! 疲れるだけなの! まじで会話苦手だろこいつ。
「急になんだよ」
「京は不器用!」
微妙に台詞を変えて同じことを言うな。絶妙にイラッとくる。しかも満面の笑みの理由が分からん。やっぱ高畑って不思議な奴だ。
「へいへい」
「京は不器用!」
こいつロボットかな? 絶対そうだよね。同じこと繰り返し言ってるよ。やべえって。高畑が狂っちまったよ。誰か助けて。
「てかお客さん来ないねー」
そして急に元に戻ると。もう分からん。
高畑という人物に頭を抱えて本を読むことを再会した時、扉の開く音とベルの音が店内に鳴り響く。三人一斉にそちらへ振り向くと、そこには驚きの人物が立っていた。
「ちっさー。あ、高畑いるじゃん!」
「よっす」
そのギャルは夏休みのあの日、奈良公園で遭遇した奴らだった。高畑は一瞬、表情を暗くしつつもすぐに明るい声で二人を歓迎する。
「やほやほ~! どしたん凪と夏渚」
明るい空気が店内に広がるが、微かに重苦しい空気を感じる。その空気を感じたのか登大路がこちらを見ていた。
高畑が二人を席に案内している様子を見ながら、俺はこの嫌な胸のざわつきを感じて本を自然と閉じた。
——当たりませんように。
そう願って三人を見つめることしか俺には出来なかった。
快晴だった空はいつしか雲が覆い始めていて、その光景がこの雰囲気を助長しているように感じてならなかった。
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