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19話 きっと3輪の花は綺麗とは限らない。

 読んでいただきありがとうございます!

「こんなとこで何してるん?」


 ギャルの一人が高畑に尋ねる。高畑はしどろもどろになりつつ奴らと会話を進めていく。


「いや、えっと、友達とちょっと奈良の観光に……」

「友達……って登大路さん!?」


 ギャル二人が登大路に視線をやり、驚いたような顔をする。まあ無理もないか。なにせ高嶺の花とか言われてる奴がいるんだもんな。ちなみに俺には気付いていない。


「登大路さん、高畑と友達なんすか?」


 もう一人のギャルが登大路に尋ねると彼女は不機嫌そうな表情を浮かべ咳払いをすると、いつもよりトーン低めの声で彼らに告げた。


「人に質問をする前に自らが名乗るべきではないかしら?」

「なんか怒ってる? こわー。あ、うち菟田野凪うたのなぎでーす」

「あーしは榛原夏渚はいばらななっす」


 デリカシーもないし、遠慮もない。とんだモンスターだな。金髪&銀髪って時点でヤバい。いや高畑も同じ類だけど。そもそもなんつー奴らと友達なんだよ高畑。


「高畑ってうちら以外に友達いたんだねー」

「それ。まじ意外っす」

「いるよー。アハハ」


 高畑は何かを言いたそうな表情で二人に話を合わせる。

 なに愛想笑いしてんだよ。友達だったら言いたいこと言えよ。どう見てもお前舐められてんぞ。それがお前の言う友達なのかよ。

 言いたいことは山ほどあった。だが状況的に、彼女の立場的にも発言するのは気が引けた。きっと発言してしまえば、高畑はハブられるに違いない。そういう光景を今まで何度も見て来てるのだから。それに俺……気付かれてないし。


「……急いでいるので失礼するわ」


 登大路がギャル二人を軽く睨みつけ、高畑の腕を引っ張って進んでいく。高畑が引っ張られているから、必然的に俺も引っ張られていることになる。言わずとも分かるよね。でも言うね。痛いです。


「じゃあね! 高畑!」


 そう言って二人は手を振り去っていく。とんだ災難だったぜ。てゆうか俺、最後まで気付かれてなかったな。いや助かったけど複雑だわ。


「なんだあいつら」


 高畑に聞くと愛想笑いを浮かべて首を横に振るだけで何も答えなかった。何故そこで首を振るのか、何故答えないのかという疑念だけが俺の心に残り続けていた。






「ごめんなさい」


 徐に登大路が口を開き足を止めた。高畑を引っ張っていた腕を離しこちらを振り返る。その瞳は普段の強気なものではなく、微かに揺らめいているように見えた。

 何について謝罪をしているか俺は正確には分からなかったが、高畑には伝わったようで左右に首を振って登大路に笑う。


「いいよ」


 そう切なげに言った高畑に俺と登大路は何も言えず、ただその場に立ちすくむことしか出来なかった。俺達が高畑と目線を合わさず俯いていたせいか、はたまた俺達の心情を察したのか分からないが、彼女は取り繕ったような明るい声で話し出す。


「あたしのことは置いといて早く行こ! あ! あそこにスタンプ台あるじゃん!」


 勢いよく走り出した彼女を俺と登大路は静かに見つめることしか出来なかった。だが彼女がそう言うなら仕方ない。さっさと行ってやろう。


「行こうぜ」

「そうね……」


 観光地ならではの楽しげな雰囲気に削ぐあない重い足取りで彼女の後を追う。スタンプ台で用紙を広げ指定箇所にスタンプを押そうとする高畑の背に、言い知れぬ何かの存在を感じた気がしてならず俺は彼女に話しかける。


「無理してないか」


 すると彼女は振り返り首を振った。そして俺の言いたいことを察したのか徐に口を開き、


「友達だからね」


 と呟いた。そして重い空気を変えようとしたのか、彼女は登大路のところへ走り次の目的地を尋ねた。


「次は何処?」

「ええっと春日野ね」

「よし行こう! ほらほら早く早く!」


 その声に登大路は軽く頷き彼女の横を歩き出す。後ろから強めの風が吹いてきたので、俺はそれに押される形で二人について行く。


「春日野ってこれまた遠いな」

「文句言うなし!」

「へいへい」


 地獄耳か。なんで小さく呟いたのに聞こえてんだよ。君はポ〇モンのピ〇シーかな? 1km先に落ちた針の音も聞こえちゃうのかな?

 と心の中で愚痴を零していると今度は登大路がこちらを振り返り指摘してくる。


「愚痴を言わないで来なさい」


 その台詞に俺は何も言わず高畑の横へ走って向かう。もう驚かんぞ。この部活にはエスパーしかいないのは分かってるからな。女は怖いから信じちゃだめだと自分にそう言い聞かせる。だって怖いじゃん。心読むとか俺のプライバシーないやんけ。まあ先生に読まれた時から察してましたけどね。

 と文句を垂れていると高畑と登大路の会話が耳に入ってきた。


「ここら辺登大路って地名だけど綾乃っち関係あるの?」


 いや関係ねえだろ。馬鹿じゃねえの。俺、紀寺だけど紀寺町と関係ないし。高畑だってそうだろ。


「私の父方の先祖がこの地に来て名乗ったらしいわ」


 まさかの関係大あり。馬鹿は俺でした。すいません高畑さん。


「じゃあ全国展開してる登大路ホテルって……」

「私の父が経営している会社よ。本社は祖父の時代に東向北町ひがしむききたまちへ移転したけれど」


 ガチガチのご令嬢じゃないか。だから屋敷とか言ってたのね。納得だわ。というか今までの無礼がバレたら社会的にお陀仏しそうなんですけど。


「ちなみに屋敷は高畑たかばたけの荒池方面よ」

「はえー、すごいね綾乃っちの家って」


 すごいけど……なんかややこしくね? 先祖が登大路に来て登大路を名乗って登大路ホテルを起業したけど本社は東向北町で屋敷は高畑って。なに? なんかの暗号ですか?


「難解だな」

「よく言われるわ」


 誰にや。話す人おらんやろ。あれか? 父親の知り合いの人とか?


「難解? 難解って和歌山とかの?」


 なんか勘違いしてるぞ。会話を引っ掻き回すな。


「それ南海。漢字違いだろ」

「あー……アハハ」


 相変わらず会話下手か。いや会話どころじゃない。語彙力の問題だねこれは。それを愛想笑いで誤魔化すのだからタチが悪い。


「馬鹿なこと言ってないで。ほら、春日野園地が見えてきたわよ」


 登大路の声に俺と高畑が前を向くと確かに見え……てねえじゃん。位置的には間違いないけど人多すぎて見えてねえよ。なにそのフェイント。

 俺が謎のフェイントに疑念を抱いていると高畑は『ホントだ~』と感心した様子を見せている。もう何も言わないでいいや。面倒。


 鴎外の門のすぐ側の交差点の前方には、かの有名な春日大社の参道が見えており数多の人々が、そこへ誘われるかの如く参拝しに行っている。ちなみに俺も行きたい。


「また人多いじゃん」

「奈良は魅力的ってことだよ!」

「確かに」


 嫌味を言ったつもりが一瞬で言いくるめられた。あの高畑にやられたのは少し屈辱だが奈良が魅力的なのは肯定せざるを得ない。高畑、お前良い奴だな。


「ほら行くわよ」


 登大路がそう言って横断歩道を渡り出したので俺らもついて行く。まあ2つ目の横断歩道に引っかかるんですけどね。十字型交差点だから仕方ない。


「人口密度すごいな」

「さっきと言ってること変わってないわよ。余分な二酸化炭素出さないで」


 それしか出ねえんだから仕方ねえだろ。んでディスるな。お前も喋ってんだから本末転倒だろ。


「へいへい」


 まあ論破されるのが怖いのでここは撤退しておくのが吉だ。ここで反論すれば余計にディスられてメンタルが持たなそうだし。

 半ば諦めモードに入りつつ信号が青に変わったため、静かに横断歩道を渡り春日野園地に足を踏み入れる。ガヤガヤしているがまるで先程とは違う雰囲気に息を呑む。


 そして大仏殿や二月堂、若草山の存在感に見惚れていると何故か全てを見透かされているような、そんな気がしてならなかった。

 評価&ブクマ登録お願いします!


 総合ポイントが10ptを越えたので、近日中に紀寺京のキャラ設定を投稿します!

 20ptを越えたら登大路綾乃のキャラ設定です!

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