18話 きっと彼らに陽は当たり続けない。
読んでいただきありがとうございます!
先に言っておきますが、キャンペーン内容はフィクションです!
「やほやほ~! 綾乃っちお待たせ~!」
高畑の一言に登大路がこちらを振り向く。登大路は俺をちらっと見た後、瞼を閉じて小さくため息をついた。
「キメラ君もいるのね……」
「おい傷付く」
俺は咄嗟に切実な思いで返す。いやいや普通有り得ないよね? 会ったら挨拶でしょ? 挨拶代わりに平気で人の心を傷付けるあたり、やはり悪魔に違いないね。俺はそう確信した。
「ほら行こ行こ」
高畑がそう急かしながら、俺と登大路の間に来て腕を組んできた。だからね、そういうのは勘違いする男いるから気を付けようね。
そんな指摘はもう通用しないことを察した俺は大人しく連行されることにした。いや別に? 豊満なお胸の感触とか関係ないからね? ホントホント、ウソジャナイデスヨ。
「高畑さん歩きにくいわ」
登大路が不満を漏らした。いやまじで激しく同意。てか俺に至っては歩きにくいとかの次元じゃない。前回同様、引きずられている。地味に踵が引っかかったりして痛いんですが。あと周りの目が痛い。
そんな俺を気にしてない様子で高畑は登大路と会話を進める。
「いいじゃん! 友達っぽいでしょ?」
「だから私達は友達では……」
……いい加減素直になれよ。もうこの流れは飽き飽きしてんだよ!
「そんな寂しいこと言わないでさ!」
高畑にそう言われ言葉に詰まる登大路。顔は見えないが、頬を紅潮させ満更でもない表情をしているのはなんとなく予想出来る。どんだけ不器用なんだよ。
「それで今日の用事は?」
あ、まだ言われてないのね。そんなんでよく来たな。
「今日は奈良公園でキャンペーンがあるんだ!」
クスッと笑いながら目的を告げる高畑。そして相変わらず俺はガン無視。まあ柔らかなものがあるのでいいですけど。てかまだつかねえの?
「高畑まだ?」
「もう少しだから待って」
「ん」
無愛想に問うと高畑は子を諭すような口調で俺に答える。俺はガキじゃねえぞ。身長179cmのガキ怖えだろ。てか179cmの男引きずれるって怪力すぎね?
そして今の会話に驚いたのか登大路は高畑に心配そうに話しかける。
「もう大丈夫なのかしら?」
「え? ああ、うん! ちゃんと仲直りしたよ! ね?」
「ん」
高畑はその返答に満足したのか、またクスリと笑う。よく笑う子だね。まあ笑ってる時の方が可愛いから問題ない。……顔見えないけど。
登大路も安堵したのか『そう』とだけ答える。その後は特に会話もなく俺は引きずられていく。だから踵が痛いんですってば。まあ言ったところで効果ないから言わないけどね。無駄な足掻きはやめておこう。
雲一つない青空で煌びやかに輝く太陽は普段なら鬱陶しいことこの上ないが、今は少しもそうは感じなかった。その太陽を意味もなく見つめたまま、俺は奈良公園へと連行されていく。
「とうちゃーく!」
高畑の一声と、大勢の人々から生じるガヤガヤとした音、鹿さんの鳴き声で奈良公園に到着したことを自覚する。同時に俺と登大路は高畑から解放された。やっとだよ。もう疲れた。ちゃんと地に足ついたのが久しぶりに感じられ、妙な感覚に陥る。
……実は少し名残惜しかったのは隠しておこう。
「それでキャンペーンの内容は?」
登大路が軽く咳払いして問いかける。俺も気になるため黙って聞き耳を立てておきながら、鹿さんを視線で愛でる。……なんだよ。ほっといてくれよ。別にいいだろ。これこそオレ流なんだ。鹿さんは神聖な生き物、神の使いとして昔から奈良では崇められているからな。
とドヤ顔で蘊蓄を延々と一人で披露していると高畑が説明を始めた。
「なんか奈良公園内に4つスタンプが設置されてるから、それをこの紙に押すの! そしたら景品がもらえるんだって!」
と用紙を俺達に見せびらかしながら無邪気な様子で目を輝かせ話すその姿は、とても子供っぽかった。まあ一部を除いて子供だからあながち間違いではないな。ん? 別にセクハラじゃねえぞ? 本人にバレなきゃ問題ないのだ。
「じゃあ行くか」
そう言って歩き出すと誰かに腕を掴まれる。なんだよ、と思って振り返ると犯人は登大路だった。見れば右手で俺の腕を掴みながら、左手ではなにやらスプレー缶を振っていた。
「虫に刺されてはいけないわ」
そう呟いた直後、俺の全身にスプレーをかけ始める。シュー、というけたたましい音は不快だったが、どうやら冷却効果もあるようで全身が涼しく感じたため不快感も自ずと消えていった。
自分や高畑にかけ終わると、俺を見てなにか言いたそうな顔をしてくる。
「……なんだよ」
「キメラ君は鹿が好きなのかしら?」
愚問中の愚問。奈良県民で鹿が嫌いな人はいない! むしろ好きな人だらけだろ! (あくまで個人の意見です)
「好きだが?」
「私もよ」
いや知らんがな。急になんやねん。分かっちゃいたがこいつも会話下手くそだな。ちなみに俺も。
「へー」
「さ、行きましょうか」
結局何が言いたかったんだよ。
その疑問はぶつけずに高畑と登大路について行くことにした。別に答えなんか求めてないし。てか知ったところで特に意味はなさそうだからな。
「京、はよおいで!」
またしても子供扱いされた気がしてムッとする。ガキ扱いされると反骨心が芽生えてしまう。俺はジト目で高畑に反論する。
「ガキ扱いすんなよ……」
高畑は笑いながら軽く謝罪してきて、余計ガキ扱いされてるようでさらに反骨心が育つ。さっき芽が出たとするなら、もう今は蕾ぐらい。もうすぐ花咲くぞ。
「その発言が子供なのよ」
登大路が横から水を差す。何故だろう、ご尤もに感じてしまい反論できない。
「大人ぶってるお前も大概だろ」
辛うじて言葉を捻り出すが、登大路は何も言わなかった。高畑はそんな俺を気遣ってか何か考え事をしているようだ。そして何か思い付いたのか、俺を見て口を開いた。
「アイス買ってあげるから機嫌直して?」
「そういうとこ」
無愛想に返すとまた考え始めるが、どうせ大したことはなさそうなのでスルーして歩き出す。登大路はマップを見ながら俺達に提案してくる。
「まずエリアが登大路、荒池、春日野、猿沢池に分けられているわ。つまり、いかに効率よく回ることが出来るかが勝敗の鍵を握っているということね。それから……」
すんごいガチじゃん。いや別にいいけどさ。ただ長い話を聞いていると頭がパンクしそうになるため、シャットダウンしておこう。高畑は聞いてはいるけど理解出来てない様子だ。
「で、どう行くんだ?」
「ゴールは近鉄奈良駅内の観光案内所ね。つまり現在地である登大路園地から春日野、荒池、猿沢池の順で行くのが効率が良さそうね」
登大路が歩き始めたのを受けて、頭上にクエスチョンマークを浮かべている高畑の腕を引っ張ってついて行く。一瞬、高畑の頬が赤く染まっていたが特に気にしない。暑いから顔ぐらい赤くなる。気にしたら負け。
「何処かしら」
登大路がそう呟いて立ち止まったので、俺も高畑の腕を離してその場に止まる。高畑はキョトンとした様子でこちらを見ている。なんか様子が変だな。
「高畑、どうした?」
顔を覗き込んでそう聞くと、高畑は顔を逸らして手を顔の前でバタバタと振りながら必死に答える。
「え、いや、だ、大丈夫!」
若干、心配しつつ本人がそう言うなら大丈夫だろうと思い俺もスタンプ台を探すが見当たらない。というか人が多すぎて全体が掴めない。これは大変だぞ。
「特に人が多いあそこ行ってみようよ!」
高畑が指さした場所は確かに多くの人が密集していた。人が多いところは苦手なんだけど。
「じゃ、俺は入口の方で……っておい!」
「いいから!」
この子は話し合いって知らないのかな? それとも拒否権ねえよタイプ? どっちにしろ悪質極まりないわ。
高畑に本日二度目の引きずりを食らわされながら、そう心の中で毒を吐いてやった。相手に聞こえないっていうのがチートだよな。好き勝手言えるし!
と余裕綽々で勝ち誇っていると、高畑が急に俺に語りかける。
「余計なこと考えちゃダメだよ?」
「な、なんのこと?」
お前もエスパーなんかよ。いちのせプロジェクトの関係者って怖い人ばっかじゃねえか。なんでこんな部活入ったんだろ。いや強制的だったわ。
と色々諦めて視界に映る鹿さんを見つめる。鹿さん、可愛いね。
「あれ~? 高畑じゃね? おーい!」
その声に三人で一斉に首を向けると、そこにはギャル二人の陽キャアンハッピーセットが存在していた。
「あ、二人ともやほやほ~……」
なんでそんな元気ねえんだよ。友達なんじゃねえの? お前と一緒で健康に悪そうな髪色してるじゃん。
そう思って高畑の表情をちらっと覗くと、何故か作ったような笑顔で接していて、その表情は何処か切なげで見るに堪えないもののように感じた。
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みなさん、奈良公園ってエリアに分かれてるの知ってました? 意外と知らない人が多いんです!