17話 きっと高畑怜奈は普通じゃない。
読んでいただきありがとうございます!
今回も登大路は出番ないですが、そのうち登場させます(*^^*)
俺が高畑にトラウマを告白したあの夜以降、これといって何もなく夏休みは中盤を迎えていた。クーラーのおかげで室内は快適だが、外は見るからに炎天下で眺めているだけで喉が渇いてくる。いやはや夏の昼間ほど憂鬱な時期はないと言える。
テレビの天気予報では奈良の最高気温は36℃と言っていて、やはり盆地だなと再認識させられる。ここまで来ると盆地といえば奈良! って日本中の人に知ってもらいたい。若草山からの夜景は新日本三大夜景だぞ! いや山梨の甲府盆地もだけどね……。
と一人で蘊蓄を語っていると、着信音がスマホから流れる。相手を確認すると高畑だった。いや分かってたけどね。あの夜以降、ほぼ毎日電話かかってくるからさ。仕方なく応答をタップすると独特な挨拶が俺の耳を劈く。
『やほやほ~!』
声が相変わらずでかいのよ君は。そのうち鼓膜潰れそうだわ。
と文句を心の中で垂れながら彼女に挨拶を返す。
「はいはい、こんにちは」
『も~! もっと元気にいこうよ!』
と不機嫌そうな口調で話す。実際の声色は楽しそうであるが。てかさ夏だよ? そんな暑苦しいのこの季節には不要なんだよ。気付いて?
「で、何の用?」
さっさと切りたい俺は言外に急かすが、彼女がそれを読み取れるはずもなくのんびりと話し始める。
『いや~暇だったからさ~』
実際には察していたが俺はため息をつく。なにせ毎度毎度この理由でかけてくるのだ。迷惑この上ない。君の気分によって、一人の犠牲者が出る件についてどう思ってるんすかね?
とボロカスじゃない程度に罵っておきつつ、結局話に付き合おうと思っていると、彼女が急に大きい声で何かを思い出したような反応をする。
『あー!』
「うるせえよ!」
俺が怒鳴っても彼女は意に介さず話を続ける。これだから陽キャは。電話の時の声量ぐらい普通にしてくれよ。陽キャはただでさえ学校じゃうるさいんだからよ。……いやまあ高畑は知らんけどさ。
『京、明日空いてる?』
「明日? まあ空いてるけど」
『この前のリベンジしようよ! 三人で!』
この前? あー、俺のせいで雰囲気悪くしちゃったやつね。いやもう本当に申し訳ないな。いくらトラウマだったからといって、女子を泣かせたのは流石になあ。
と罪悪感に苛まれながら、めんどくさいが迷惑をかけた手前断るなど出来ず渋々提案に応じた。
「いいけど……。結局どこ行くんだよ」
前々からの疑問を彼女に尋ねると、ふっふっふと怪しく笑って質問で返してくる。
『何処だと思う?』
「じゃあな」
めんどくさいので切断しようとすると、またしてもあの耳障りなでかい声が聞こえてきて謝罪し始める。
『ごめんごめん、教えるからさ~』
とても反省してるようには聞こえないが、いちいち反応するのも癪なので彼女の返答を待つことにした。
『いや~奈良公園行きたかったんだよね~』
その答えを聞いて唖然とする。いや前回は頑なに教えようとしなかったから、どっか特別な店かと思えば奈良公園って。まあ普通にいいとこなんだけどね?
「なんで前回教えなかったんだよ」
不機嫌アピールしながら言うと彼女はキョトンとした声色で俺に問いかける。
『あれ? 言ってなかった?』
「しばくぞ」
あまりの天然さに少しイラついて咄嗟に脅してしまう。しかし彼女は怖気づいた様子もなく話をどんどん進めていく。いい意味でも悪い意味でも話を聞かないんだよね、この子は。
『おかしいな。まあいいや。でね、奈良公園で今キャンペーンやってるらしいんだ~』
「それに参加したいと」
彼女より先に答えを言うと、察しが早いとかなんとか言って褒めてくる。大体の人は分かると思いますがね。しかし問題は登大路が来るか否か。
「登大路は来れんの?」
『まだ確認とってないけど、来れなかったら二人で行けばいいかなって』
いや無理無理。それなら登大路と二人で行けばいいだろ。女子と二人ってちょっと流石にキツいっす。
「それなら二人で行ってこいよ」
『いやね、明日までなの』
彼女はさも当然のように淡々と告げたため、俺は普通に流しそうになる。が、しかし逃さない。叩けるところは徹底的に叩いてやらねばな。ふっふっふ。
「なんでもっと早く言わねえんだよ、馬鹿」
「ひど! 仕方ないじゃん! 忘れてたもん!」
彼女は弁解しようと精一杯の抗議をしてくるが、所詮ただの言い訳に過ぎない。普通はそういうの忘れないよね。行きたいなら尚更だ。
「とにかく登大路に確認しとけよ」
そう言うと高畑は元気に返事した。小学一年生の朝の会みたいなノリで。
「あ、大和西大寺に昼の1時ね!」
「へいへい」
受け流すように返事して電話を切る。まあ登大路なら来るだろ。暇そうだし。てか奈良公園でキャンペーンってやってたっけ? まあなんでもいい。
と特に意味もなく色々考えた末に俺は目を瞑った。答えを出す必要のない思考ほど無駄なものはない。そのまま俺は意識を闇の中へ落とした。
俺はハッとして目を覚ます。ふと外を見渡せば辺りは闇に包まれていて、テレビではニュース番組が映し出されている。なるほど夜まで眠っていたらしい。スマホを起動させ、時刻を確認すると既に23時を過ぎていた。
「寝過ぎたな……」
ボソリと呟きながら俺はリビングに移動する。何か軽くお腹に入れておく方がいい。そう判断して冷蔵庫へ手を伸ばす。そして大好物のチーズをひとつ取って食いながら部屋に戻る。
ベッドに寝転がって天井を見上げるが、特にすることもなく俺はテレビを消し寝ることにした。瞼を閉じて暫くすると、ある人のことを思い出してしまう。その人は常に俺に言っていた。
『身近なものこそ大切にしないとダメだよ』
その言葉の真意を当時の俺は汲み取ることが出来なかった。無論、現在進行形でも。だが汲み取る必要はないに等しい。なぜなら彼女は俺を裏切ったのだから。
「佐紀さん——」
ふとそう呼んで静かに一滴の涙を流して意識を再び闇の中へ落としていく。その涙が生理現象で発生したものだと信じながら——。
ガヤガヤとしたホーム、俺はエスカレーターで橋上駅舎へ向かう。そしてほぼ右端のコンビニへ向かうと彼女は既に到着していた。自分で言うのもあれだが、俺は身長が比較的高いため高畑にすぐ見つかる。
「京遅い~!」
笑顔でそう言いながら俺の背中をバシバシ叩いてくる。遅いと言われるが、時間には間に合っている。なんなら15分前だ。
「いや高畑が早いんじゃねえの?」
そう指摘すると、少し顔を赤らめて髪をくるくると弄りながら俺を見上げる。そして様子を伺うように口を開いた。
「そりゃ……会いた……から……」
後半の方はよく聞こえなかったが特に気にせずホームへ降りる。そして彼女もちょこちょこと俺について来る。
ホームに電車がやって来たのを確認してダッシュで階段を下り電車に乗り込む。相変わらず車内は満員で必然的に高畑と密着してしまう。豊満なお胸が腹部に接触していて少し平常心を失いかける。ふと高畑を見下ろすと、彼女も俺を見上げていて目が合うが、すぐに目を逸らされてしまう。俺なんかしたっけ? 避けられてる?
と謎の空気によって互いに無言を貫く中、俺は豊満なお胸の感触を意識しながら電車が発車するのを静かに待った。
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