13話 きっと彼女達は後ろに進まない。
今回も読んでいただけて嬉しいです! ありがとうございます!
余談ですが、これ奈良が舞台なんですよね。いつか吉野の方も登場させたいです。
今日何度目か分からない欠伸をしながら、俺は忌まわしきカフェへ足を運んでいた。登大路から鍵は預かっているので、特に問題なく店内へ足を踏み入れる。まだ開店時間まで余裕があるのを確認し、適当に入口に近いカウンター席へ腰掛ける。
……暇だ。いつもなら性悪傲慢王女と天然鈍感ギャルが俺に絡んでくるが、今日はその二人がいないためかやけに静かだ。いやそれでいいのだが。
しかし急ではあるが、まさかこの部活に仮とはいえ部員が入部してくるとは驚きだ。なんせ二人でやっていくもんだと思っていたからな。まあ俺らの緩衝材としてはうってつけだし歓迎してなくもない。
あ、そういや明日から夏休みだな。ゲーム三昧やっほー! ……てゆうか結局、一週間の間に来たのは高畑だけだったな。もう夏休み明けが正念場だよな……。
とあれやこれや考えていると、ベルの音色と扉の開く音が俺の耳に届き、視線をやると例の二人がいた。
「やほやほ~!」
独特の挨拶だな。俺がそんな陽キャのノリについていけないと知っていながらこの対応、高畑は悪魔である。『おう』と目線も合わせず返すと、それに満足したのか笑顔で頷く。
「さてと開店準備に取り掛かりましょう」
その声を合図に俺達は更衣室に向かい、準備に取り掛かった。いやはや面倒極まりない時間が始まりを告げた。
蒸し暑い店内で汗を額に浮かべながら、俺達は各々の作業を進めていた。俺は食器の整理、登大路は高畑にコーヒーの入れ方を指導、高畑はそれを熱心に学んでいる。開店中にも関わらず、俺しか真面目に働いていない。まあ一人で事足りるから構わんがな。客が来ないし。
と文句に似ても似つかぬことをボヤいていると、高畑が俺を名指ししてくる。
「京! コーヒー入れれたよ!」
はいはい、そりゃよかったね……ってなんだか期待の眼差しで俺を見ている気がする。多分俺から言ってほしいんだろうな……
「……毒味しろと?」
少し意地悪に期待に応えると、頬を膨らまして抗議しつつコーヒーを差し出してくる。
「言い方! はいどーぞ」
まあせっかくだ、飲んでやろう。
カップを手に取り匂いを嗅ぐ。ふむ、いい匂いだ。少し大人な匂いが鼻をくすぐる。そして口をつけ、喉に流していく。決して甘くない味わい、鼻を抜ける匂い、この飲みやすさ、文句のつけようがない。が、何か足りない。まあ俺は素人だから当てにならんがな……。
「まあ美味くねえこともねえ」
「そんな曖昧に言わないではっきり言ってよ!」
とは言うがはっきり言ったら怒るでしょ? 『京のくせに生意気!』とか。
しかし言わねば面倒なので仕方なく俺は重い口を開き講評を伝える。
「んじゃまあ……基本的に問題はないと思う。普通に美味い。だがあくまで普通だ。テストで言うなら平均点」
高畑は少し俯く。まあ必死の努力を普通と言われればテンションは下がるだろうな。しかし高畑はすぐ顔を上げ苦笑を浮かべた。それは何かを誤魔化すかのように見えた。
「あはは、やっぱ最初は上手くいかないね」
彼女の発言は至極もっともだ。それは間違いないといえよう。だがしかし、なぜか俺には一種の甘えのように感じた。それは登大路も感じたようで、彼女の横に立ち静かに語りかける。
「貴方、その気持ちで次もやるつもり?」
高畑には予想外の台詞だったのか、キョトンとした表情で登大路を見る。
「えっと……」
「それじゃあ成長は出来ないわ」
高畑はきっと優しい台詞を望んでいたのだろうが、その考えも甘えでしかないのだ。だが彼女がこれを登大路なりの激励であることを見抜けなければ、その言葉が現実になるに違いない。まあどう転ぼうが俺にすれば対岸の火事でしかないが。
「そうだよね……綾乃っちの言う通りだよ……」
戦意喪失……彼女もここまでか。登大路がこんなへっぴり腰認めるとは思えんな。あと何気に呼び方変わっとる。
しかしその予想は彼女の表情によって打ち砕かれた。
「……そうだよね! 向上心? ってやつだよね! よーし次は京をギャフンと言わせるぞー!」
また俺飲まされるのかよ……。まあ登大路の真意を読み取れたのであれば上出来だな。そこらの有象無象ならば辛辣な指摘と捉えかねんし。いやはや全く、登大路も不器用な奴だな。
「お友達同士キャッキャウフフするのはいいけど、仕事中だぞ。忘れんなよ」
俺が二人を見ながら言うと、登大路が赤面し全力で否定してくる。
「そ、そんな低俗な関係じゃないわ! あくまで業務に差し支えのない——」
「へいへい」
面倒なので早々に会話を強制終了させる。全く……お前らはもう友達だろ。反青春及びそれに関するものを敵視する俺でも分かるんだからな。お前みたいな性悪傲慢平等主義王女はな、友達じゃない奴に激励しないし、他人にそんな優しい眼差しを向けねえよ。
あれ? こいつ友達つくらないって言ってたよね? 抜け駆けしてるやん。欲しかったんじゃん。読み当たってたんじゃん。
「いやあ今日も楽しかったね!」
駅までの帰り道、高畑が満足そうに口を開いた。何に満足したのかは知らんけどな。
「でも結局、コーヒー出せなかったな。客来なかったから」
俺がそう返すと高畑は笑顔で首を横に振った。そして俺を指さして、それを訂正した。
「それは違うよ? 京、飲んでくれたじゃん!」
それはまた話が変わってくるでしょうが。いや飲んだけども。まああの雰囲気じゃとてもじゃないけど断れないもんな。陽キャこえー。陰キャに対するパワハラだね☆
「パワハラみてえなもんだろ」
思わず本音を漏らしてしまうと、高畑は登大路に『京がいじめてくる』とか言って助けを求めやがった。登大路は俺を睨み威嚇してくる。
「その腐った眼、矯正してあげましょうか?」
いやあのそんな腐ってないと思うし、貴方の言う矯正も闇が深そうなので遠慮しときますね。
「いや俺の眼は関係なくね?」
「眼? あのコリコリしたやつ?」
「それは海鼠」
変なところで反応し、かつ謎の勘違いを起こす高畑に思わず俺はツッコミをかましてしまう。まあこれが関西のノリだよな。
間違ったのが恥ずかしかったのか、彼女は頬を人差し指で掻き苦笑している。陰キャに指摘されたら恥辱でしかないだろう。
「そういえば明日から夏休みだよ! みんなでどっか行こうよ!」
藪から棒になんだよ。てか行かねえよ? 陰キャは陽を浴びると死んじゃうんだからね?
「却下」
冷たく言うと、高畑が不機嫌そうに頬を膨らまして噛み付いてきた。
「即答! なんで!」
「陰キャは陽を浴びると死にます」
高畑はキョトンとした様子で俺を見つめる。そして数秒後に心配そうに狼狽し始めた。
「え……! 嘘! 京、死ぬの!?」
いや嘘に決まってるでしょ。なに本気にしてんだよ。分かってはいたが、高畑は重度の天然だな。
と面白がっていると登大路が俺を見て嘲笑った。
「さようなら」
あ、目がガチだ。この二人は別の意味でお互い本気にしてるね。一名、残酷ですし。これはもうね、悪魔の申し子といっても過言じゃないね。
「悉くしんどいわ」
登大路に嫌味たらしく告げると、登大路が俺に勝ち誇ったような笑みを向けていた。
腹立つ。
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