12話 きっと部活は捗らない。
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「諸君、集まったな」
先生は俺達三人を順番に見て言う。相変わらず偉そうに腕を組んでいる。その上から目線な態度が正直、癪である。
「何をするか、紀寺分かるか?」
……分かるわけないでしょ。そんなこといきなり聞かれても。
というのも、俺達はいちのせCafeではなく部室に召集をかけられていた。昼休みに急に先生から連絡があり、今日は部室に来いという旨だった。
答えなければどうなるか、それは分かりきっているので必死に思索する。が、探せば探すほど答えは出ない。しかたなく適当にそれらしい意見を出し、保険をかけることに徹する。
「……ミーティング的な?」
「惜しいな」
先生は俺を見て軽く首を左右に振った。まあ正解とは思ってなかったけど。そして視線を登大路に向けて問う。
「登大路は?」
勝ち誇ったように俺をちらっと見ると余裕綽々といった様子で答えた。
「誰でも分かると思いますが……反省会ですね」
「その通りだ」
こいつイライラさせやがって。『誰でも分かる』とか分からなかった人の前で言うのはタブーだろ。性悪傲慢王女にグレードアップだな。おめでとう。
「早速、意見を出してもらおう」
いや出さなくても分かるだろ。100人中100人が同じ意見出すに決まってる。気付けよ。
とジト目で先生を見ていると、それに気付いたのか俺を名指ししてきた。そういう気付けじゃないんだけどなあ。
「なんだ紀寺? その目が潰されたくなければ、早く意見を出せ」
潰すて。物騒すぎじゃないですかね? 教師のセリフじゃないと思います。そんな暴君チックだから男出来ねえんだよ、ばーかばーか。
と静かにイキリつつ、それが現実になるのを恐れジト目をやめて真面目に意見を出すことにした。
「いやまあ満場一致だとは思うんですけど、やっぱり先ずは外観ですよね。あんなボロいんじゃ近寄りたくないでしょ。そこが現時点での反省点かと」
それを聞き、先生は思案の体制に入った。何を悩むことがあんだよ。珍しくまともなこと言ったのに。
と仕打ちに不服を示そうとすると、ちょうど先生は何かを決心したように俺たちを見回す。
「まあそうだな。よし、一つ提案だ。」
先生は稀に見せるあの真面目な表情で、俺達の前に椅子を持ってきて座った。その様子を怪訝そうに見る登大路と高畑。まあ怪しいよなあ。
二人と同様に怪訝に思いながら先生を見て、非戦略的なんだろうなと俺は予想するがそれは見事に外れた。
「改装工事を行おう。もう業者には連絡してある」
いや決定してるなら提案とは言わないだろ。日本語を勉強してください。
まあ先生にしては正当な意見、しかも行動が早いと来た。普段とは大違い。いざという時はまともなのに、なんで普段はああなんだろう。これは現在の科学をもってしても解き明かせないだろうな。いやワンチャン、未来の科学技術でも……って余計なこと考えちゃダメだ。
「改装っていうか、修理だよねー」
笑いながら高畑が口にする。なんつータイミングで会話に入ってきてんだ。それにもうちょい良い言葉あっただろ。どうせ陽キャで友達多いだろうに、いくらなんでも下手じゃね? 流石の先生も愛想笑いしてるじゃん。
「工事の期間と開始日をご教示願います」
登大路はそれを意に介さず、淡々と発言した。流石、性悪傲慢王女だ。良くも悪くも空気をぶち壊す天才。
「そうだな……一週間後、つまり夏休み初日からだな。期間は1ヶ月だ」
ちょっと待て。1ヶ月って夏休み丸々じゃねえか。開店したばっかなのにこんなことってある? いや俺からしたら面倒だから助かるけど。
「えー! 夏休み丸々じゃん!」
高畑が口を尖らせて不服そうにする。まあ君からしたらそうなるよね。だって勉強しに来たんだもんね。
「1ヶ月、私と高畑さんにどうしろと?」
うん、俺も入れて。ぼっちは慣れてるけど流石に傷付く。俺は高畑にこっそり耳打ちする。
「あんな奴、友達にならない方が身のためだぞ」
「え? どういうこと?」
いや察しろ。口に出したら傷が広がるからオブラートに包んだのに! 高畑を密かに恨みながら、『ダメだ』と思い会話を切り上げ、先生の返事を待つ。
「君達の修行期間としよう。いわば機能回復訓練」
それは鬼を滅する刃の話。しかも意味が噛み合ってない。ちゃんと読み直してきなさい。
「なんかよく分かんないけど、楽しそうだね!」
……高畑、お前黙ってろ。明らかに無視でいいところを拾って、場を引っ掻き回すな。しかも楽しくない、むしろきついぞ。可愛い女の子にお茶ぶっかけられる。
「なんだか曖昧模糊ですが……要するに備えておけばいいのですか?」
「その通り」
普通に言えばいいのに。曖昧な言い方をして困らせないでほしいものだ。そのノリじゃあ、もうしばらく独身だろうな。
と馬鹿にしていると、例の恐ろしい目で俺を睨みつけてきた。
「また余計なこと考えてたろ?」
「い、いえ? そんなわ、わけないですよ……アハハ」
そんなに額に青筋立てて怒らないでください。俺が悪かったですから、ごめんなさい。しかしまあ安定のエスパーだね。定期的に発動するのやめてください。
「……ごほん。まあそんなわけで以上だ。では私は会議があるので失礼するぞ。まだ時間はあるし、ゆっくりしていくといい」
そう言って、先生は足早に立ち去っていった。先生が廊下を歩く音が聞こえているが、次第に遠くなり聞こえなくなったタイミングで高畑が口を開いた。
「京ってさ、LINKやってる?」
なんだよ、藪から棒に。LINKぐらいやってるわ。LINKってのは例のメッセージアプリだ。ちなみに俺が登録しているのは親戚と先生だけ。
「やってる」
なんか嫌な予感がして無愛想に顔を見ずに言ってやった。が、奴はそれを汲み取らず嫌な予感は的中した。
「じゃあさ、交換しよ!」
「いや遠慮しと——」
喋ってる途中で高畑は急に立ち上がり、俺の胸ポケットのスマホを強奪した。もちろん俺は何とかスマホを取り返そうと手を伸ばす。
「おい、俺のプライバシーを返せ!」
「いいじゃんか~」
そう言って手際よくスマホを操作し、登録されたことを示す通知音が鳴った。
「はいどーぞ!」
笑顔で俺にスマホを返してくる。その時に高畑が前屈みになったため、ちょうどお胸の谷間を拝見してしまった。仕方ない、イラッと来てたけどその豊満なお胸に免じて許してやろう。
……そういうお年頃なんだよ。そりゃ胸に興味あるだろ。健全な高校生だもん! 胸は好きだよ!
女嫌いなのに胸は好きというパラドクスは知らない。
「はい、綾乃も!」
LINKの通知音と高畑の声で正気を取り戻す。どうやら俺が胸に興味を示している間に、性悪傲慢王女とも交換したようで、彼女の様子を伺うと満更でもなさそうだった。
登大路のその様子が滑稽でバレないように見ていると高畑が興奮気味で口を開いた。
「三人のグループつくって招待したから入って!」
グループだと……!? グループってあの、大人数で共通の話題でキャッキャウフフするあれか!? 少し目を輝かせ、LINKの画面を見ると確かに招待されていた。
まあ仕方なくだぞ? 仕方なく俺は参加をタップする。
「これで夏休み中も連絡取れるね!」
本日一番の笑顔でそう話す彼女を見て、俺は不思議と不快感を感じることはなかった。むしろ胸の鼓動が高鳴っているのを僅かに感じて、もう一度LINKの画面を眺める。
部室を通り過ぎたやや強い風に、俺は少し頬が緩んでしまった。
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