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比翼の鳥なんてお断り ~私の前世は小説に書いてある~  作者: 海土 龍
その後の話

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【20歳 如月その3 バレンタイン】


 2月3週目の日曜日。東京競馬場。

 本日の目玉は、GⅢレースの共同通信杯なのだが、バレンタインステークスも行われる。


 ――そう。世の中は、バレンタインである。


 購入しただけのチョコならいらないと隆哉に言われたので、毎年、板チョコを用意して、溶かしたり、型に流し込んで固めたりしている。

 中学生の頃は本当に溶かして固めただけのチョコで、ぶっちゃけ、板チョコが形を変えただけの品物だった。衛生面を考えれば、板チョコのままプレゼントした方が良いのではないかと思ったものだ。


 競馬学校の課程生になると、寮でチョコ作りをするわけにはいかず、隆哉が借りたマンションで本人を目の前にして作る必要があった。

 なので、ホットケーキミックスに溶かしたチョコを混ぜて、電子レンジでチンすれば簡単にできるという マフィンを3年連続で作った。

 ちなみにレシピを教えてくれたのは、早苗だ。


 そして、競馬学校卒業後は炊飯器で作れるガトーショコラを2年連続で作っている。

 材料が卵とチョコだけというお手頃さが良い。

 卵白を泡立ててメレンゲをつくらなければならないところは面倒だけど、そこはハンドミキサーを使えば、わりとあっという間だし、何より小麦粉や砂糖を使っていないところがカロリー的に良い。

 使うチョコを変えたら、甘さを抑えることができてもっとカロリーを減らせるかもしれないけれど、そこはミルクチョコ一択だ。

 だって、甘くないチョコは苦い。


「亜希ちゃん、次のレースまで時間がないよ。早く着替えて」


 レースを終えて調教師の池野のもとに戻って来ると、開口一番にそんな風に言われて亜希はエルダーグリームの背から降りた。

 エルダーグリームは栗毛の4歳馬だ。先程の4歳以上1勝クラスのレースで、クビ差で2着だった。


「惜しかったなぁ。仕掛けるのが少し遅かったか」

「届きませんでした。すみません」


 エルダーグリームの馬主が歩み寄って来て、残念そうに声を掛けてきたので、亜希はぺこりと頭を下げた。


「1着のハトノユイノが強かったんですよ。体が出来上がっていましたから。エルダーグリームは次こそ勝てると思います」


 池野が割って入ってきて、亜希に向かって後ろ手を振った。エルダーグリームの馬主は話し出すと、かなり長くなるタイプだった。

 亜希は馬主が池野と調子良く話し出したのを見て、ぺこりと頭を下げてから更衣室に向かって走った。


 勝負服というものがある。

 これは、時速60kmを超える速さで疾走する競走馬たちを見分けるためのものである。

 故に馬主によって勝負服のデザインは決まっているので、騎手はレースごとに勝負服を着替える必要があった。

 もちろん、同じ馬主の馬に騎乗するのであれば、着替えは不要だ。

 そして、同じレースに同じ馬主の馬が複数頭出走する場合は、騎手たちは同じデザインの勝負服を着ることになるので、ヘルメットの色――帽色で馬を識別する。


 ちなみに、帽色は枠番で決まっている。

 枠番というのは、レースのスタート地点にゲートと呼ばれる枠があって、どのゲートから発走するかを示す番号のことだ。

 このゲートに、2頭ずつ割り当てられているので、偶に同じ馬主の馬が同じ枠番になることがある。

 そうなると、勝負服も帽色も同じになってしまうので、馬番が後ろの方が染め分け帽を着けることになっている。

 

 亜希が緑色に黒い縦縞の入った勝負服に着替えて池野のもとに戻ろうとしていると、まったく同じ勝負服を着た藤崎と鉢合わせした。


「7レース?」

「うん。一緒?」

「一緒。石浜さんの馬?」

「ビックビーチ」

「俺は、スカイビーチ」

「知ってるー」

「俺も知ってた」


 ふふふっと亜希が笑みを零すと、藤崎もハハハッと笑った。


「石浜さんって、若手にチャンスをくれるから良い人だよなぁ」

「うん。期待に応えなきゃって思う。――ビック、調子良いよ」

「スカイだって」

「じゃあ、石浜さんの馬が1着と2着取っちゃうかもね。もちろん1着はビックで」

「スカイだろ」


 若手騎手にはハンデを与えられるとしても、やはり多くの馬主はベテラン騎手を選ぶ。多額の金が左右するシビアな世界だからだ。

 そんな世界で、石浜という個人馬主は、敢えてデビュー数年目の若手ばかりを選んで騎乗依頼をしてくれる心優しきおじいちゃんだ。

 勝てた時には、孫を相手にするかのように褒めてくれるし、負けた時でも『頑張ったなぁ』『前のレースの時よりも上手に乗れたなぁ』と言って労ってくれる。

 ある程度、経験を積んだ騎手でも相性の良い馬がいれば、石浜さんがずっと騎手依頼を出し続けてくれるようだし、亜希もビックビーチが引退するまでずっと乗り続けたいと思っている。


(でも、まずビックに2勝目をあげてやらないと!)


 この後すぐに始まる7レース目も4歳上1勝クラスのレースだ。

 ここで勝たなければ、2勝クラスに上がれないし、3勝クラスに勝ってオープンクラスにならなければ重賞に出られない。

 レースの賞金は、どうしたって上位レースの方が高額だ。競走馬が長生きするには自分の飼葉代くらい自分で稼いで貰う必要があるので、賞金額の少ないレースをたくさん走るか、重賞レースを狙って走ることになる。

 どちらがより馬の体を酷使するのかは想像に易く、結局、体を酷使し続けた馬は長生きができない。つまりは、勝ち上がるしか選択肢はないのである。

 ところで、と藤崎が話題を変えてきた。


「森内から聞いたんだけど、ストーカーの正体、知り合いだったんだって?」

「あー、うん。知り合いっていうか、知り合いなんだけど。知り合いの弟っていうか……」

「はぁ」

「少しややこしい」

「今日も来てたぞ」

「えっ、ほんと!?」


 律子の弟の浩輝は、相変わらず亜希を目的に競馬場に足を運んでいるようだ。

 だが、東京レースが始まってからは隆哉の迎えがあるので、中山の時のように付け回されてはいない。


「今日も旦那が迎えに来るのか?」

「うん」

「なら、大丈夫だな」

「心配してくれてありがとう」


 藤崎に向かって片手を振り、亜希は池野のもとに戻る。

 エルダーグリームの馬主がまだ池野の隣に立っていて、ひたすら話し掛けていたが、ビックビーチが調教助手に手綱を曳かれてやってきたので、さすがに察して去って行った。


「亜希ちゃん、ビックのことを頼むよ」


 亜希がビックビーチに騎乗したタイミングで石浜が現れて、ビックビーチの首を愛おしげに撫でた。

 このおじいちゃんは本当に馬が好きなんだなぁ、と分かる触れ方だ。ビックビーチも尾を左右に振って、機嫌良くしている。

 藤崎に宣言した通り、勝てる気がしてきて亜希は強く頷いた。


「行ってきます」


 この日は2レース目に騎乗した後、6,7,8レース目を連続して騎乗する。

 8レース目の3歳未勝利レースは、鼻の差で逃げ切って1着。亜希は本日2つ目の勝利に気分が良くなって、鼻歌交りに着替えを済ませた。

 更衣室を出たところで、3年先輩の吉峰よしみね騎手と出くわした。


「日岡、鳩野さんが食事に誘ってくれたぞ。行くか?」


 鳩野とは8レース目に亜希が騎乗した馬の馬主だ。

 吉峰は6レース目で鳩野の別の馬に騎乗している。6レース目で1着だったハトノユイノのことだ。 


「すみません。帰ります」

「お前さ、そういうの良くない。お前って、ちっとも営業をしないよな。そんなんじゃあ数年後には騎乗依頼がゼロになるぞ」

「すみません。でも、迎えが来るので」

「迎え? ああ、旦那が迎えに来るのかよ。いいよな、生活が掛かってないヤツは。趣味で馬に乗ってんだろ。だったら、乗馬クラブで乗れよ」

「……」

「俺はさ、お前のために言ってんの。分かる? 騎乗依頼がゼロになってもいいわけ? ああ、そっか。旦那に喰わせて貰ってんだから、ゼロでもいいわけだ。マジで干されろ!」


 言いたいだけ言って吉峰は、ふいっと顔を背け、立ち去って行った。

 取り残された亜希はしばらく茫然とその場に立ち尽くし、森内と藤崎が声を掛けてくれるまで微動だにできなかった。


「久坂。おーい、久坂。どうした?」

「大丈夫か? 何があった?」

「さっき、めちゃくちゃ機嫌の悪い吉峰さんと擦れ違ったけど」


 2人ともまだ勝負服姿なので、亜希よりも後のレースにも騎乗していたのかもしれない。

 そう言えば、吉峰もまだ勝負服を着ていた。この後のレースにも騎乗するのかもしれない。

 森内が心配げな顔を近付けて来た。


「もしかして、吉峰さんに何か言われた? もしそうなら俺のせいかも」

「え?」

「俺、さっきのレースで吉峰さんの馬に勝ったんだ」

「さっきのレースって? バレンタインステークス?」

「そう。吉峰さんの馬が一番人気だったじゃん? 絶対に勝つだろうって言われていて、吉峰さんもそのつもりでさ。んで、得意げな顔をした吉峰さんに、俺さ、レース前にめちゃくちゃダメ出しされたんだよ。お前の乗り方は違うとか、何とか。――なのに、1着は土井さんで、2着は柴さん。んで、俺が3着で、吉峰さんは6着だったから」

「あー」


 察して亜希は低く唸る。

 基本的に騎手はみんな仲良しだ。同期は競馬学校の厳しさを共に乗り越えてきた仲間であるから、同志意識が高い。

 ライバルではあるけれど、それよりも仲間だという想いが強かった。


 そして、やはり自分たちと同じように競馬学校を卒業した先輩たちは、憧れであり、良き道しるべでもあった。

 なので、いつか越えたい壁であるからと、その壁を恨んで、ラクガキをしたり、傷をつけたいという気持ちはない。


 後輩に対する想いも似たようなものだ。

 自分が歩いてきた道を追ってくる者たちなので、彼らが歩きやすいように、可能な限り道を踏み固めてやりたいと思っている。


 とは言え、みんながみんな、いつでも誰にでも優しくて親切だというわけではない。

 その人がどうのというわけではなく、誰だって余裕がない時には他人を思いやれないものだからだ。

 きっと吉峰は余裕がない時の方が多くて、他の人からは『まあ、そういう人もいるよねぇ』と思われてしまうタイプなのだ。


「森内のせいじゃないよ。実はさ、鳩野さんから食事に誘われたらしいんだ。直接言われたわけじゃなくて、吉峰さんが『誘ってくれたぞ』って言ってきたんだけど……」


 亜希がつい先ほどの出来事を説明すると、森内も藤崎も、ああ、と合点がいった顔をする。


「久坂がそういう誘いに乗らないのは、池野さんから馬主さんたちに伝えて貰っているんだろ? 俺だって、誘われても3回に1回くらいしか行かないよ。だいたい、俺らと食事に行ったって、そんなに食えないし、吞めないじゃん。楽しくないだろうにって思ってしまう」

「俺も行かないかな。断っていたら誘われなくなったし。そんで、営業していないって言われても、馬主さんと食事に行くことが営業のすべてじゃないし」

「むしろ、騎乗の機会を増やしたかったら、馬主さんよりも調教師さんじゃん」

「いや、そこはどっちも大事だって」


 騎手の決定権は馬主にある。だが、馬のことを一番理解しているのは調教師だ。

 馬との相性を見て、最も良い騎手を馬主に提案するのが調教師の仕事のひとつである。

 なので、騎乗機会を増やしたい騎手は所属する厩舎以外の厩舎にも顔を出して、調教師と親しくなる必要がある。――このことを騎手の営業という。

 もちろん、藤崎が言うように馬主へのアピールも必要だ。馬主交流会というものが各地で開催されているので、そういうところに顔を出すことも騎手の営業のひとつだった。


「吉峰さんは吉峰さんのやり方があるように、俺らにも俺らのやり方があるってことだよ。気にすんな」

「うん。ちょっと、ぐさぐさ刺された気分になったけど、森内と藤崎くんのおかげで復活した。もう大丈夫。――2人は今日はもう終わり?」

「俺は終わり」

「俺も終わったよ。けど、久坂を送らなくていいのなら、最終レースまで見てから帰りたいな」

「じゃあ、俺もそうしよ。見終わったら一緒に帰ろうぜ」


 言って森内が藤崎と肩を組んだので、亜希は彼らに手を振る。


「先に帰るね。また週明けに!」

「おう、またな」

「気を付けて帰れよ」


 手を振り返してくれた2人で笑顔を向けて亜希は競馬場の出口へと向かった。

 隆哉が車で迎えに来てくれているはずである。

 とは言え、競馬場の駐車場や周辺の駐車場は満車であったり、レース後は駐車場から車を出すまでに時間が掛かってしまうので、是政の実家で待ち合わせている。

 歩くと20分くらいの距離をトレーニングだと思って走って帰ると、玄関の前に白いファミリーカーが停まっていた。――城戸の車である。

 亜希は慌てて玄関を開けて、家の中に入った。


「ただいまー! もしかして城戸さんが来てる?」


 おかえりと言って出迎えてくれたのは母親だ。どうやら父親や姉妹たちは留守であるようだった。


「遅いじゃないの。随分と待たせているわよ」

「でも、なんで城戸さん?」


 すぐにリビングに移動すると、ソファで寛いでいる城戸の姿があった。その隣には城戸の妻である杏奈あんなの姿もある。

 そして、杏奈の膝の上には3歳くらいの男の子がいて、杏奈の隣には5歳くらいの男の子が座っている。


「うわっ。杏奈さんと涼太くんと悠太くんもいる!」


 なんで、なんで、と亜希がリビングに入って行くと、杏奈の隣から涼太がパッと立ち上がって亜希に駆け寄って来た。


「亜希ちゃん、おかえり! 待っていたんだよ」

「涼太くん、久しぶり。大きくなったね」

「うん! いっぱいご飯を食べて大きくなったよ。すぐに亜希ちゃんよりも大きくなるから待っててね」

「うんうん。私よりも大きくなってね、大哥おにいちゃん


 5歳児が一生懸命、背伸びをして亜希に抱きついてきたので、亜希は堪らなくなって涼太の体をぎゅっと抱き締めた。

 それから、城戸の方に視線を向ける。


「今日はどうしたの? 何かあったの?」

「隆哉から連絡が来ていないか?」

「えっ」


 亜希は上着のポケットからスマホを取り出す。朝からずっと電源を切っていたことを思い出し、慌てて電源を入れた。

 起動するまで待っていられず、再び城戸に問い掛ける。


「隆哉さん、どうしたの?」

「急な仕事が入ってな。亜希ちゃんを迎えに来られなくなったんだ。だから、俺が代わりに家まで送るよ」

「ええっ、急な仕事!? 何かトラブル?」

「まあ、そんなところだ。亜希ちゃんが心配するほどのことではないから大丈夫だよ」

「そうなの……?」


 隆哉も城戸もどんな大きなトラブルだったとしても、亜希には『大丈夫』しか言わないような気がするので、疑わしいと思いながら亜希は、むーっと顔を顰めた。

 起動し終えたスマホが通知音を鳴らす。画面を見ると、隆也からのメッセージが届いていた。

 内容は城戸が言っていた通りだ。急な仕事が入ったこと。迎えに行けないこと。そして、城戸に送って貰えるように頼んだということだ。


(今日はさ。いろいろあったから、隆也さんと話がしたかったんだけどなぁ)


 会いたい時に会えないなんて! 

 寂しいやら腹立たしいやらで、拗ねてやりたい気分になる。

 不意に涼太がもそもそと動いて、亜希の袖を引く。


「亜希ちゃん、ゲームを持って来たんだよ。亜希ちゃんのおうちに着いたら対決しようね」

「ゲーム? いいよ。どんなゲーム?」

「あのね、どんどん落ちてくるゲームだよ。僕が勝ったら、亜希ちゃんはひとつ言うことを聞いてね」

「ええーっ。私、やったことないゲームで不利じゃん。涼太くん、ゲーム上手だし。あんまり無茶なことを言うのはやめてね」

「大丈夫だよ。あのね……」


 涼太が耳を貸して欲しいというジェスチャーをしたので亜希は腰を曲げて涼太の口元に自分の耳を近付けた。


「また花音ちゃんに会わせて欲しいの」

「ぐはっ!」


 亜希は大きな力で胸を突かれた気がして、両手で胸元を抑えた。

 うかつにも目頭に涙が浮かんでしまう。


「大哥、尊いよぉ」


 城戸の長男である涼太は、もちろん夏銚の長男である夏範の生まれ変わりである。

 花音は未奈美の長女で、夏範に嫁いだ柚の生まれ変わりだ。

 2年くらい前だっただろうか。亜希が競馬学校を卒業し、隆哉と入籍した時に、その報告がてら城戸家族に律子と未奈美を加えて食事をしたことがあった。

 その時に未奈美は花音を連れて来ていて、涼太は初めて花音と顔を合わせたのだ。

 それ以来、涼太は亜希と会うたびに『花音ちゃん、どうしているのかなぁ』と言ってくるようになった。


「2週間前に花音ちゃんと会ったよ」

「そうなの⁉」

「元気そうだったよ」

「可愛かった?」

「うん、可愛かったよ」


 唐揚げの衣だけを食べていたと言い掛けて、思い留まった。涼太まで真似して唐揚げの衣しか食べなくなったら杏奈に申し訳ない。

 さて、と言って城戸がソファから立ち上がった。


「そろそろ行くか」


 城戸は杏奈の膝から悠太を抱き上げると、亜希の母親に挨拶に向かう。

 亜希も城戸を追って台所に立って夕食の支度をしている母親に『帰るよー』と声を掛けた。


「夕食を食べて行かないの?」

「あちらに行ってから、私が作ろうかと思っています」

「大変じゃないの」


 亜希の母親に応えたのは杏奈だ。


「ほとんど作ってあって、タッパに持って来ているので大丈夫です。それにカレーです」

「あら、そうなの」

「大勢でお邪魔してすみません」


 城戸が言うと、亜希の母親はとんでもないと片手を振る。


「城戸さんには以前から亜希が本当にお世話になって。いつでも寄ってやってくださいね」

「お母さん、ここでいいから」


 玄関まで見送ろうとしていた母親を制して亜希はリビングを出る。

 城戸が悠太の足元にしゃがんで靴を履かせていると、涼太が自分でちゃんと靴を履き、杏奈の手を取って玄関を出て行く。

 そして、みんなで白いファミリーカーに乗り込んだ。

 最後尾にはチャイルドシートが2つ並べられて設置されているので、亜希は2列目に乗って、運転席には城戸が、助手席には杏奈が座る。

 城戸の運転でゆっくりと車が走り出した。


「亜希ちゃん、眠くなったら寝ちゃっていいからね。涼太も悠太も車に乗せると、すぐに寝ちゃうのよ」


 なんてことを杏奈に言われて気が緩むと、だんだんと眠気に襲われてしまい、いつの間にか亜希は寝入ってしまった。



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