13
教室には今とあまり変わらないスチール製の机や椅子が整列していた。もちろんそれらはほこりかぶっていた。さびて赤茶色のざらざらした質感だったり、木材の表面は縁が割れていたりした。
彼が最後に座っていたという席で足をとめた。窓際の三番目だった。ほかの机の様子と何ら変わりはないが、彼が行方不明になったあとも、この席はずっとこのままだったのだろうか。
「懐かしい」
わたしは彼をその机の上に置いた。ほこりまみれの椅子に座る気にはならなくて、わたしは机の縁に手を掛けてしゃがんだ。ぐるりと教室内を見渡していた目が、わたしへと定まった。
何か言いたげだったけれど、彼は何も言わなかった。わたしを見つめたまま、ふ、と微笑むだけだった。
「……機嫌がよさそう」
「身体があったら文句はないんだがな。今の状況、学生っぽくて気恥ずかしい」
「確かに、学生ならではの体勢ですよね。あ、こういうのしたことないんですね?」
「からかうんじゃない。俺だって入学した頃は、こうしてきみみたいに様子をうかがってくる女子生徒がいたんだぞ。興味がなくて流していたら、いつの間にか距離を置かれて眺められるようになっていたが」
「宮本さん、それって現代風にたとえると『ぼっち』って言うんですよ」
「きみは俺に喧嘩を売りたいようだな」
わざとらしく眉をしかめてみせたあと、彼は息を落とした。吹かれた液体は揺れ、少しの気泡がぷつぷつと上がった。机の表面に浮かぶ彼は長方形だったけれど、液体部分は明度の高い灰色に透き通っていた。彼の顔の輪郭や、髪の毛先がくっきりと映っていた。それでも、やはり液体に包まれている。ゆらゆらと不安定だった。
「宮本さん、明日からどうなるんですかね」
「さあな。話す相手がいないんじゃ、暇だろうね。床下で、建物とともにつぶされるまでの辛抱かな」
「その……首って」
途中まで言い掛けた時、彼から強い視線を感じて口ごもった。液体に混じった瞳は確かにわたしを見ていた。淡い光りを背負った彼は暗く影に落ちていて、いつもより冷たそうだ。
光りが一切届かない床下で、彼はこのように闇へ溶けているのだろうか。だとしたら、それは悲しいと思った。わたしだったら不安で耐えられない。あの場所で、瓶詰めにされて、一日中暗闇を眺めるのだ……そうして、ほかに転がった瓶を捜す。それは人の顔をして……。
わたしは瓶の表面を撫で上げ、そのまま蓋に触れた。
「触ってみたいんです」