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いらっしゃい、非日常  作者: キリアイス
8/22

【00.01:30】

「自己紹介も終わったことですし、後回しにしていた説明をしますね」


 裕の自己紹介に付き添っていた零香が、そう声をかける。

 旅館『月ノ庭』で働く女性三人――笑と紅葉と珠惠は零香に頷き返す。

 どうやら飛び込むように割って入ってしまったらしい、と裕は少し申し訳ないことをしたな、と思った。


「えっと……私たちも、いいかしら?」

「もちろんですよ。十鳥センパイも三城センパイも、当然四位センパイも、こちらに座ってください。あ、千歳お爺ちゃんも一人寂しくそっちに座ってないで、こっち来ていいんですよ」

「年寄りを動かすのか……まあよいが」


 零香の声かけに、ぞろぞろと人が一か所へと移動する。

 裕は自己紹介の時に笑の正面にいたことから、笑たち『月ノ庭』で働く女性三人と対面するソファへと腰掛ける。

 その隣に初春がわざわざ移動してきて座り、更に横にはどかり、と音を立てて座る優。

 麗月は少し迷った素振りをして優の近くに座り、零香は裕について回っていた名残で裕の近くにあった一人掛けのイスへと座った。

 あっという間に人口密度が増したな、と思いつつ、裕は零香の説明を聞く姿勢をとる。

 注目されているというのを理解した零香はポケットから紙――裕も持っている、最初に読んだあの手紙を取り出し、前置きとして話をする。


「えーっと、ホントは起きた場所にこういう紙があって、簡単な説明が書いてあるんですよね。これは、読みました?」

「この部屋にも同じものがあるってこと、かな……? えっと、次々に人が来たから、部屋は調べてないね。笑さんは何か見つけました?」

(わたくし)も貴方と同じなのだけれども……どこかにあったかしら、そういう紙」

「――あ、それなら……水科さんが捨てていたような気がします」


 部屋をぐるりと見回して、ごみ箱を二つほど見つける。

 だが、どちらのごみ箱にも何かしら中身が入っているようで、ソファから立ち上がってごみ箱を探した零香は苦笑する。


「ゴミの入ってるごみ箱を漁るのはちょっと()なので、アタシが持ってるやつをお貸ししますね。三人で回し読みしてください。それで、十鳥センパイと三城センパイ、四位センパイは?」

「ああ、俺は読んだ。持ってきてもいる」

「私は読んだけど……三城くんに渡したら破り捨てられちゃったわ」


 何してんだ、という目線が優に突き刺さるが、本人は肩を竦めてケラケラと笑う。


「オレはここのルール、知ってるからな。トトリが慌てふためくような内容みたいだし? 持っておくより破棄してもいいかなーって」

「ちょ、ちょっと、三城くん! 余計なことは言わないでっ」


 ケラケラと笑いながら受け流す優と、恥ずかしさから顔を赤くする麗月を見ながら、どうやらこの二人のスタート地点は同じ部屋だったようだ、と裕は思う。

 しかし、誰に対しても分け隔てなく接する学校内で見る麗月を知るだけに、こうも感情を露にし表情を変える様子は、少し新鮮であった。

 そんな裕のちょっとした驚きの横で、零香は優に対して驚いていた。


「三城センパイって、こーゆーの、初めてじゃないんですね。じゃ、この場にいる経験者は、千歳お爺ちゃんとユーリさん、三城センパイの三人かな? あ、ついでにユーリさんみたいに魔術? とか使えます?」

「ワシは使えるが……有理のと比べれば時間がかかるし、実戦向きではないな」

「オレは使う気がねェから期待すんな」

「えぇ~~……三城センパイ、協調性持ちましょーよー」

「謎解きはしてやっから、諦めろって。魔術の使用を強制すんな」


 ケラケラと、やはり人をどこか馬鹿にしたような笑みを浮かべたまま、優は取り付く島もなく零香の意見をはねのける。

 言っても無駄だな、というのは伝わるもので、零香はため息を零して思考を切り替える。


「なら、他のことはちゃんと協力してくださいね」

「時と場合によるから名言はしねェよ」

「ちょっと、三城くん。それはないんじゃない?」

「アリだよ? ここは理不尽の塊みたいな空間(とこ)だから、命を差し出せ、なーんて要求もあり得るんだぜ? その要求の為に多数決やくじ引きなんていうものの結果、死ねって言われても協力なんてしたかねェだろ?」


 それは、いくら決まったことだったとしても、確かに協力したいとは思えないな、と裕は思う。

 誰だって死にたくはないし、出会ったばかりの人を助けるために己のすべてを犠牲にする覚悟を持てるのは、よっぽどのお人よしくらいなものだろう。

 ただ、どうしてそんな極端な例を出すのだろうか、と疑問に思う。


「――なんじゃ。坊主は前に“そういうこと”を見たのか?」

「オレはねェけど、他のヤツがな。あと、最後の脱出条件が“一人になるまで殺し合え”ってのも聞いたことあるぜ」

「そうか……。今回は、そういう物騒なものがなければ良いな」


 希望観測。それでも、願わずにはいられない。

 ただでさえ“ペット”と称される青い犬(化け物)が屋敷を徘徊しているのだ。

 これ以上の絶望は、遠慮したいものである。


 初春の深い深いため息が、優の話した内容に絶句し、沈黙してしまった空気にやたらと響いた。

閲覧ありがとうございます。


投稿時間ですが、

12:00の投稿だったら一話のみ、

12:00より前(主に11:00)の投稿だったらまたその日の内に投稿があります。


誤字脱字等ありましたら、教えて頂けると嬉しいです。

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