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いらっしゃい、非日常  作者: キリアイス
1/22

【00.00:00】

初めましての方は初めまして、キリアイスと申します。

暇つぶしにでもなれれば幸いです。

 四位(しくらい) (ひろむ)が目を覚ました時、目に飛び込んだのは年季の入った壁であった。

 百八十度寝返りを打つ。ぎい、と床が軋む音がする。

 寝返りを打って新たに飛び込んできた情報は、これまた年季の入った、触ったら外れるんじゃないかと思うほど古びたドア、そして学校の教室で見慣れた机とイス――ただし、ところどころ錆びている。

 古びたドアも、錆のある机やイスも、この部屋自体が埃やカビといった、少々不快な臭いのする部屋の中に存在するものであるからして、建物自体が古い――いや、古すぎるのだろう。

 そう頭の隅で結論付け、裕は回らない頭でこの状況を把握した。


 ――うわ、何ここ。超ボロイ。


 こんなところで寝ていられるか、と体を起こす。

 服に埃がついている可能性があるので、軽く服を叩きながら、再び部屋をぼんやりと見回す。

 古い建物だというのに、埃はないようだ。そのかわりに、軋む音が悲鳴のようにぎいぎいと鳴る。

 やっぱり、ものすごくボロイ。乱暴に歩けば、床に穴が開きそうだな、と頭の隅で思った。


 ――ピンポンパンポーン


 不意に響く呼び出し等でよく使われる放送開始の合図のチャイム。

 音が鳴るだけで、特に何か言葉が紡がれることはなかった。

 が、静かな部屋に大きな音が響いたわけで、もちろん心構えなどしているわけがなく。

 結論から言うなら、裕は寝ぼけていた頭がようやく覚醒したのである。


 即ち、ここはどこだ、とまともな思考の復活、というわけだ。


 起き上がって見回した際、この部屋には窓がないというのは気づいていた。壁にあるのは掛け時計――らしきものとスピーカーくらいだ。

 数字は12ではなく、30まであるこの時計は、長針しかない。今は30のところに針がある。また、上寄りの中心(本来12の数字がある場所から少し下の部分)には【00:00:00】とデジタル表示がされており、下寄りの中心(本来6の数字がある場所から少し上の部分)には、デジタル表示は同じだが、赤色の字で刻まれた数字が、徐々に減っている。

 その時計の近くには、先ほどチャイムを放送したスピーカー。裕が寝返りを打った際に正面になった壁の装飾は、以上である。

 背後の壁はシミが模様となっているだけだし、左右の壁も同じようなものだった。

 せいぜい左右の壁で違うところは、時計とスピーカーを正面の壁とした際、右手側の壁には古びたドアがあるだけだ。なんとも飾り気のない壁である。


 そもそもこの部屋には学校で見慣れた机とイス(ただし錆びている)が三セット、一文字に並べられているだけで、あとは壁に先ほど挙げた装飾とも呼べないほどの品、天井を御世辞でも彩るとは言い難い、今にも消えそうな古いランプくらいしかない。

 見慣れた机が真横にピタリとくっつけて並べた際、五つなら並べることが可能そうであり、六つは無理だろうな、と思うくらいにしかない幅は、一人でこの部屋を調べる分には丁度良い広さであった。

 これが裕の馴染みある“教室”という部屋ならば、狭いどころの騒ぎではないなとどうでもよいことを考え、今はこんなことを考えている場合じゃない、と軽く頭を振る。

 ふう、と息を吐き出して頭の中を一度リセットし、チャイムがなる前――つまり、立ち上がる前は気付かなかった中央の机の上に置いてある一枚の紙に目をやる。

 その紙には文字が書いてあるのがわかる。少々長めの手紙、だろうか。

 他に気になるものはないし、あるとするならば部屋の出入り口であるドアを開いてこの部屋の外の様子を知りたいということくらいだ。

 優先順位をつけるならばこの部屋を調べることが先だと考えている裕は、この手紙以外に調べるものが他になさそうだと判断し、机の上に置いてある紙を手に取り文章を読んでいく。



===


 選ばれし者たちへ


 ご愁傷様です! あなた方は“災厄”に選ばれました!

 晴れて非日常の仲間入りです! 我々は歓迎いたしません(*^▽^*)

 この屋敷は隔離空間となっており、外には出られますが、特定の条件を満たさなければ現実世界には帰れません。


 故に、頑張って脱出してください( *´艸`)


 今回、初めて我々“災厄”と遭遇した方々、ご安心ください!

 我々はとっても親切なので、教えて差し上げましょう!

 まず、躊躇ったら死にます! 生きたいなら殺る前に殺れ、の精神で!

 まあ、馬鹿正直に殺ろうとすると殺られるから、触らぬ神に祟りなしですよ(`・ω・´)

 死にたくないなら覚えておきましょうね☆

 その他のことは別紙に書いてますから、探して読んでね!


 そして再度ようこそおいでくださいました、経験者の方々!

 前回の経験を活かして、今回も頑張っていきましょー☆

 再来特典として、あなた方のトラウマを徘徊させておりますので、ごゆっくり~( *´艸`)


 それから、非日常を愛する同胞たちへ。

 生き残ることができた一般人は、適性がある逸材だよ!

 日常に戻すだなんて、しないよね(>_<)

 人材確保は大事だろう? 狩り入れ時だと思って感謝してね!


 それでは皆様、レッツ☆非日常ー!(≧▽≦)


 非日常の住民より


===



 目を通して、何かに巻き込まれたようだ、と判断する。

 それにしてもこの文章、ふざけている。が、今は情報収集が先だと思い、注意事項が載っているという別紙を探す。

 とはいっても、隠す場所も限られているこの部屋だ。

 裕はイスを少し引いて、机の中を調べる。

 左右の机の中に一枚ずつ紙が入っているのを見つけた。


 ――直後、寝ぼけていた裕の思考力を戻したあのチャイムの音が、三度鳴り響いた。


 思わずスピーカーを見上げれば、沈黙を保つ。

 何の合図だ、心臓に悪い――と、眉にシワが寄る。

 少しばかり不快な気分になるが、作業の手を止めることは時間を無駄にすることと同じである。

 気を取り直して、折りたたまれて入っていた二枚の紙の一枚を開く。



===


 ハズレだよ☆ m9(^Д^)プギャー


===



 思わず、ぐしゃりと握り潰す。

 チャイムの音など、これに比べれば全然不快などではなかった。

 何の益にもならないこの握りつぶした紙を捨てたいところだが、ごみ箱がない。

 床に投げ捨ててもいいのだが、ゴミはゴミ箱に、という常識的で善良的な思考を持つ裕はポイ捨てする気になれず、とりあえずズボンのポケットの中へ入れた。

 大きく息を吐き出して、冷静になれ、と心を落ち着かせる。

 そして、こちらがハズレならばと思考を切り替え、もう一枚の方を開き、視線を落とす。



===


 これはゲームである

 あなたたち“参加者”の勝利条件は「生きて脱出すること」

 我々“主催者”は以下のルールに従い、参加者を盛り上げ、サポートする


 ■ルール■

 ・放送開始のチャイム(ピンポンパンポーン)は、ゲーム開始前は参加者が目を覚まし、活動した際の合図であり、その後は5の倍数の日になった際の鐘である

 ・ウェストミンスターの鐘(キーンコーンカーンコーン)はゲーム開始から12時間ごとに鳴らす時間経過の鐘である。ただし、5の倍数の日最初の鐘は上記になる

 ・“ペット”は放し飼いである。しかし、灯りのついた部屋には入れないようになっている。休憩の際は利用すること

 ・灯りのついた部屋は5の倍数の日に、各階に2部屋用意する

 ・点灯してある部屋は参加者が入室してから12時間後に消灯し、消灯する時間に参加者が部屋にいた場合“ペット”を引き寄せるブザーが鳴る。これは参加者が目を覚ました部屋でも適応される。また、点灯中の部屋を利用中、時間前に一人も参加者が部屋にいない状態になれば速やかにその部屋は消灯する

 ・各部屋、通路にある時計は経過日数と時間が表示されている。また、点灯中の部屋はあと何時間利用できるかがわかるタイマーになっており、赤字で表示されている

 ・ゲーム開始は参加者が全員起きてからとする。ゲーム開始前に起きた者は順次行動を開始しても良いものとする

 ・ゲームが開始されると、時計の針は「1」を指す。つまり、時計の針は過ごしている日数を表すこととなる

 ・このゲームは三十日目の【23:59:59】までが制限時間である。もし時間内に脱出できなかった場合、この隔離空間を狭間に破棄する

 ・脱出の鍵はこの『狭間の屋敷』に隠されている。屋敷は三階建てで、地下室と中庭を含めると五つに分けることができる。中庭にある『帰還の門』に必要なすべての鍵を揃え、脱出の条件を満たした時、門は開き、脱出可能となる

 ・備品は好きに持って行ってもよい。使えるものはなんでも使え。死んでも責任など取らないし、生命などいつか終わるものである。生きていたいなら、頑張って生き残れ


 ※ あとは適当。適宜ルールを加えたり減らしたりする。臨機応変に頑張って☆


===



 とりあえずルールの紙をポケット――もちろんハズレが入っていないところ――へと丁寧に折りたたんで入れる。

 裕の今の心情を表わすならば『なるほどわからん』という状態である。

 経験者というのがいることは分かったので、その詳しくわかる人に解説してもらうためにこの紙は持ち歩くことにした。

 こうして持ち歩けば、自信がない時にルールの確認ができるし、一石二鳥だろう。

 裕はそこまで考えた後、ふと時計を見る。針はまだ「30」を指しているが、これが一周した頃がタイムオーバーか、と考える。


 そして赤色のデジタルタイマーは既に残り六時間を切っている。

 つまり、裕はこの部屋で――そしてこの床で――六時間近く寝ていたことになる。

 そして、この部屋にいられるのも、だいたい六時間だ。

 まだ奴らの言う“ゲーム”は始まっていない。今の内に調べられるところは調べておこうか。


 そう思って一歩動いた時だった。



 ――ピンポンパンポーン

 『お待たせ! ゲーム開始だよ!』



 ボイスチェンジャーで声を変え続けているのか、不安定な声が流れる。

 それと同時に、針が「1」を指す。







 ――間が悪くも、命がかかっているらしいゲームが、始まった。


閲覧ありがとうございます。毎週日曜日12時更新になります。

誤字脱字等ありましたら、教えて頂けると嬉しいです。


※ 一応、時系列的には『召喚理由が理不尽すぎる!』の二年前になります。

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