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第6話 英雄の仲間は最強パーティだった

「あ、朝飛んでいた個体……!」

「間違いない、あのドラゴンだ」


 式場を荒しに来たのは俺がサラと早朝の散歩に出かける際に見かけたドラゴン。

 理性を失っているのか首を左右に何度も振り、口から涎を垂らしている。


「ちょっと待って、なんでサラも知ってるの?」

「私とシンは朝散歩という名のデートをしたからよ」

「えー、ズルイズルイ! レティもシンとデートしたいのに!」


 こんな時にそんなこと言っている場合じゃないだろう。というツッコミをしかけて我慢する。

 すぐにドラゴンは俺たちの姿を捉え、標的に決めたのか威嚇するように咆哮を上げた。

 式場全体が揺れるほど大きいその咆哮に俺は身構えてしまうが、サラたちはそれに全く怯むことなくドラゴンと対峙している。

 皆真剣な表情だ。やはり異世界だとドラゴンは強敵に当たるのだろう。


「「「「「「……」」」」」」

「「「「「「(これはシンにアピールするチャンスなのでは……?)」」」」」」


 幸いにも認定式には冒険時の格好で出席しろとのことだったので、俺たちは武器を装備している状態だ。すぐに戦うことはこと自体は可能である。

 しかし、ド素人の俺にはどうすることもできない。戦闘技術なんて持ち合わせていないぞ頼むからこっちには来ないでほしい。


 だが現実は非常だった。再び咆哮を上げたドラゴンに俺の願いは届かず、真っ先に俺を狙ってズンズンと突進をし始める。

 マズイ。非常にマズイ。

 背中に剣はあるが、これで戦うべきなのだろう。実際に戦えるかどうかは別だが。


 俺があたふたして動けずにいる間にドラゴンは俺のすぐ目の前まで到達してまった。そのまま俺を食い殺そうとしているのか開かれた大きな口をこちらへ突き出してくる。

 やられる……!


「ふんっ!」


 すると、いつまで待っても俺にドラゴンの攻撃は届くことはなかった。

 反射的に閉じてしまった目をゆっくり開くとドラゴンが来なかったのではない、静止させられていたのだった。

 口の上部下部に一本ずつ剣が突き刺されており、口を無理やり開かせたままにさせている人物がいる。


「ディア!」


 ドラゴンは目の間と顎の部分に剣を突きさされながらもなんとか口を閉じようと抵抗するが、ディアはそれを許さない。あの一瞬の間に俺とドラゴンの間に割り込み、間一髪ドラゴンから俺を守ってくれていたのだ。

 助かった……。


「シン、お前は見ているといい。ここは私が片付ける」

「あ……ああ、頼む!」

「それと『ゼウスの神眼』は使うな。ここで使ったら式場がさらに大変なことになってお嬢様がご乱心なさる」


 『ゼウスの神眼』……? なんのことだろう。

 俺の持っているという能力のことなのだろうか?


「全体バフ効果かけているからご自由にやってどうぞー」


 後方ではレティが杖を構えて何かを唱えている。足元に魔法陣が展開されているのがその証拠。

 俺たち全員の体に光が纏われ、なんだか体が軽くなったような、力が増したような感覚があった。これが強化魔法ってやつらしい。


「あらありがとう、じゃあ『メイク・ア・ブリザード』!」


 今度はドラゴンの足元がみるみるうちに氷漬けにされていき、完全に身動きのとれない状態となった。

 どうやらこれはルーナの能力のようで、彼女のドラゴンに向けてかざした手の周囲には小さな吹雪状の氷が舞っている。これは氷を操る能力だろう、多分。


「お膳立てサンキュー。おらよっと!!」


 そこから息も吐かせぬ連続攻撃。

 ディアが二本の剣をドラゴンから引き抜くと、頭上に飛び上がったソーラが炎を纏った拳を頭部に叩き込んだ。

 ドラゴンは直前までディアが剣を突き刺していたため回避することもできず、そのまま式場の床に叩きつけられてしまう。

 叩きつけられた床は大きな穴となってものの見事に破壊されてしまった。


「ちょっ、何も床に叩きつけなくてもいいでしょ! 式場が余計に破壊されたじゃない!」

「あん? うっせーな、どうせ元から壊れてるんだからいいだろ別にー」

「よくないわよ!」


 この式場の持ち主であるサラは式場がさらに破壊されたことにご立腹のようだ。

 別に叩きつけなくてもアッパーで良かったのではないかとは俺も思う。


「まぁいいわ……、次は私の番。『フローラル・ギフト』!」


 サラが何かを唱えると、彼女の周囲をどこから現れたのか花びらが舞い始めた。

 色とりどりの花びらが彼女を包み込み、つい見惚れてしまうほど美しい光景が目の前に広がっている。

 彼女は腰に下ろした鞘から剣を抜いて天に掲げると、花びらもそれに付随して高く舞い上がった。


「『ローズ・バレッジ』!」


 舞い上がった花びらは鋭利な薔薇の花びらへと姿を変え、そのまま一斉にガトリングのようにドラゴンの翼目がけて発射された。

 弾幕のように飛び交う薔薇の花びらは次々と翼に突き刺さり貫通、翼は無惨にもボロボロになってしまった。あれではもう翼としての機能を果たすことはできないだろう。

 もうドラゴンは足も使えなければその翼で空を飛ぶこともできない。流石に可哀想になってきた。


「すげぇ……」


 完全に物理法則を無視した戦いを俺はただ指をくわえて見ているしかできなかった。

 まるでCGを用いたアクション映画のようなド迫力の戦闘シーン。

 そうだ、忘れていたが彼女たちは魔王を倒した英雄の仲間たち。

 簡単に例えるならクリア後なのだ。強いに決まっていた。


「……あれ? リープは戦わないの?」


 ディア、レティ、ルーナ、ソーラそしてサラが戦闘に参加しているのだが、リープはというとずっと俺の隣に突っ立って一緒にその光景を眺めているだけだった。


「リープがいなくても、みんななら一人でも大丈夫……。というか……、みんなシンにいいとこ……見せたくて張り切っているだけな気がする……」

「な、なるほど……」


 どうやら、いいところを見せたいから張り切って雑魚狩りってしてるってことらしい。

 確かに魔王を倒すほどの人たちならドラゴン一匹くらい大したことない、そりゃそうだ。

 そうなると残るはリシュだが、彼女はドラゴンの正面に立ち、レイピアを逆手持ちにした状態で静かに構え続けていた。


「あれは……槍投げ?」


 槍投げのように左足を前にして腰を落とし、まるで槍を持つように逆手で持ったレイピアは右肩の上。明らかに剣の構え方ではない。

 リシュは機会を窺っているのか、サラたちがボコボコにしているドラゴンをジッと見つめ続けている。


「…………ここ」


 次の瞬間彼女が逆手に持っているレイピアが光り始める。

 その光はレイピア全体を包み込み、大きな三叉槍へと変化させた。


「お、おい。ここであれ使うのか!?」

「ちょっ、待って……! それをここで使ったら式場が!」


 何やらサラたちが焦りを見せている。


「…………避けて。『トリシューラ』ッ!!」


 彼女が神々しく光るその槍をドラゴン目がけて投げつけると周囲を強力な風圧が襲った。

 俺やリープたちがその風圧で吹き飛ばされる中、トリシューラは一直線にドラゴンへと突き刺さり、そのまま弾き出すように式場外へと吹き飛ばした。

 トリシューラといえば、確かインド神シヴァの武器だったような気がする。

 その後、なぜかドラゴンに突き刺さっていたはずのトリシューラのみがその場に残り、床へ音を立てて落下した。


「どうなってんだよ一体……」

「ああああ!! 式場があああ!!!」


 ドラゴンがそのまま壁をぶち破りながら吹き飛ばされたのでまた式場に大きな損害が発生してしまっている。

 最初に穴を開けられた箇所含め式場の右半分は半壊、見るも無惨な状態だ。


「……変に戦闘を長引かせるよりこっちの方が手っ取り早い」


 リシュがトリシューラを拾うと元のレイピアの姿に戻り、何事もなかったかのように光は失われた。

 おそらくあれはレイピアの力ではなくリシュ自身の武器を変化させる力のような気がする。


「お嬢様、これでは当分この式場は使いものにならないかと……」

「だから室内で『神器』は使わないで言ってるのにー!」


 『神器』、今リシュが使ったトリシューラのことを言っているのだろう。

 サラたちの能力もすごかったが、リシュのものが目に見えてずば抜けていた。

 元のレイピアの形を変化させ、全く違う神々の武器を使用する力。


 そういえば、「シン」は途中からある能力を身に付けたことで剣を変化させて戦ったって言っていたけどもしかしてそれも同じ……。


「まあまあ、変な邪魔が入ってこの会場もぶっ壊れちまったけど認定式自体は終わったんだし良かったんじゃねーか」

「ええ、もう閉会するだけだったものね。少々荒っぽいけどいい余興になったんじゃないかしら」

「良くないー!!」


 呑気なことを言うルーナソーラ姉妹、対する所有物を破壊されたサラお嬢様は激怒している。

 あの豪邸を持っているぐらいだから金には困っていないのだろうけど、流石にこうも滅茶苦茶になってしまっては……。

 さらには壊しに壊しまくったドラゴンはもうどこまで吹き飛ばされたかわからない。


「やっぱりみんなすごいよね~」

「レティも全員に強化魔法かけていたんだろ、しっかり後方でサポート役に徹しているんだな」

「レティの適正で一番良かったのが魔法使いだからしょうがないよ。できればみんなと一緒に近接戦闘とかやってみたかったけど」


 適正、か。役職との相性ってやつなのだろうか。

 例えば剣士になることも一応可能だが、覚えられるスキルに限度がある……とかそういうゲームチックな要素のことを言っているのかもしれない。


「じゃあみんなサラの家に戻ろっか。もう認定式終わっちゃったし」

「おっけー、またなんか食わせてくれよ」

「……ソーラ、また食べるの……?」

「また太るわよ?」

「うるせぇ!」

「…………ご飯」

「おーーーーい!! あなたたち、後始末をしなさいッ!!」

「お、お嬢様! 落ち着いて!」


 賑かやで個性的な最強パーティだ……。

 さて、もう英雄として扱われるの終わったし、そろそろ目を覚ましてもいい頃合だと思う。そろそろ起きてほしい。

 流石にこんなアクション映画のような戦闘に俺はついて行けそうもない……。


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