第4話 残りの仲間もハーレムの一員でした
朝食を食べ終えた俺たちはこの後の式典に備え冒険用の服装に着替えることになった。
各々が自室に戻り残った俺はというと、服、それに武器は最初に寝ていたベッドのある部屋に置いてあったのでそれを着ることにした。
冒険用の服装といっても警備の人が着ていたような鎧なんてものではなく、軽めで最低限の装備だけしてあるといった感じだ。身につけて特に重くもない。
鏡で自分の姿を確認してみると、アニメなどで出てくる冒険者主人公ほぼそのまんま。
それに服に衣装っぽさがないためコスプレのようには全く見えない。
実際に戦闘の際に着ていたようなのでその時のダメージが随所に残っているからなのだろうか、使いこまれた形跡があるので人が着ていて違和感がない。
最後に武器だが、背中に背負うタイプの鞘に収められた剣が一本。
サラに聞いた話によると「シン」は冒険の途中までこの剣を使って戦っていたらしいのだが、途中からある能力を得たことでこの剣を変形させて戦うようになり、そのままの形で使うことはほぼ無くなったそうなのだ。
能力の詳細までは聞き出せなかったが、これから何か戦闘があるわけでもないので特に気にする必要はないだろう。
この世界では既に魔王の脅威は去り、平和が戻っていると聞く。一般高校生である俺が戦い方なんて知る由もないのでかえって好都合だ。
「ごめん、待たせた」
「大丈夫よ、みんな今来たところだし」
着替えを済ませて皆のところへ戻るとサラ、レティ、ディア、リープも先ほど着ていた服とは一変し、一気にRPGの世界チックな服装に変わっていた。
サラは一目見ればわかる、女騎士または剣士。
スカートではあるが、近距離戦闘を強いられる剣士であるため動きやすいように長さや材質が微調整されているのだろう。
それにニーソとスカートの間に見えるふとももがセクシーだ。これは見た目と利便性を兼ね備えた格好に仕上がっていると言っていいはず。
腰には鞘に収めた剣が一本。おそらくこれが彼女のメインウェポン。
レティは杖を持っているため、性格からは想像もできないが魔法使いか。
ごく普通の冒険者っぽい服の上に黄色のラインが入った黒のマントを羽織っている。
頭には一般的に魔法使いが被っていそうな黒色のとんがり帽子を被っている。少しサイズが大きいのかぶかぶかだ。
ディアも剣士だな。それも左右に剣があるので二刀流といったところか。
服もサラのものに近い。細部を調節したマイナーチェンジ版と言ったところだろうか。性格が表れているのかスカートの下はスパッツを穿いてる。
リープは……なんだろう。確かに服装が変わってはいるが、武器を持っていないため役職がわからない。
魔法使い、か? でも杖などがなくても魔法を唱えたりすることはできるのだろうか。うーんわからん。
「シン様、サラお嬢様、レティ様、ディア様、リープ様、御準備はお済みでしょうか? じきに式は開会致しますのでこちらの控室で今しばらくお待ちください」
俺を含め、全員がそれっぽい服装になったところで朝挨拶を交わした白髪眼鏡の使用人が声をかけてきた。
その使用人はまた台車に荷物を載せ、忙しそうに駆け回っている。
おそらく朝会った時から式の準備に追われていたのだろう、大変だ。
「ありがとうウザール、わかったわ。さて、そろそろリシュたちも着く頃かしらね。迎えに行きましょうか」
案内された控室に入って早々、サラが提案をする。
そうだ、もう三人いるって言っていたっけ。
それも全員女だとかなんとか。この流れからすると間違いなく残り3人も可愛い美少女なんだろうな。
できればディアみたいに落ち着いた子だといいのだけれども……。
「……っ! こちらから出向くまでもなかったようだな」
「……リシュたち、きてた」
控室を見渡してみると、どうやらその残りの仲間は既にやって来ていたようで先に席に座っていた。
一人は青みがかかった髪色で艶やかな雰囲気を醸し出している女性。
それとは対照的に赤い髪で目つきも鋭く、なんだか態度の悪い女性。
この二人は俺よりも年上だと思うが、最後の一人は俺やサラと同年代くらいの少女だ。
髪は黒、彼女も剣を装備しているがあれは刀身が細いのでレイピアだろう。
そう考えると俺を含めたら剣士が四人もいるのか。なんだかバランスが悪そうだ。
「ルーナ、ソーラ、リシュ、既に着いていたのだな」
「はい、少し早めに着いてしまったので休憩させて頂いていたところなんですよ」
「相変わらずここの飯はうめぇな! 流石金持ちって感じだぜ」
「ソーラ、行儀が悪いですよ」
「うるせぇな、いいだろ別に。ったくルーナはいちいちめんどくせぇんだから」
あの落ち着いた人がルーナであの荒っぽい人がソーラ。
ということはあのレイピアの少女がリシュ。
テーブルの上に置いてある料理をガツガツと食べているソーラ。まだ出会ってほとんど経っていないが、この短時間でこの人がどういう人なのか大体把握できてしまった。
「…………………………ソーラちゃん?」
「げっ……!?」
……なんだ?
なんか感じが変わった。
「誰がめんどくさい、と?」
「わ、悪い! 俺が悪かった! だから許してくれ、頼むっ!」
優しいお姉さんオーラを持つルーナの雰囲気が瞬時にして変貌した。
表情自体は変わらず笑顔のままだが、目が笑っていないのだ。その場の空気すらも凍らせてしまいそうな冷たい視線。というか普通に寒くなっているような気がする。
その眼光はあんなに態度の悪かったソーラを一瞬にして屈服させてしまう。どうやらルーナは普段は優しいお姉さんだが、怒らせたらヤバイタイプのようだ。
「ふふ、わかればいいんです」
「相変わらずルーナは怒らせない方が身のためね……」
「確かに……」
切り替えも早い、ソーラが謝罪するとルーナは一瞬にして元の笑顔に戻った。それと同時にこの場を瞬間冷凍させていた冷たい空気も消滅する。
サラが俺に耳打ちしてきたが、サラとレティのやり取りといいこれも仲間内ではお決まりのシーンといったところなのだろう。
仲が良いんだか悪いんだかわからない。
「シン君、久しぶり~」
「え、あ……久しぶり、です」
俺の存在に気付いたのかルーナはこちらに向かって微笑み、手を振ってくれた。
しかし、俺は今の鋭く冷たい目を見てしまっているのでちょっとビビってしまう。あれが自分に向けられたらと思うと怖い。
「おーうシン、そろそろ嫁は誰にするか決めたか? まぁどうせ俺だと思うがな」
「ふ~ん……ソーラちゃんは自分が一歩リードしてるとでも思っているのね」
再び見せたその冷たい目と空気に俺は思わず委縮してしまった。
「っ……、これだけはルーナには譲らねぇぞ。シンは俺の将来の夫って決まっているからな」
「それはソーラちゃんの中では、でしょ。己の願望を垂れ流したらシン君は困っちゃうじゃない。シン君は私と幸せに暮らすって言ってくれるはずなのに」
「んだとぉ!?」
「ね、シン君?」
「どうなんだよシン!」
この流れはさっきもやったはず。なぜ俺にバトンパスをしてしまったのか。本当にやめてほしい。
こんなの修羅場以外の何ものでもない、第一俺はこんな場面の掻い潜り方なんて知らない。
いくら妄想シチュのバリエーションが豊かだといっても修羅場で迫られる男のシーンなんて妄想したことがない。流石に無理というものだ。
「俺よりちょっと早く産まれたからって調子のんなよ!」
「それでも私が姉であることに変わりはないわ。姉より優れた妹なんて存在しない、これは恋愛に関しても当てはまるの」
「そんなのわからねぇじゃねぇか!!」
「ふ、どうやら姉妹で決着をつける時が来たみたいね。今日でどちらがシン君にふさわしいのか白黒つけようじゃない」
「いいぜ、どうせ勝つのは俺だがな」
なぜか俺の取り合いで姉妹喧嘩(?)が始まった。
なんでこんなにハーレム状態なんだよ俺、流石におかしいだろ。
「ちょっ、二人とも落ち着いて……え?」
すると頭を抱える俺を見かねたのか、最後の一人であるリシュが腰を上げた。
そのままそのことに気付かない二人に割って入り、腰に下げたレイピアを抜いて言い争いを制するかのように振り下ろした。
「「……っ!」」
「……そろそろ静かにして」
二人の動きが止まる。
驚いた。先ほどのルーナもすごかったが、リシュから感じるのはそれ以上の鋭く冷たい怒り。
内に秘めた静かなる闘志、今の彼女にはその言葉がピッタリ当てはまる。
彼女はあまり口数が多くはなさそうだが、心の芯はここにいる誰よりも強そうだった。
「ありがとうリシュ、助かったよ」
「別に、ただうるさかったから黙らせただけ」
「おお……」
「……?」
この姿になってから初めて女性から明確に好意をぶつけられなかったため、逆に感動すら覚えてしまった。
このドライな返答から察するにリシュは俺に対しての明確な好意を持っていないと見ていいだろう。
まさか冷たく接せられて安心する時が来るなんて思わなかった。
「失礼します。お嬢様、時間です」
「準備は終わったようね。さあみんな、式場に向かいましょ」
先ほどのウザールと呼ばれていた使用人が再び現れ、俺たちを式典へと案内するとのことだ。
式場の準備は終わったらしく、豪邸中の使用人が控室の外に集まって道を作っている。
サラが式は屋敷に隣接した大きな式場があるからそこでやるって言っていたが、自宅で式典やるとかすごすぎる気がする。
「シン様、あなたが先頭で入場して頂けますようお願いいたします」
「は、はい。わかりました」
身に覚えのない表彰だし、どういう気持ちで臨んだらいいのか全くわからないが、それっぽくこなすことが今の俺の使命。
勇者っぽく……英雄っぽく…………よし、行くか。