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第2話 外に出たらそこは異世界だった

「よいしょっ、と。うっわーまだ朝早いね。朝食まで時間あるし、私とイチャイチャでもする?」


 俺の言いつけ通り、隣で寝ていた名も知らぬ彼女はベッドの横に無造作に脱ぎ捨てられていた服を手に取り俺の目の前で着替え始めた。

 これまで露わになっていた彼女の素肌は衣服によって徐々に隠されていき、安心したようなガッカリなような複雑な気持ちにさせるてくる。

 こんな美少女の下着姿なんてそう拝めるものでもない、出来ればもう少し目に焼きつけておきたかったが……なんて、そんなこと言っている場合ではないな。

 

「ねー、聞いてるー?」

「わぁっ!? ああ、うん」

「んん~……?」


 いけない、いくら高校で碌に恋愛できていないからってここは我慢する時だろう。

 落ち着け、今置かれている状況を理解しろ。

 俺はなぜかこの場所にいて姿が変わっている、謎の美少女が隣にいた。……ダメだ、わけがわからない。


「またスルーされたか……ちぇっ」


 ……しかし、服を着た彼女もまた美しい。

 日本ではあまり見ないような服装だが、これは西洋の服なのだろうか。

 先ほどまで下ろしていた髪もゴムで結ってポニーテールになっている。

 おしとやかな雰囲気から一気にスポーティさが生まれ、これまた違う活発そうな雰囲気を醸し出していた。

 ……こっちも捨て難い。


「な、なんか顔に付いているかな。そんなマジマジと見られると流石に恥ずかしいんだけど……」

「あっ! ご、ごめん!」


 しまった、またつい見惚れて思考の世界に飛んでしまっていた。

 それもそのはず、下着姿の時は恥ずかしさのあまり直視できなかったが、服を着てしまったのならそれは別だ。

 見ても大丈夫だと思ったら余計見てしまうのは必然。必然なんですよこれは。

 とはいえ流石に自重しないといくらこの子が好意剥き出しとはいえ何言われるかわからない。一旦落ち着こう。


「でもシンに見られるならいいっていうか、むしろもっと見てっていうか……。えへ、えへへへへへ」

「……ッ!」


 その瞬間、決意むなしく俺は雷に打たれたかのような衝撃を受ける。

 彼女は俺そっちのけで顔を赤らめクネクネと体を揺らしているのだ。素直に可愛い。


「き、今日は天気がいいみたいだからちょっと散歩でもしないか? 朝食までまだ時間があるんだろ……?」

「散歩? いーよ、これも早朝デートってやつかもだし」

「あ、ああそうだな」


 どうにかこれで話題を変えられたようだ。危うくボロを出すところだった。

 彼女は既に身支度を済ませているのでクルッと入口のドアの方へと振り向き、ドアノブに手をかけた。

 対する俺はというと、今現在の格好はシャツに軽めのズボン。基本的な部屋着の格好だが、早朝の散歩ならこれでも大丈夫だろうと思いこのまま行くことにする。

 俺は彼女に続いてドアを引き、後を追うようにして部屋を出た。


「…………ほわっ!?」


 外に出てまたビックリ。部屋を出た先の廊下がめちゃくちゃ広いのだ。

 床全面には赤いカーペットが敷いてある。しかも、高級そうなやつ。

 天井にはシャンデリア。

 それにこの廊下はどこまで続いているんだろうか? 部屋がいくつもあるし、一人にされたら余裕で迷子になってしまいそうな気がする。

 俺、やっぱり気付かれないうちに金持ちに誘拐されてたのか?


「何突っ立っているの? 早く行きましょうよ」

「……おう」


 なんだここ、絶対日本じゃない。

 でも日本語は通じてる。やはりここは日本?

 もう脳のキャパシティは限界だ。早く目覚めてくれ現実の俺。


「おや、おはようございますサラ様、シン様」

「うん、おはよう」

「お、おはようございます……?」


 彼女の後ろにくっついて歩いていると、反対方向から台車を引いている執事のような恰好をした白髪眼鏡の老人がやって来た。

 反射的に挨拶を返してしまったが、彼も俺の名前を当たり前のように知っている。なぜだ……。


「ちょっと外に出てくるわね。多分そんなにかからないと思うから」

「はい、どうかお気を付けて」


 これ使用人ってやつだろうか。この豪邸なら居てもおかしくはない気がする。

 あ、そういえば今あの使用人は彼女のことを「サラ様」って呼んでいたけど、それが彼女の名前なのだろうか。

 ちょっと試しに呼んでみよう。


「サ、サラ?」

「何?」

「おお……!」

「え?」


 偶然とはいえこれはナイス収穫だ。これで呼び名という問題の一つが解決した。

 また泣かれそうになっても困るしこれは大きいぞ。


「ごめん、呼んでみただけ」

「ぷっ、変なシン。そんな珍しいこともするんだね」


 サラは笑うという動作だけでもその美少女っぷりをこれでもかと見せつけてくる。それに俺は初対面のはずなのに警戒心0でだ。

 正直堕ちそうです。まだ出会って数分なのに。


 その後は誰とも廊下ですれ違うことはなかったが、サラの後に続いてこの豪邸を歩いていると視界に入ってくるものがゴージャスすぎて開いた口が塞がらないでいた。

 廊下も広ければ階段も広い。一階に着く時なんて国会議事堂のようにフロアのど真ん中に階段が続いているのだ。

 こんなのドラマとか漫画でしか見たことないって。


「ご苦労様、少し外の空気を吸ってくるわ」

「おはようございます、お気をつけて」


 階段を降りた先にいたのは銀色の鎧を身に付け、長槍を立てるようにして武装している人だった。

 この人はどうやら警備員のようだが、なぜ甲冑身つけて槍持ってるのだろう。過剰武装ではなかろうか。


「シン様もお気を付けて」

「あ、どうも……」


 階段の両脇に一人ずつ同じような鎧の人が立っており、俺はもう一人の警備員から挨拶された。

 声の低さから察するに男性であることは間違いないのだが、鎧のせいでどんな人に声をかけられたのかがわからない。

 警備員って客のニーズに合わせてこんな格好もしなくちゃいけないのか。


 なんてことを考えていたら先を歩いていたサラがおそらくこの豪邸の出入り口にあたるであるだろう扉に手をかけた。

 なぜだろう。もう嫌な予感しかしない。

 この先に進むと俺の中の常識が常識ではなくなってしまうのではないか、そんな虫の知らせにも似た危険信号を俺の脳が発している。

 無情にもサラはその扉を完全に開放し、俺の視界には豪邸の外の景色が飛び込んできた。


「ははは……なんとなく想像できてたよ……」


 扉の向こうは現代日本の日常的な景色ではなく、田舎の緑豊かな景色なんてものでもない、非日常そのものだった。

 まだ完全に日は登っていないが、それでもわかる綺麗な青空。ここまではいい。

 あの空に飛んでいるものはなんだ? 

 飛行機? 

 それにしてはフォルムがゴツゴツしてない? 

 あ、今首が動いた。

 生きているよねあれ。っていうかドラゴンに見える。


「今日はドラゴンが飛んでるのかー。珍しいね」

「そ、そうだな……ははは」


 珍しくはあれどドラゴンが存在すること自体は普通なのか……。

 そりゃそうか、さっきサラが魔王を倒したとかなんとかって言ってたし、ドラゴンのような伝説上の生き物が存在してもなんらおかしくはないのだろう。


 つまりここは日本ではなく、小説やアニメなどに出てくる『異世界』と呼ばれているような世界なのかもしれない。まず、日本では空に飛行機は飛んでもドラゴンは飛んでいないしな。というか外国でも飛んでませんわ。

 もしかして俺は架空の世界に来てしまったのでは?


「さーて行こうシン、早朝デートだよデート!」


 サラはその場に立ち尽くす俺の手を半ば強引に引き、散歩という名の異世界観光へと俺を連れ出した。

 ウキウキするサラとは対照的に俺は女の子と手を繋ぐことなんて初めての体験だし、それもかなりの美少女相手ときたもんで心臓の鼓動がものすごい速さで加速していた。こんなもん緊張するに決まってるだろ、手汗かいていないだろうか……。


「…………ん?」


 あまりに緊張しすぎて握った手を凝視していると、自分の右中指にはめられているシルバーリングが目に入った。

 特に宝石などが装飾されているわけでもなく、見るからに安っぽい代物のようだ。

 あれ、このリングどこかで……。


「シン、なんか手汗すごくない?」

「えっ!? 悪い、嫌だったよな……」

「全然、シンなら嫌じゃないよ。さ、開門ー」


 豪邸を出た先にある、おそらくこの豪邸が立つ敷地への入口となっている門がサラの一言によって開門されていく。

 門の側には豪邸内と同じように銀の鎧を着た警備員が数人ついており、警戒を怠っていない様子だ。

 その門を潜ると、現代日本のような住宅街とまではいかないが、ある程度家が密集している町並みが目に飛び込んできた。


 まるでファンタジーの世界のやって来たようだ。多分そうなんだろうけど。

 まだ早朝なので人通りは少ないが、俺とサラを見かけると住民たちは皆元気よく挨拶をしてくれる。

 サラのような普通の人間もいれば耳の長いエルフもいるし、獣耳や尻尾の付いたコスプレチックな人たちもいる。

 中にはそのまま動物が二足歩行になっただけでしょ、って感じでそのまんまの獣人も丁寧に挨拶をしてくれた。

 俺はその挨拶を重ねていく内にこのバラエティ豊かな住民たちに慣れ始めており、そんな自分に恐怖を感じてしまう。慣れって怖いな。

 自分の中での当たり前が崩壊し、元からこれが普通だったのではないかと錯乱しているのだ。


「あら、英雄殿、サラ様、おはようございます」

「おはよう」

「おはようございます」

「今日の式典行かせて頂きますからね。それではお気を付けて」

「……式典?」

「ほら、今日は私たちが魔王を倒して世界を救ったことで表彰される日じゃない。その式でシンは英雄としての称号が与えられて、名実共にこの世界のヒーローになるっていう」


 ……英雄? 俺が……?

 俺が何かしたと言っているのだろうか。 


「さて、その式がこの後あるわけだし、散歩はこのくらいにしておきましょ。今日でシンが英雄の称号を貰ったら私は英雄婦人かぁ……。世界を救った英雄夫婦……うふ、ふふふふふ……!」


 サラは隣で困惑する俺を気に留めもせずスキップをしながら来た道を戻っていく。

 一方、俺はまたあらゆる情報を詰め込まれ頭の中がパンク状態だった。

 もはや俺に残された道は流れに身を任せることのみ。

 さらには一向に現実で目を覚まさないことからこれは夢ではないことが段々と現実味を帯びてきている。

 ……どうしてこうなった。



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