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第18話 嫌な予感が当たろうとしていた

 リープが作り出したゲートと呼ばれる空間の裂け目を抜けると、そこは目的地であるアンリクワイテッドだった。

 元からこの世界は中世の雰囲気に所々新しい技術が拡張されているような世界観だが、この町は少し大きな城塞のような建物が多い印象を受ける。

 聞くところによるとこの町はリーベディヒ王国の一番外側に位置するようで、隣国と隣合っている町なわけだ。

 国境の境目である町はそれなりに防衛手段を持たせておくべき、という思考からなっているものなのだろう。


「……ゲート、閉じるね」


 最後に裂け目を抜けたリープが今度は逆回転で円を描きそれを消滅させた。

 これまで一向に能力がわからなかったリープがここに来て物理法則? 何それ美味しいのってレベルすら逸脱している力を発揮している。

 こんなの風がないのに花びらが舞ったり、何もないところから氷を生成したり、武器の形状を変化させるのなんて目じゃないほどの力だ。

 一体リープは何者なんだろう……。


「さて、僕はこの町の警備を指示しに行ってくるよ。しばらく別行動だね」

「うむ、わかった。我々は一度町を見て回ることにするか」

「そうね、とりあえず町全体に異変がないかだけ確認しておきましょ」

「では英雄御一行、さらばだッ!」


 アンリクワイテッドに着いて早々ムラサメは町の警備を指示しに向かって行った。

 出発の際のように髪を手で掻き上げ、マントをバサッと翻し、華麗に去っていく。

 まるで絵に描いたようなナルシストぶりだ。ちょっとイケメンだから様になっているのが腹立つけど。


 残された俺たちはとりあえず町を見回りすることに。

 日も落ち、辺りは暗くなっているが、そんな時こそ一層警戒を強めなければならない。

 この暗闇に乗じて何かが起こってもおかしくはないのだから。


 ……と、ディアが言っている。

 俺は外見だけなら英雄シンだが、中身はただの一般人倉本真。

 本来ならこういう人たちに守られたい側なのだ。こういう時は周りの意見に便乗するしかない。


「それにしても大きい建物が多いな。隣国に攻められたりしないためか?」

「あれ、シンってこの町に一度来たことあるわよね?」

「あっ……!」


 やべっ! 何も考えずに思ったことをそのまま口にしてしまった。

 俺はこの町を訪れるのは初めてだが、「シン」が一度も訪れていない保証はどこにもないわけで。

 このままでは俺が「シン」でないことがバレてしまう。なんとか軌道修正をしなければ。


「……いや、ちょっとド忘れをだな。確認だ、確認」

「ふーん、まあいいんだけど」

「シン、それで合っているぞ。この町はいわば隣国に攻められた際の防衛ラインだ。砦となる建物をなるべく多く建築し、しっかり迎撃の態勢をとれるように設計されていると聞く」


 ふー、危ない危ない。自ら墓穴を掘るところだった。

 どうやら俺の思っていたことは正しかったらしく、本当になだれ込んで来た敵兵を砦の中から遠距離攻撃で迎撃するようになっているらしい。

 夜なので見づらいが、よく見ると砦となっている建物からは鎧を着た兵士や、レティのようにトンガリ帽子を被っている魔法使いが常に警備をしているようだ。



「今のところ何かが起こっている気配はなさそうだね。警備の人たちも慌ただしい動きは無さそうだし」

「戦争を企てているって情報が伝わればこんなに落ち着いた感じもなくなるんじゃないか? 一番最初に攻め込まれるのってこの町なんだろ?」

「今ムラサメが警備に指示を出している頃だろう。そろそろ動きがあっても不思議じゃない」


 しばらく町を歩き回ってみたが、これといっておかしなところは確認できなかった。

 ムラサメの話では魔族の目撃情報が増えているという。こういう夜にこそ現れてもおかしくはないと思うのだけれど。

 それとも、嵐の前の静けさというものだろうか。

 ……ん?


「ハッ、この森の方角への警備を強化すればよいのですね」

「うむ、最近魔族は森の方角から現れているという情報が多くてな。国境警備を怠るわけではないが、今は町の住民の安全が第一。そちらに兵を回せ」

「了解しました。おい、国境の警備を削って森の方角への補強に回せ」

「ハッ!」


 あれは……ムラサメか?

 俺はサラたちと町の中を歩いていると、兵士に指示を出しているムラサメの姿を発見した。

 なにやら国境の警備を削って他に回すってことを指示しているようだが。


「……あれ?」

「どうしたのシン」

「いや、今国境の警備を削るのってどう思う?」

「え、ダメでしょ。戦争仕掛けられるかもしれないって時なのよ? 自ら防衛ライン弱めてどうするのよ」

「だよなぁ……」


 確かに魔族出没の問題もあるからそっちを強化するのは間違ってはいない。

 しかし、今の問題はそれだけじゃないはず。

 直接バイフケイト国と隣合っているこの町には、そちらよりも国境の警備を優先するべきではないかと思うのだが……。

 ムラサメなりの考えがあるのかな。国に仕えてるって言ってたし、きっとそうだろう。

 まだ戦争が起こるって決まったわけじゃないから優先度は逆なのか? いや、でもなぁ……。

 なんてことを考えていると、

 

「伝令ー! 伝令ー! 魔族が出没ー!!」


 もはや散歩気分と化していた俺たちの横を鎧を身に付けた兵士たちが叫びながら駆けて行った。

 大慌てで町の外へと兵士たちは続いていく。どうやら町の外に魔族が出没したみたいだ。


「どうやら目撃情報が頻繁に出ているってのは本当だったようね。こうもあっさり出くわすなんて」

「どうしますお嬢様、我々も向かいますか?」

「うーん……よし、ここは二手に別れましょ。私とディアがあの兵士たちについていくわ。シンたちはこのまま見回りを続けて」

「わかった! 気を付けてね!」

「行きましょうお嬢様」


 隣国とは大きな壁で隔てられており、それが国境となっている。

 バイフケイトからこの町へ侵入する入口は大きな門一つしかない。

 魔族が現れているという森の方角はその門から真逆の位置。

 サラは俺たち全員がそちらへ向かうことを不安に思ったのか、二手に分かれて行動することを提案した。

 今兵士も門の反対側に流れていったように、この町の戦力の大部分がそちらへ集中することになっている。

 つまり今国境の警備は手薄。何も起こらなければよいのだが……。


「……なんか、嫌な予感が……する」

「俺もだ。いくら魔族とはいえ兵士がそちらに流れてしまっているからな。この瞬間に攻め込まれたらヤバいかもしれない」

「でも戦争が始まるって確定はしていないんでしょ? じゃあちょっとくらい大丈夫じゃない?」


 そう思いたい……が、人間一度不安に思ってしまったらそれがずっと気になってしまい、やがて心の中でそれは大きな問題なのではないかと不安が成長してしまうもの。

 そして「どうせ大丈夫でしょ」はシナリオ的にフラグとなる言葉だ。登場人物がその台詞を吐くと大抵最悪の方向へとストーリーが流れていく。

 その言葉を今レティは口にしてしまった。と、いうことは。

 

「……いや」

「いや?」

「レティ、その門っていうのはこの方向で合っているよな?」

「うん、このまま真っ直ぐ行ってあの城塞みたいな建物の先にあるよ」


 絶対何かが起こる。

 これは俺の精神が入っている英雄の体がそう囁いているのか、俺自身の野生の勘なのかはわからない。

 だが俺は確信していた。この後物語が動くということが。


「レティ、リープ。今すぐ門の方へ向かうぞ! 兵士が反対方向に流れてしまっている今、バイフケイトとしては攻め込むチャンスでしかない」

「ええ!? 確かにそうだけど……」

「……あっ」


 俺たちが話し合っていると、その隣を今度は門の方向へと兵士たちが駆けだしていった。

 先ほどよりも数は少ないが、それぞれ配置についていた兵士たちが持ち場を捨ててまで集まろうとしているようだ。


 ……つまり、


「伝令ー! 伝令ィ!! バイフケイトが攻めてきたぞおおおお!!!!」


 フラグ回収お疲れ様です。

 俺の嫌な予感は的中したようで、本当に攻めて来ちゃったみたい。


「ええぇぇぇぇ!? シンの言っていたことがすぐに起きちゃった!!」

「……シンが、余計なこと……言うから」

「俺のせいじゃねぇ!!」


 確かに俺の台詞もフラグになっていたかもしれない。

 嫌な予感がする、って言葉もフラグになりやすい言葉だったなー……やってしまった。

 でもそれは俺だけじゃないだろ! レティもリープもそれっぽいこと言っていたじゃん!


「とにかく俺たちも門の方へ向かうぞ! 今国境の方に戦力が少ないはずだ」

「うん!」


 そうだ、移動ならリープがいるじゃないか!

 また空間の裂け目を作ってもらって瞬時に移動すればいい。


「リープ、またゲートを開いてくれ」

「…………えー」


 えー。

 なんか乗り気じゃない様子だ。なんで?


「……たまには、運動も……大事」

「…………」

「……じゃ、走ろっか」


 レティはその案をすぐに諦め門の方角へ駆け出した。

 すぐに俺とリープも後を追う。


 戦争が始まったかもしれないっていうのに緊張感無さすぎだろおおおお!!

 

 

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