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第10話 能力は時間制限がありました

 英雄シンの放った『ケラウノス』により魔族の男は完全に消滅した。

 男のいた周囲の木や草は裁きの雷によって黒く焼かれ、『ケラウノス』の威力がどれほどのものだったかを物語っている。


 比較的近くにいたサラも巻き込まれていないか心配になるほどの破壊力だったが、始まりの証となっている傷のある木も含めて命中範囲には入っていなかった。

 おそらく英雄のことだ、元からそれを計算して『ケラウノス』の威力を絞ったのだろう。

 それでもこの威力。もし彼が全力で能力を使用した場合、どれほどの破壊力を持つのかは想像できない。

 その『ケラウノス』はというと、シンが拾い上げると同時に元の剣の姿へと戻り、そのまま背中の鞘へと収められた。


「さて、ここは霊鳥の森か? 随分懐かしいところにいるんだな」

「シン! た、助けて!」

「ん、そんなところで何やっているんだサラ。『封力の縄』に巻かれてるじゃないか」

「何って私がシンを庇ったからでしょー! 早く解いて~!!」

「え……なんのことだ? ああもう喚くな! 今解いてやる」

「う~……!」



   ◇   ◇   ◇



『で、どういうことなんですかこれは』

 

 今俺は謎の空間に「ゼウス」と名乗る老人と共にいる。

 彼の助言の通りに『ゼウスの神眼』を発動させると俺の精神だけがこの空間に飛ばされたのだ。

 なら俺の精神が入っていた「シン」の体はどうなったかというと、元の持ち主である英雄シン本人の精神が戻ってきており、彼がそのまま魔族の男を倒した。

 原理はわからないが、ユニーク・アビリティを発動したことによって俺の精神が弾き出された形なのだろう。


『どうやら神眼を使うと元のシンの精神が戻ってくるみたいじゃな~。そんで、行き場を失ったお主の精神が霊体のようになってこの場所にいるのじゃろう』


 ゼウスのじいさんはどこから取り出したのかお茶を啜っている。

 自らを最高神だと名乗っているのにも関わらず、何やらまったりとしているせいで本物の神と対面しているという実感が俺にはなかった。

 いや、そもそも本当に神なのだろうか……。


『えと……なんで英雄の精神が戻ってきたんですかね?』

『ふむ、その前にユニーク・アビリティについてだけ説明しておこうかの。ユニーク・アビリティとは人がそれぞれ体から放っている「気」から生まれるものなのじゃ』

『気……ですか?』

『左様。「気」とは人間が持つ目に見えないエネルギーのような物と考えればよい。人間は各々がそれぞれ異なった固有の気をその身に宿している。つまりは人間の数だけ気の種類があり、さらにはユニーク・アビリティもあるというわけじゃな』


 つまり……ユニーク・アビリティは元は人間の気からなっていて、その気は人それぞれ違うから必然的に固有の能力になっている……ということだろうか。

 

『まだ質問に答えていなかったの。恐らく原因はそこだと思うのじゃ』

『英雄が元に戻ったこととユニーク・アビリティがですか?』

『うむ、お主はあの体の中にいたので能力の発動自体はできた。ここまではよかったのじゃが、人間の気というものはその者の精神によって差異が出るものじゃ。完全固有能力である「ゼウスの神眼」はシン本人の精神にしか扱えない。彼のユニーク・アビリティが発動したことによってその能力自体が本来の使用者を呼び戻したと考えられよう』


 つまり、どういうことだ?

 「シン」の体に入っていたから発動はできたけど、ユニーク・アビリティは本人の精神にしか扱えないため、必然的にその能力自体が本来の持ち主である精神を強制的に呼び戻したって解釈でいいのだろうか。

 で、不純物だった俺はここに弾き出されたと。


『まあ、あまり難しく考えない方がいい。神眼は彼だけが使える能力だから、と考えるのが一番手っ取り早いじゃろう』

『な、なんとなくわかりました。それで、あのユニーク・アビリティはどういう能力なんです? なんか滅茶苦茶強かったですけど』

『「ゼウスの神眼」はワシ、最高神ゼウスがモデルとなっているEXクラスのユニーク・アビリティじゃ。ワシの武器である「ケラウノス」を始めとしたあらゆる神々、さらには神話や伝説上の武器を変形・召喚して使うことができる』

『えぇ……ちょっと強すぎませんか?』

『それに身体能力も大幅に強化してくれるオマケ付きじゃ。武器を大量に召喚して飛び道具として使うなんていう荒業もできるぞ』


 流石英雄、能力がチート級だった。

 ということは先ほど彼の使っていた力はこのユニーク・アビリティの半分どころかほんの一部分でしかないということ。

 パッと思いつく物ならオーディンのグングニル、トールのミョルニルだったり、伝説の武器だったらアーサーのエクスカリバーなんてものも使えてしまうってことか。

 それも大量召喚可能ときたもんだ。

 魔王を倒せてもおかしくないスペックである。


『ああ、でも1つ欠点がある』

『欠点?』

『発動可能時間が短く、効果が切れると体力の消耗が激しいのじゃ。まさにここぞという時のための切札というわけじゃな』

『えっ、……ってことは?』

『もう切れると思う』



   ◇   ◇   ◇



「よし、解けたぞ」

「ありがとうシン。ふぅ、良かったー」


 サラは縄が解けたと同時に勢いよくシンに抱きついた。

 最終的にシンが瞬殺したとはいえ、敵に不意打ちにあい、一時はピンチに陥ったのだ。

 サラはなぜか戦わないシンを見て不安を覚えていたのだろう。


「うおっ、いきなり抱きつくな! それで、一体どうしたんだ? なんで霊鳥の森に?」

「え? なんでって今日は朝からずっと一緒にいたじゃない」

「いや、俺はたった今もど…………っ!」

「シン……?」

「…………………………え」

「え?」

「あれ……? 目の前にサラがいる」


 戻ってきてしまった。

 俺はゼウスのじいさんと精神世界にいたはずだったが、また「シン」の体の中に逆戻り。

 どうやら『ゼウスの神眼』は時間制限を迎えたようで、発動を終えるとまた俺がこの体に戻ってしまうらしい。

 精神だけ弾き出されたままあの精神空間の閉じ込められるのかと内心ヒヤヒヤしていたので良かったいえば良かったのだが。


「ん~……?」

「その……なんだ、冗談だ」

「今日のシン冗談多くない? さっきも戦い始めるまでなんか変だったし」


 うぐ、流石に鋭い。ああも感じが違っちゃ仕方がない気もするけど。

 あっちが主人公だとするなら俺はただのモブ。その違いは歴然で、見てくれは同じだったかもしれないが中身は月とすっぽんだったわけで。


 ……しまった。

 ゼウスのじいさんがなんでこんなことになっているのか知っていそうな雰囲気だったのに聞きそびれてしまった。

 ゼウスのじいさん、ゼウスのじいさん。聞こえますか? 聞こえたら返事をください。


 ………………。


 ゼウスのじいさんから応答はない。どうやら助言をくれたあの時が特別だっただけで、常時やり取りすることはできないようだ。

 ああ、せっかく手掛かりが見つかったと思ったのだが……。

  

「……久しぶりの戦闘で体がなまっていただけだ。あの後ちゃんと倒しただろ」

「ふーん、そっか。『ゼウスの神眼』を使えるのはこの世界でシンただ一人なんだし、偽物のはずはないよね。うん、私の思い違いかも」

「誤解させて悪かったな。すまないサラ」

「なんか昨日から新しいシンの顔が見れて新鮮だし大丈夫大丈夫」


 まあ、『ゼウスの神眼』の発動方法自体はわかったわけだし、いざという時になったらまた英雄を呼ぶことにしよう。

 その時はまたあそこに飛ばされるだろうし、その際ついでに聞き出せばいい。

 

「ってあれ……体に力が入らない……」

「うわわわ『ゼウスの神眼』の発動代償だ。シン、掴まって」

「悪いサラ。恩に着る」

「強大な力はその代償も高くつく、を地でいくわよねーこの能力。時間は短いわ一度使ったらこうなっちゃうわで」

「全く不便なものだ……ぐっ」


 ちょっと軽い眠気を感じる。『ゼウスの神眼』の発動代償でとんでもない疲労感が襲ってきているせいか。

 このままじゃサラに寄りかかってしまう。しかし、俺の体はそんな意思に反してどんどん脱力していき……。


 そこで俺の記憶は途絶えた。

 


   ◇   ◇   ◇

 


「キャッ、シン!? ……寝ちゃった?」


 突如シンは力なくこちらに体重を預け、それに耐えられなかった私を下敷きにして倒れ込んでしまった。

 『ゼウスの神眼』を使ったことによりかなり体力を消耗してしまったのだろう、直前のダメージも相まって疲れ切ってしまったようだ。


 シンの頭が私の胸の上にあり、寝息がダイレクトで胸に当たってこそばゆい。

 少々恥ずかしいがある意味役得である。

 いつも私がグイグイいっては必ずシンに回避されているのでこういうシチュエーションは珍しかった。

 シンも寝ているし、もうしばらくこのままでいようかな。ちょっと気持ちいいし……。

 あっ……、そこに息を吹きかけちゃダメッ……!


 ――っていやいや、いくらここは森の中だといっても誰も来ないなんて保証はないんだよ!?

 もし、誰かが来てこんなところを見られでもしたら、フローラ家のご令嬢が真昼間から盛ってたなんて噂が広まってしまう。

 そんなことになったら父上になんて言われるか……。

 もう少しこの感覚を堪能したかったけど諦めよう。膝枕で妥協します。

 

「ふふっ、珍しくかわいい寝顔してる」


 既に時間はお昼時だ。澄み切った青空から降り注ぐ太陽の光が私たちを照らしている。

 聞こえる音は鳥の声や虫の音のみで周りに誰もいない、ここは正真正銘私たちだけの空間だ。

 膝枕をする私とその膝で眠るシン。そんな私たちを傷の入った木が正面から見下ろしている。

 

 思えば最初は二人だけだったのに随分大人数になったものね。

 おかげさまで恋のライバルが増えてしまい、シンと二人きりになる機会もめっきり減ってしまったが、それは女たらしのシンが全面的に悪いわけで。

 例え仲間の数が増えたとしても、シンと一番強く繋がりを持っているのは他ならない最初の仲間である私のはず!


 正妻よ正妻! シンだって最終的には私を選んでくれるはずなのよ!

 でも、みんな可愛いからな……。いや、私が一番好かれている自信はあるんだけどシンはそこのところどう思っているのかな。

 彼はあまりそういう面を見せてこないため、こちらはどう思われているのかが読みにくくてしょうがない。

 脈ありなのか脈なしなのかすら全く不明である。


 少しでも優位に立つためレティのように明るく接することも試してはいるけど、これは果たしてうまくいっているのだろうか……。

 それでも、例えシンが誰を選択しようと私は受け入れるつもり。それで私たちの関係が終わってしまうわけでもないしね。

 そして、できることなら……、


「好きだよ、シン……」



 これからも変わらずに、彼の最高の相棒でいたいな。

 


  


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