第1話 起きたら隣に美少女が寝ていた
「…………朝か」
早朝特有の清々しくも優しい日差しが窓から差し込み、薄暗い部屋を明るく照らしている。
どうやら随分と早起きをしてしまったようだ。
昨日帰宅してすぐに寝たおかげなのか、いつもの馬鹿友達とのカラオケ、ボーリング、買い物と一日中遊んだ疲労はもう体に残っておらず、もう二度寝をするほどの眠気はない。
たまには早く起きるのも悪くないかと目をこすりながら体を起こすと、何か自分の体に違和感を覚えた。
「……あれ、なんかいつもより筋肉ついてないか」
俺は自分の腕をソフトタッチ、そのまま昨日まではなかったはずの形のいい筋肉の感触を確かめていく。
昨日までと腕の太さが違う。まるで腕だけを強化パーツに取り換えたみたいだ。
流石にマッチョとまではいかないが細マッチョがもうちょい筋肉をつけたというぐらいか。中マッチョ? 普通マッチョ? なんて呼べばいいのかな。
よく見るとたくましくなったのは腕だけじゃない、胸部、下半身と全身どの部位にもほどよく筋肉がついている。
さらにはシャツをたくし上げてみるとそこには彫刻のように綺麗に割れた腹筋が。
なんだこの絶妙にセクシーな男は、こいつは本当に俺なのか?
流石に異変を察知したので周りを見渡してみると、どうやらここは慣れ親しんだ自室ではないようなのだ。
一人用のベッドで倒れ込むように寝ていたはずだが、今俺が寝ていたのは二、三人は同時に寝れるような大きなベッドで、上部には天蓋が装飾として付けられておりまるでお姫様のベッドのよう。
……ここはお城か何かか? それともエッチなホテル?
他にも情報が欲しいのだが、ベッドの周りは全方面にある天蓋の布によって遮られ、まだ部屋が薄暗いことも相まってか部屋の内装がよくわからない。
誘拐? いや、でも自宅から誘拐なんてあり得るのだろうか。それに俺は男……。
俺は状況が飲み込めないまま恐る恐る天蓋の布に手をかけ、息を飲みつつゆっくりとそれを右に開いた。
すると遮られていた視界の先にあった物はベッド横にあるサイドテーブルと鏡、そして恐らく窓の一部分。
テーブル横の鏡はこちらを向いており、寝起きの俺を映し出している。
「だ、誰だよこれ……」
体に異変が起きたのは筋肉のつきかたからなんとなく察してはいたが、なんと体だけでなく顔も変化していたのだ。
いや、どことなく俺の面影があるせいかそこまで他人感はないのだが、驚くべきはその顔面偏差値。
どこにでもいそうな平凡以下フェイスだった俺の顔が女子が百人いたら九十九人はイケメンと答えるほどの甘い王子様フェイスへと大変身を遂げている。
男の俺が見ても素直にかっこいいと思えてしまうほど寝起きとは思えない爽やかさ。一体これは誰なんだ……。
「………………なんだ夢か。まったくビックリさせやがって」
流石にこれはおかしな話すぎる。これが夢でなければなんだというのだ。
俺の脳は理解できる許容範囲を大幅に逸脱したと判断し、完全に思考を放棄する。
今自分の身に起きている事実に目を背け、これは夢だと自分に思い込ませることにした。
いくらなんでもおかしすぎる。もうあれこれ考える前にこれはこういうものと考えるほどが懸命だろう。
そうとわかれば現実の俺が目を覚ますのを待つのみ。
俺はせめてこの高級ベッドのふわふわ感を堪能しておこうと思い、再び仰向けのまま勢いよくベッドに倒れ込んだ。
すると、倒れた先に枕以外の異物があったようで、背中にぐにっとした感触が……。
「痛ァ!」
「えっ!?」
その異物はどうやら人間だったようで、俺の上半身の体重全てがかかったプレスを受けて悲鳴を上げた。
俺は予想外の出来事ですぐに飛びあがり、恐る恐る後方を確認する。
そこには痛みに悶えているのか顔を抑えながら小刻みに震える女の子がいた。
髪は綺麗で明るめなブラウンカラー、薄暗くてもわかる透き通るように美しい肌、腕を頭まで上げているので胸にある形の良い二つの立派なお山が見事に主張なされている。
というか服を着ていない、その人物の格好は黒色のランジェリー姿そのものだった
え、この人俺の隣で寝ていたってこと?
「あー痛かった。おはようシン、今日は随分早いのね」
混乱する俺をよそに彼女はまだ眠そうに欠伸をしながらおはようの挨拶をしてきた。
名前を呼ばれたのでどうやら向こうは俺のことはご存じらしい。間違っても初対面ではなさそうな崩した接し方だ。
でも俺は彼女の名前すらも知らない。
知るわけがない。だって初対面だし。
「う、うん。おはよう」
どちら様ですか? なんて返すこともできずチキンな俺はとりあえず話を合わせてしまう。
彼女の恰好が恰好なだけに直視することはできず、視線を外して右斜め下を向いていた俺を不審がったのか、服装が軽すぎる彼女は俺の顔を覗きこんでくる。
「……? どうしたのシン、なんかいつもと雰囲気違わない?」
「あ、えーと……なんで俺の名前を知っているのかなーなんて」
「え? なんでって何を言ってるのよ。私たちは共にあの魔王を倒してこの世界を救った仲間だし、そのまま愛を誓い合った仲でもあるじゃない」
「え」
愛を……誓い合った……?
俺が?
「それで昨日はあんなに私を滅茶苦茶にしちゃったのをもう忘れちゃったの? もしかして、私は都合のいい体だけの女……?」
そう言うと彼女は目に涙を浮かべて俯いた。
なんか泣きそうな様子を見せているが身に覚えがない以上、俺にはどうすることもできない。
というか滅茶苦茶にって何だ。俺はそんなこと知らない。俺は昨日友達と街で遊んでたいたはず。
とりあえず泣かれても困るから話を合わせて慰めるべきだろうか?
「うう……私なんかじゃシンに相応しくないよね……ぐすっ」
このままだと本当に泣き出してしまう。
なんとしてでもそれは避けねば。
「いや、ちょっとしたド忘れだ。だから泣くのはやめてくれ」
何か勘違いされているかもしれませんが私は倉本真です、って言った場合に彼女がどう返してくるのかちょっと想像つかないし、今の状況考え得るとそんなこと怖くてできない。
ならば、今はそれっぽく合わせて様子を見るのが一番だ。
つまり日々あらゆるシチュエーションで妄想を繰り返している俺の腕の見せ所というわけ。
この場合は彼女を勘違いさせかけている彼氏……彼氏……よし、いくぞ。
「そんなことを俺が忘れるわけがないだろう」
「本当? シンは私のこと必要? 側にいていいの?」
「勿論だとも。俺には君が必要だ」
「そ、そっかぁ……えへへ」
名も知らない彼女は俺のイケメン特権であるその一言により頬を赤らめ照れるようにして笑った。この演技力、自分で自分にいい評価を上げたい。
顔を赤くして笑う彼女の美少女っぷりに俺も心を奪われかけたが、冷静になるとどこの誰だか全く知らない人なわけで。
なんか一瞬表情が変わったような気がするけど気のせいかな。うん、気のせいだろう。
「えへへ~シン~」
「それよりちゃんと服を着るんだ。下着姿じゃ風邪ひくぞ」
「ふふ、ちょっとは私のセクシーな姿に見惚れてもいいんだよ?」
「いいから!」
「ぶー、釣れないなぁ……」
今初めて会った人の下着姿とか恥ずかしくてマジマジと見れるわけがないだろ……。
あ、でも正直もうちょっと見ていたいかも……いやいや待て待て。
というかなんでそんな姿で俺の隣で寝てたんだ? もう何がなんだかさっぱりだ……。