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出会いはいつも桜の木の下で  作者: 大川暗弓
2/4

承ける

 ふと、ここ一年の”仕事”がフラッシュバックする。

 僕は砕けた言い方で言えば幽霊退治、かしこまった言い方で言えば、除霊師という仕事に就いている。

 それは一年半前の時のことだった。中学校からの帰り道を歩いていると、道の片隅に半透明の人が立っていて、不気味がりながら通ったのを覚えている。生憎とその霊が襲ってくるような様子はなく、俺以外には見えていないことから、無視した。そして、それからの日々から少しづつ霊を見ることが多くなっていったが、どの霊も見ていて心地の良いものではないものの、害はなかったため見て見ぬふりをしていた。それを無視して生活できるくらいには肝の据わっていた性格には感謝しながら、時は過ぎていった。


 しかし、そんな生活は長く続くはずもない。そして、このときだったか。この男と最悪の出会い方をしたのは。

 それは夏の終わり、涼しい風が吹き、夕暮れが綺麗な日だった。友達と別れた後、いつもそこにいる半透明の女性が黒々としたオーラのようなものを纏って、普段はそこにいてじっといているだけなのに、その日は近くにいた人を襲おうと動き出したのだ。

 別にそこで逃げることも出来た。見て見ぬふりも出来た。しかし、僕の体はそれを許さなかった。気付けば走り出し、女性の伸ばした手を掴んでいた。瞬間、僕の後ろ側から手が伸ばされ女性の霊に、言葉が多く書かれた札のようなものを貼り付けると、女性の霊は砂時計が落ちるときのように空中に舞うように消えていった。僕はおそるおそる振り向くと、そこには真面目そうな、しかし服装はだらっと着崩したスーツ姿の男性がいた。

 

 「あ、あなたは......」


 「よう、少年。そのようだと霊のことを見えるだけじゃなく、触れられるみてえじゃねえか。」


 男の声は真面目な容貌とは裏腹に、適当で軽すぎる口調だった。


 「そ、そうだけど、それよりあなたは誰ですか?それに何をしたんですか?」


 「俺は狩屋。狩屋人正だ。何をしたか、か。俺は仕組みは良くわかんねえんだけどな。簡単に言えば、霊と呼ばれるいわゆる幽霊を退治したって感じか?」

 

 僕には言っている意味が分からなかった。もう半透明は存在の人が幽霊のような存在というのはだいたい分かっていたが、それを退治するい意味がよく分からなかった。

 

 「んー、まあ、ちょっと来い。説明なら詳しい奴がするべきだ。俺の仕事じゃない。それに今のお前は霊について知る必要が出来てきた。」


 狩屋と名乗る男は、俺に一瞥することなくそのまま歩き出した。僕は警戒したままいつでも逃げ出せる状態で男と間を開けながら着いていった。


 着いたのは少し古いイメージを思わせるアパートだった。しかし、ここに何か理由を示すものがありそうな気配はなく、変な雰囲気を醸し出しているわけでもなかった。

 狩屋に続くように一階の一室に入ると、そこは僕の知っているアパートとはかけ離れたものだった。中は2,3室はあるであろう広さになっていて、隔てていた壁は全て取り壊され一繋ぎにされていた。そして、カーテンは全て閉められていて、人工的な明かりとモニターが部屋を不気味に照らしていた。

 すると、中にいた椅子に座っていた女性がくるりと椅子を回転させて、こちらを見据えた。


 「おい、まさ。誰なんだ、こいつは。」


 いきなり、こいつ呼ばわりかよ。心の中で毒づくが口に出すほど葵は度胸がなかった。


 「そんないきなり怖い態度やめてくださいよ、やっさん。怖い態度霊触持ちの霊媒体質ですよ。」


 お互いをまさ、やっさん、と呼びあうあたりよほど付き合いが長いのだろう。

 女性にまさ、と呼ばれた狩屋は素っ気なく答えると、女性は目を輝かせて僕の目の奥を見通すように覗き込んできた。


 「おー、そうかい。それは珍しい。じゃあ、君は除霊師になるってこといいのかい?」


 「ちょ、ちょっと待ってください。僕いきなりその男の人に着いてこいと言われて着いてきただけで、何から何まで分からないんですよ。ひとまず、あなたは何者ですか。」


 その時の僕はとにかく状況がつかめなくて動転していた。


 「悪者。」


 そう口にした彼女の顔は涼しかった。


 「え?」

 

 「やっさんあまりからかいすぎると彼、逃げますよ。」


 やっさんと言われた女性は見ただけでも20代で綺麗に短くそろえられた髪や容貌からも相当な美人だが、この部屋の雰囲気も相まって危険な負に樹が漂っている。

 高い声で笑いながら、すまないねと言って、続けた。


 「ここで話を変えるのはおかしなことだが、もし仮に君の親友が捕まれば牢から出てこられない罪を犯したとして、その親友に最後にやりたいことを手伝ってと言われたら君は手伝うかい?」


 綺麗な瞳だが、その試すような視線はどうも苦手で、俺は反発するように強い声で答えた。


 「そんなの手伝うわけないじゃないですか。」


 「なるほど。それは君の心の中の正義的な何かかな?」


 「正義って程ではないですけど、良心的な部分です。親友とは言え、犯罪者になった人に手を貸すのはいけないことですから。」


 「見かけによらず冷たいんだな、君は。まあ、いずれにしてもその瞬間君は親友を裏切ったわけだ。少なくとも親友の中では君は悪者なわけだ。」


 「まあ、そうなってしまいますね.......。」


 「まあ、それを踏まえた上で私が私自身を悪者と言った理由も含めて、君の見える霊の話をしよう。君の見えていた幽霊のようなものを私達は”霊”と言っている。そして、霊は見える人と見えない人がいる。君は見える側の人間だ。それはいいかな?」


 僕は、はいとだけ答えるとすぐに女性は続けた。

 

 「そして、その霊は昔は生きていた人だ。つまりは死んで体を持たなくなった人。しかし、それだけでは霊とはならない。霊は死ぬ前にやり残した事がある人がなるものなの。」


 


 「じゃあ、道の上にいる彼らはみんなやりたいことがある人たちってことですか?」


 「ご名答。けど、彼らは私達にはれられないし、私達から彼らも然り。つまり彼らはやりたいことが誰かに会うことだったら、出来るかも知れないけど、誰かに握手したいということだったら、その願いは絶対に叶わない。そして、現実のものにもさわれないからものを移動させたいという願いも無理。そして、何より弊害となるのが彼らは私達、生きている人を認識できるけど、生きている人からは彼らを認識することは出来ないってこと。私達のような例外、霊媒体質を除いてだけどね。」


 「さっきも言っていたその霊媒体質ってなんですか?」


 「霊媒、幽霊の霊と媒質の媒と書いて霊媒。原理とかはまだよく分からないけど、霊感みたいな感じで”霊”限定で見ることが出来る人間を私達、国立霊研究所ではそう呼んでいるわ。」


 「その霊媒体質というのは霊感と何が違うんですか?」


 「霊感は幽霊とか妖怪とか多分存在しているんじゃないかってものを感じ取れるものよ。それと違って、霊媒体質は”霊”を限定的に見ることが出来る。ただ、霊感の悪いものを感じ取ったというのはだいたいは”霊”の仕業なんだけだけどね。」


 要するに霊感は色々なものを感じ取れる代わりに感じ取れるだけで”霊”を実態としては見れなくて、霊媒体質は”霊”限定だが、目視出来ると言うことなんだろう。


 「それで国立霊研究所というのは?」


 「そのままよ。国立霊研究所、略して霊研。霊媒体質の人間が集まって出来た組織。まあ、ちゃんと話すと、さっきの話に繋がるんだけど、”霊”は願いを叶えられたら砂のように消えていくの。ただ、叶えられないとそのままずっとこの世にいることになる。まさに生き”霊”と言った所かしら。」


 やっさんは堅い空気が嫌いなのか、はぐらかしたが不発に終わったようで、咳払いして続けた。


 「その生き”霊”は誰からも認識されることなく、何にも触れられず、ただ時を過ごさなければならない。それはあまりにも過酷。残酷なものよ。そして精神が崩壊していく。もう君は黒々としたオーラのようなものを纏った霊を見た?」


 「はい。それに襲われそうになったとところを狩屋さんに助けてもらったんです。」


 「なるほどね~。珍しいね、まさが人を助けるなんて。」


 「そいつがいきなり通行人を襲う暴霊を掴んだから、仕方なくだ。」


 「暴霊?何ですか。」


 僕はあまりにも初めて聞くワードが出過ぎて混乱していた。


 「あの黒々しいオーラ、私達は瘴気と呼んでいるんだけど、あまりにも願いが叶わずに精神が崩壊した”霊”はなぜか通行人を襲おうとするの。その時にその”霊”は瘴気を纏うの。」


 「でも”霊”は人に触れられないんじゃ......」


 「そう。襲おうとしてその人には触れられないんだけど、”霊”はその瘴気をなんとか晴らそうとして現実の人に近づくの。その時に瘴気はその人に大量に移るの。そして、その移った瘴気はその人に不幸としてなんらかの形で現実の世界に影響を及ぼすの。そこで霊研は異常に肥大化した瘴気を検知する装置を作ったから、この話を聞いた君も当事者ということで渡しておくわ。」


 聞く限り、いかにも胡散臭い話に胡散臭い装置だが、貰わないよりましかと思い貰うが、やっさんから貰ったそれは意外にもコンパクトだった。手の平サイズと呼べるサイズより少し大きいくらいで丸い画面と側面に電源と思われるボタンしかなかった。


 「使い方は後で狩屋にでも聞いといて。そんな訳で、今度は歴史といきますか。霊媒体質というのは新しい言葉なんだけど、霊媒体質者は昔からいたみたいでね。このお札。暴霊と会って狩屋に倒して貰ったということは見たんでしょ?」


 「うっすらとですが。」


 「この札は除霊符。その装置とかは時代を越えるごとに進化しているみたいだけど、この除霊符で暴霊を除霊する方法はずっと昔から変わらないみたいでね。」


 そう言ってやっさんは机をあさると、不思議な模様が書かれた札を手渡した。


 「その札の使い方は簡単。ただ暴霊の体のどこかに張るだけ。そうやって霊研が出来る何世紀も前から霊媒体質者は除霊し続けているんだからすごい話よね。霊研が出来るときには除霊の方法もしっかりまとまっていたって聞くし。じゃあ、霊媒体質についてはここまで。次に君の持つ霊触についてね。霊媒体質は特殊ってことでもういいと思うんだけど、その中でも霊媒体質者でも出来ない”霊”に触れることの出来る能力を霊触って言っててね、つまり君はイレギュラー中のイレギュラーってわけ。まあ、触れられなくても除霊は出来るし珍しいだけだけどね。

 さてと、ここで質問。君は生き”霊”となった親友が無理な願いをされたとしよう。さあ、どうする?除霊してしまうかい?それとも必死にもがくかい?」


 「そんなの暴霊になるだけじゃないですか........除霊するしか、手はない、でしょ。」


 僕は歯切れの悪いものだったが、こう答える以外にあっただろうか。しかし、目の前のやっさんの口角はつり上がっていた。


 「うん、君は除霊師に向いているね。そこで、もがこうとしたら除霊師はつとまらない。何百何千何万といる”霊”を除霊するためには妥協も必要だ。その”霊”にとって悪者になってしまうとしても、ね?除霊しなければならないんだ。やってくれるね?」

 

 今までふざけた口調、ふざけた態度だったのが嘘のようにその目つきは真剣なものになっていた。


 「除霊師ですか?」


 「ああ、そうだ。一応政府から資金援助もしてもらっている活動だし、もちろん給料も出そう。」


 「そんな活動しらないし、あるわけも.....」


 「ないよ。少なくとも公表はされていない。お金は公共事業費から出ているし、それも公共活動としか明記されていないから明るみには出ないよ。」


 きっと政府はこんなことを公表してもパニックになるだけだと考えているのだろう。国がらみで隠していれば一般人には知られないのは当然のことだった。


 「分かりました。ただ、命の危険を感じたり、事情が出来たときにいつでも辞められるようにはしてもらっていいですか。」


 「分かったわ。」


 つまらなさそうに返事はそれだけだった。


 それから一年間半、僕は狩屋さんに教わりながら、辞めることを覚悟する危険な場面もなく除霊師としての日々を送っていた。


Myth&Magic→俺は穏やかな学園生活を送りたいんですけど!


https://ncode.syosetu.com/n6502ea/


良ければこちらの作品もお願いします。......言い逃れが出来ない宣伝ですがw

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