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ネコパンデミック

作者: 湯気

時刻が0時を回った頃、伏見はネットサーフィンをしていた。

「どうやら明日2月22日は猫の日らしいな……いや、0時過ぎたから今日か……」

独り言を呟きながらコーラを一口煽る。

「ま、猫の日だからって俺には関係ないけどな」

笑いながら伏見はネットサーフィンを続けた。

しかし猫の日が関係ない者など何処にもいないことを彼は知ることとなる。


翌日、ネットサーフィンで夜更かししてしまった伏見は寝坊をしてしまった。

大学生であるため、遅刻をしても叱られることはないが評価は下がってしまう。

そのため、朝食も取らずに家を出たのであった。

「く……5分後のバスに乗れたら間に合うが……バス停まで行けるか……?」

腕時計に目を落とし、顔を上げると、目の前を大量の猫が通り過ぎているのに気づいた。

「うわ! 何だよこの猫の数! く……邪魔だ……」

軽く30はいるであろう猫の合間を抜けようとする。

「よせ! 伏見!」

名前を呼ばれ肩を引かれる。振り向くとそこには伏見の友人である太田がいた。

肥満体型の気のいい男であった。

「なんだよ。太田も遅刻か? それより早く行かないと……」

再度、猫の方へ足を踏み出そうとするが太田に止められてしまう。

「落ち着けって! お前今日は休講になったの知らないのかよ」

「休講? そうだったのか。そりゃ良かった!」

「良かった? お前ニュースは見てないのか?」

「え? ああ、今日は寝坊してしまったから見てないな。何があったんだよ」

「ネコパンデミック……だよ」

「ネコパンデミック? ははっ! なんだよそれ!」

伏見が一際大きな声で笑うと、先ほどの猫の群れから数匹、彼らの方へと向かってきた。

「ま、まずい! 逃げるぞ!」

「何言ってんだよ。ただの猫だぜ?」

「バカ野郎! 猫の肉球に触れられたら猫になってしまう、それがネコパンデミックなんだよ!」

「はは……面白い冗談だな……」

太田の気迫に気圧され、伏見は猫から少し距離をとる。しかし、彼らに一匹の三毛猫が近づいてきた。

「しまった……! 既にこの距離まで……!」

三毛猫は一跳びで太田の肩に飛び乗った。その瞬間、彼の体から煙が放出され始める。

「うおお! 離れろ!」

慌てて体を揺すり猫を追い払うが、時既に遅しであった。太田の頭から耳が、頬からは髭が生えてきていた。

「嘘だろ!? 太田! 俺は一体どうしたら……」

「近づくな……猫になった俺に触れられたらお前も猫になってしまうぞ……畜生、家にポテトチップスの蓄えがあれば外出なんてしなかったのに……」

それが太田の最後の言葉であった。煙に包まれた後、そこには一匹の太った三毛猫が残されていた。

「太田! そんな……ネコパンデミックは本当だったのか……」

猫太田が緩慢な動きで起き上がる。そしてノッソリとした動きで伏見に近づいてきた。

「よせ! こっちに来るな! う……!」

後ずさる足がコンクリートの隆起に取られてしまい、伏見は尻餅を付く形で倒れてしまう。

そこに、猫太田が近づいてくる。

「猫になるなんて嫌だあああ!」

しかし猫太田は伏見を素通りし、近くにあったゴミ箱を漁り始めた。

そこから彼が見つけ出したのはポテトチップスの袋である。中身がまだ残っているらしく、猫太田は袋に頭を突っ込み音を立てながら食べていた。

「太田……そうまでしてポテトチップスを食べたかったのか……」

猫太田はそんな言葉にも気を留めず、ポテトチップスを黙々と食べていた。

「お前の犠牲は忘れないぞ」

そう言い残し、伏見は自宅への帰路を進んでいくのであった。


伏見は自宅のあるマンションまで辿り着いたものの、その変わり果てた姿に驚愕した。

彼のまんしょんには既にエントランス、エレベーターホール、階段、廊下、至る所に猫がいたのである。

「ここを一度も触れられず突破するのか……? 無理に決まってる……」

思考している内にも人間の姿を見つけた猫が数匹近づいてきていた。

「く……ここは引こう。立て篭もるならネットカフェだ!」

伏見は次なる安息の地を求めて走り出すのであった。


ネットカフェはキャットカフェと化していた。

共有スペースでは、パソコンが置かれている机の上で大量の猫が散乱したお菓子や飲み物を取り合いしていた。

個室スペースでは、いかにも強そうな猫が一室に一匹という贅沢な使い方をしているのだった。

「猫になっても強い奴が贅沢をするんだな」

猫たちに気づかれる前に立ち去ろうとした時、トイレから声が聞こえてきた。

「すみませーん! 誰かいるんですか? 助けてください!」

それは女性の声であった。それなりに大きい声ではあったが、周りの猫たちはお菓子を漁るか、寛ぐかで気にも留めていなかった。

「えっと……いますけどどうしたらいいですか?」

「トイレの前に猫いないですか? 開けた瞬間に入ってきたら逃げ場無いんですよ」

「今のところは大丈夫ですよ。こうして話していても無反応ですから!」

そう告げるとトイレのドアがゆっくりと開けた。

外へ出てきたのは、肩までないショートヘアーと左目の泣きぼくろが印象的なビジネススーツを着た女性であった。

「わ……凄い数の猫……」

女性は床で寝転んでいる猫を刺激しないようにしながらゆっくりとこちらへ近づいてくる。

その時、机の上にいた猫がパソコンのモニターを倒した。あまりにも大きな音に周りにいた猫たちは一斉に飛び上がる。

「やばい! 走って下さい!」

「は、はい!」

女性は器用に猫たちの隙間を避けると伏見の待つ入り口まで辿り着いた。だが、猫たちも人間を認識して追いかけてくる。

「い、急ぎましょう!」

伏見は女性の手を取ると走り出した。猫の泣き声が後ろから幾つも聞こえてきていたが振り返る暇もなく二人は走り続けるのであった。

数分後、二人は車の全くいない大通りに逃げ付いていた。

「あ、ありがとうございました。おかげで抜け出すことが出来ました」

女性が頭を深々と下げる。

「いえいえ。お役に立てたなら良かったです。それじゃあ俺はここで……」

別れを告げようとすると女性に呼び止められた。

「これ! 良かったら使ってください! 食べてもいいですし猫から逃げるのにも役に立つと思います!」

渡されたのは携帯食料であった。

「ありがとうございます。けど貴方のがなくなるんじゃ……」

「大丈夫です。もう一本持っていますから!」

鞄からもう一本取り出し微笑んだ。ネコパンデミックで世界が大変だというのに明るい人だな、と伏見は思った。

「それじゃあ私行きますね!本当にありがとうございました!」

「はい。猫には気をつけて下さい」

女性はまた明るい笑顔を見せると去っていった。

少しして伏見が歩き出した頃、後ろの方で女性の歓声が聞こえてきた。

「アメリカン・ショートヘアーだー」

伏見が振り向くと、女性はしゃがみ込んで猫の頭を撫でていた。

「な……!何して……!」

止めようと伏見が足を踏み出した時には手遅れであった。

女性は煙に包まれ、アメリカン・ショートヘアーに変化してしまった。

「ええ……マジですか……」

二匹になったアメリカン・ショートヘアーは哀れむ伏見には目もくれず、どこかへ去っていってしまった。

「猫の可愛さって怖いな……」

伏見は、改めて猫には気をつけようと決意するのであった。


正午を越えた頃、伏見は街にあるショッピングモールに訪れていた。

ネコパンデミック中であるため、モール内にはチラホラとしか人はいなかった。

「流石にここなら猫も少ないな。店に入らなきゃ物陰も少ないし逃げやすそうだ」

伏見は壁を背に床に座り込む。疲労を感じると共に空腹感も覚えていた。

「う……さっき携帯食料食ったけどあれだけじゃ満たされないな……まさか営業してる店もないだろうし困ったな……」

そこへ一匹の猫がフラりと現れた。利発そうなペルシャ猫である。

警戒する伏見を無視し、鼻を二、三度鳴らすと立ち去ってしまう。

「あれ……行ってしまった」

何だったのだと思い様子を観察する。

幸いモール内は広く、距離を十分に開けながら伏見はペルシャ猫を尾行していた。

やがて、猫は一つの店の中へと入っていった。そこは『手作りカレーの店』と書かれていた。

「いい匂いがする……さっきの猫はこれを嗅ぎ付けてきたのか……?」

そう言ってから伏見は気づく。

「だとしたらヤバイ! あの猫が店の人を猫にしちまう!」

焦って店内に入ると、床に置かれたボウルの中にあるカレーを食べるペルシャ猫がいた。

「あれ? さっきの猫……どうしてこんなところに……」

「いらっしゃい! こんな時にお客さんが来るとは思わなかったよ。店を開けておいて正解だったな。さ、何にする?」

厨房から一人の男が出てきた。名札には『池波』と書かれていた。

「えっと……それじゃあカツカレーで」

「カツカレーね。少しお待ちを」

池波は厨房に引っ込んでいき、伏見とペルシャ猫だけが取り残されてしまう。

カレーを食べ終えたらしいペルシャ猫はゴロゴロと喉を鳴らし、ペルシャ猫特有の睨むような目で伏見をジッと見ていた。

「こ、こっちに来るなよ……」

警戒した伏見とペルシャ猫との緊張の空気は池波がカツカレーを持ってくるまで続けられた。


「はい。お待ちどうさん」

池波が現れ、ようやくペルシャ猫は伏見から目を外し、店内の奥の方へと歩いていった。

伏見は「いただきます」と合掌をした後、カツカレーを食べつつ池波に問いかけた。

「あの猫は貴方が飼ってるんですか?」

「ああ、そうなんだよ。可愛いだろ?」

「可愛いですけど。その……例のパンでミックが……」

「確かにね。けどそれで追い出すってわけにはいかないだろ? 大切な家族なわけだし」

「そうですか……俺はペットを飼った事がないのでそこの所はよくわからないです」

「一緒にいられるなら猫にされても本望!って感じかな?」

そんな談笑をしながら伏見は昼食を食べるのであった。

しばらくして、カツカレーを食べ終えた伏見は会計をするため財布を取り出した。

「ああ、御代はいいよ」

「え?でもそれは・・・・・・」

「今日はサービスデーって決めてたから。猫の日サービス!まあ、客が来ないから何だけどね」

そう言って、笑う池波に伏見も釣られて笑った。

「そういうことなら……また来ますね」

「ああ!待ってるよ」

そう話しているとペルシャ猫が机の上に飛び乗り、伏見の食べ終えた皿を舐め始めた。

「こら!粗相は止めなさい!ほら降りて・・・・・・」

池波がペルシャ猫から皿を取り上げようとするとペルシャ猫は池波の腕にしがみ付く様に触った。

「あ……池波さん……」

「ああ……しまったなあ……」

池波の体から煙が挙がり始め、顔から徐々に猫化が始まる。

「けど……猫になるのも悪くないかもね」

そんな言葉を残して池波はペルシャ猫になってしまった。

伏見を一瞥すると、二匹のペルシャ猫は仲睦まじく店内で眠り始めるのであった。


カレー屋を後にした伏見は、しばらくモール内を当てもなく彷徨っていた。

そうしていると、猫の鳴き声が間近で聞こえ、体を跳ね上がらせた。

そちらを見るとペットショップのガラスを隔てた向こうにスコティッシュフォールドが二匹展示されていた。

「ふう……焦ったぜ……」

気を取り直して歩き出した伏見であったが、今度はペットショップの中から猫が猛スピードで飛び出してきて飛びのくように倒れこんでしまった。

飛び出してきた猫はと言うと、伏見には目もくれず一目散にモールの向こう側まで走っていってしまった。

「な、何なんだ一体……」

ペットショップの中をゆっくりと覗き込むと目の前に網が迫ってきていた。

「わぶ!な、何だこれ!」

「なんだ…… 人間か、驚かせおって」

網から開放された伏見は、目の前にいる白髪交じりの初老の男に掴みかからんばかりの勢いで迫る。

「驚いたのはこっちの方です! 何のマネですかこれは!」

初老の男が持っていた巨大虫取り網のような物を指差す。

「見ての通り、猫を捕獲しているんだ。捕まえておけば触られる心配も無いだろ?」

「いや、大人しくしていた方がいいと思うんですが……」

「猫なんかにやられっぱなしも癪だからな。戦う意志が大事なんだよ! 心配するな傷つけたりはしていない」

「それならまあいいですけど……」

「そうだ。まだ名乗っていなかったなワシは若泰わかたいだ」

「どうも……伏見です」

二人は握手を交わした。伏見は最初こそ若泰に苛立ちを覚えていたが、そこまで悪い人間では無い事がだんだんと分かってきていた。

「そうだ。お前にいい物をやろう」

受け取ったのは小型無線機のような物であった。

「何ですかこれ?」

「猫避けようの超音波が出る機械だ。本来なら庭に置いておく物らしいが、手持ちでも効き目はあるだろう」

「あ、ありが……」

礼を言いかけて伏見は気づいた。床に猫避けが入っていたであろう外箱が落ちていたのである。それに気づいたのか若泰は苦笑いする。

「非常事態だ。ちゃんと金はレジに置いてるぞ!」

確認してみれば、確かに千円札が一枚置かれていた。

「明らかに足りてな……」

「静かに!」

若泰に口を塞がれ物陰に引き込まれる。彼が指差す先には一匹の茶トラがいた。

茶トラは床に点々と落ちている餌を見つけては食べを繰り返し、店の中へと入ってきた。

「見てろ……引っかかるぞ」

そして最後に檻の中に入り、設置された大きめの餌を食べ始めた。それを食べきる直前、激しい金属音と共に檻の扉が閉まった。

茶トラは何が起こったのかも理解できていないように檻の中で暴れている。

「どうだ? これで捕獲完了だ! 触られる心配も無いだろ?」

「まあ……確かにそうですけど……こんな古典的な方法で捕まえられるもんなんですね」

「猫ってのは頭がいいとは言うが人間と比べたら対したことは無いさ」

高笑いする若泰が次なる標的を捉える。それはさっき逃げ出していた猫であった。品種はシャムである。若泰の顔が真剣なものになる。

「何か……因縁があるんですか?」

「あいつは既に三回店に来て三階ともワシの手から逃れているんだ。見てろ」

シャムは先ほどの茶トラと同じように餌を食べていき、檻の中へ入っていった。

「あれ? 簡単につかまったじゃないですか?」

「いいや。まだだ……」

檻の中に入ったシャムは一頻り設置されていた餌を食べると、急に身を翻し檻の外へ出てしまった。その数秒後、軽くなった餌を支えきれなくなった檻が金属音を立てて閉まったのだった。

「これが……猫の中でも最も知能の高いと言われているシャム猫だ……いくぞ!」

「いくぞって……ええ!?」

若泰は網を手に取りシャム猫の前へと飛び出した。

「お、俺はどうしたらいいんです!」

「入り口にさっき渡した猫除けを設置しろ!」

「わ、分かりましたよ!」

やけくそ気味に伏見は飛び出す。そして、ペットショップの前に猫除けを設置した。

「よし! 次は足元の皮手袋を付けるんだ!それなら触られても大丈夫だ!」

「了解! って素手で掴ませる気ですか! 妙なプライドに巻き込まんで下さい!」

「駄目か……! だったら、そこにあるビンを店のどこでもいいから撒け!」

伏見はレジ横に置かれていたビンに近づいていき手を掛けた。しかしそのタイミングでシャム猫が動いた。

「うわ! 危な……!」

腕に引っ掻きを入れる動きを伏見は身を捩じらせて交わすが、倒れこんでしまい、その先に蓋が外れたビンが落ちた。

「ぶああ! な、何だこれ!」

ビンの中身の液体を頭から被ってしまう。シャムネコは、それに気を取られていた。

「隙あり!」

若泰が網を振り下ろし、シャム猫を捕獲した。シャム猫は暴れまわっていたが、やがて大人しくなった。

「大丈夫か? 凄い匂いだな……」

「何なんですかこれは……」

「ああ、それは……」

若泰の体から煙が挙がり始める。

「わ、若泰さん!? どうして……」

若泰の背後に網から脱出したシャム猫が立っていた。

「この……大人しくなったと思ったら……文字通り猫被っていやがったか……」

シャム猫は伏見にも襲い掛かろうとする。しかし、若泰がそれを捕まえ抱え込んだ。

「逃げろ伏見。悪かったな、俺の勝手に付き合わせて、シャム猫はワシの畑を何度も荒らしていたからどうしても因縁を晴らしておきたかったんだ」

「いいえ……付き合ったのはあくまで俺の意思でしたから」

「それともう一つ。お前が被ったその液体はマタタビなんだ。早いうちにどこかで洗い流しておけ」

「分かりました」

「さっさといけ……猫になってしまったらこいつを抑えられないからな」

「ありがとうございます」

そう言い残して伏見は走り出した。少しして後ろを確認すると、二匹のシャム猫がペットショップの前で喧嘩をしていたのだった。


辺りは真っ暗になった頃、伏見はとにかく走り、隠れ、篭城するを繰り返していた。

マタタビの効能のために次々と猫が集まってくるのである。

洗い流せという若泰の言葉も実行に移す暇が無いくらいであった。

今は、白猫、黒猫、茶トラ、三毛猫に追われていた。

伏見は橋を渡ろうとする。しかし、前からもミックス猫の集団が走ってきていた。

「く……まずい!」

伏見は一瞬迷った後、橋の手すりを乗り越える。

「うわ……そこそこ高い……けどこれならマタタビも流せて一石二鳥だ!」

大声を出し、自身を鼓舞してから飛び降りた。幸いにも川の水位は高く、即死することは無かった。

「生きてる……けど、無茶苦茶流される」

猫は追ってこられないが長居は出来ないと見た伏見は、急いで川岸へと向かい泳いだ。

川岸へ着いたものの、猫たちはまた追ってきていた。

「はあ……はあ……くそ!まだ来るのかよ!」

河川敷を駆け抜けていく伏見を追う猫は徐々に増えていっていた。

その数は軽く100を超えていた。

「水に入っただけじゃマタタビの匂いは消えないか!」

歯噛みしつつ、街へと入る。

路地は危険だと感じていた伏見はなるべく大道路を走るようにしていた。

しかし、それにも終わりがやってくる。

十字路に差し掛かった伏見は状況を瞬時に把握する。

「正面から数十匹……だったら右に……う!」

右からも大量の猫が押し寄せてきていた。伏見は慌ててブレーキをして左の道へ行こうとする。

「な……嘘だろ!?」

左からも大量の猫が向かってきていた。

「畜生……万事休すかよ!」

辺りを見回すが、状況を打開出来そうな物は何もなかった。

伏見は諦めて目を瞑った。

「あ、あれ……」

大量の肉球と毛に覆われながら伏見は目を開ける。

「どうして……猫にならないんだ?」

動揺しながらもまさかと思い腕時計を見る。

時間は0時を過ぎていた。猫の日が終わったのである。

「そうか……俺は生き残ったんだ。猫にならなくて済んだのか……」

猫に押しつぶされて身動きが取れないまま、伏見は眠りに付くのであった。


一年後。

時刻が0時を回った頃、伏見は自宅でネットサーフィンをしていた。

「どうやら2月22日は猫の日らしいな……0時過ぎたから今日か……」

部屋でポテトチップスを食べている太った三毛猫に話しかけ、コーラを一口煽る。

「ま、猫の日だからって俺には関係ないけどな」

笑いながら伏見はネットサーフィンを続けた。

「猫の日が関係しない者などいないぞ」

どこからともなく聞こえてきた声に伏見は驚く。

「は……!?え?今どっから声がした!?」

「俺だよ俺」

見下げると猫が伏見に向けて話しかけていたのである。

「今年の猫の日はネコパーティーだ! 猫の欲望が全て満たされる日だ!」

やがて外が猫の鳴き声もろもろにより、騒がしくなり始めていた。

伏見は呆れた様子で、今年こそは家から出ない事を固く決意し眠りに付くのであった。

読了ありがとうございます。

何とか猫の日中に書き上げた作品です。ただ、ネタはもっとあったので書き足りない気もします。

猫になってしまう人々ですが、基本的に名前と引っ掛けています。

最初に出会う女性は名前ないですが、アメリカン・ショートヘアー(米国)にちなんで"米"川という名前です。

カレー屋店主はペルシャ猫(波斯)から池"波"。

ペットショップの男はシャム猫はタイ産(泰)なので若泰という何とも読みにくい名前になりました。

太田は名前と見た目一致。

伏見は猫に対抗するなら犬かなって事で一番安直な名前でした。


最後に、本作はフィクションです。猫を傷つけるような行為は一切していません。

これを言ってみたかった。

よろしかったら感想をお待ちしております。

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