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キツネの婿入り

作者: 薔薇の人


「今日も暑くなりそうだね。」

と、言って僕は彼女の隣を独占して歩く


薄手ニットの肩出しワンピースに夏色サンダル姿の君

可愛いよ、素敵だよ、


君を知ると、見ると、

称賛の言葉ばかりが僕の中で溢れてはこぼれていく



だけど……


日傘をさす、その距離が僕をもどかしくさせるんだ

すぐ傍にいるのに、見えない壁が僕らを阻んでいる


あとちょっと、ちょっとの距離なんだけどな


ねぇ、なんだって雨でもないのに傘をさしているの?


雨傘じゃなくって、日傘だからなのは分かっているけど


日焼けを気にする女性らしい行動に

むっとしながらも可愛らしくって口をつぐむ


それに、すらっとした血の気の薄い生脚

歩に合わせて揺れるワンピースの裾から見えるソレに

僕はときどき伏し目がちに俯いて歩いてしまう



本当は、そっと、手を握って一緒に歩きたいな

女の子の柔らかい肉感が恋しくなっちゃって

って、こんなこと、君だから思ってしまうのだけど……



でも、もう目的地まであと少し



目的地は美術館で、

私語厳禁の静まり返った空間で、

君は僕よりも絵画鑑賞に集中してしまうのかな



きっと、閉じた傘と、閉ざされた僕の心は感傷中



そんなことになるなら誘わなければ良かったのかも

あぁ、泣きたいほどつらい、帰りたいとさえ思えてきた

どんな心持でいれば良いのかを考える余裕も無くって




その時だった



ピチョン



ぽつ、、


ぽつ、ぽつ、ぽつぽつぽつ



僕の心情と共鳴するように、天から涙がしとしとと落ちてきた


天は依然として真っ青のままで

太陽は笑ったまんまで涙を流している


僕は天を見上げて、潤んでいた瞳を雨粒で洗い流せよと試みた

真上では入道雲が、輝く太陽を遮ろうとしているのが見えた


陽光は陰り、日影が陣地を広げていく

暑さに湿気が増してジメジメとした空気が肌に触れ不快感を催す


帰ろうか、そう言いかけようとして

彼女からの天の一声が舞い降りて僕の耳と心をくすぐった―――



「あら、やだ。降って来ちゃった。ごめんね、日傘なんだけど、少しは。あの、入っても、良いですよ……。」



「え、いいの?濡れちゃうよ? でも、お言葉に甘えて……。ありがとう。」




――――――――――――――――




「……そうそう!あの時の貴方の表情、今でも忘れられないわね!キョトンっとした顔しちゃって、一寸後には耳まで赤くしちゃって!!」


「昔の話だろ。あの頃は若かった。お前も、な。」


「女性の方が精神年齢は高いのよー?結局は最後まで私からアプローチしなきゃ何も手を出せないオコチャマだったじゃないの、ふふふ。」


「何を想像してんだ馬鹿が。」


「ん~?なんでしょうねっ!」


「はぁ……、まぁそんな始まりだったっけな。懐かしいわ。」


「そうだねぇ。 あっそうだ、お風呂湧いたから、一緒に入ろうか!脱がせてあげますよぉ。」


「いやいや、何だよ急に。って!下から脱がせるのかよ!でもまぁ、たまには良いか。あ、体洗いは俺がやってやるからな。ひひひ。」



(「ほら、昔と変わってない。可愛いんだから。」)



(「お前にはいつもリードして貰って感謝しているよ。愛してる。」)






―おしまい―

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