第8話 内閣改造
翌日。
安斎は緊急の記者会見をすることにした。マスコミとしては緊急の記者会見の内容について予想がついていなかったので気になっていた。おそらくは日韓問題について何かあったのだろうと考えていたのだが、安斎の発表したことが内閣改造であったことにさらに驚いていた。
「私は、日韓問題の解決をより図るため専門的な人間が外務大臣以外にも就任するよう、そして内閣内の意志の決定を図るため明後日にも内閣改造をしようと考えます。ただし、党役員の人事については一切考えておりません。葛井幹事長、山本政調会長、越谷総務会長の党三役、河瀬副総裁にはそれぞれ今の職務を全うしてもらおうと考えております」
ちなみに安斎の内閣改造の話は党内においても寝耳に水の状況であった。この内閣改造の話を知っていた政治家は官房長官の細川と副総理の朝間、そして幹事長の葛井の3人だけであった。それほど極秘で決められていたことであった。
この発表ののちに臨時の閣議が開かれた。内容は内閣改造についての説明だ。各大臣にも伝えていなかったため根回しができていなかった。その釈明を含めての説明だった。そして、この閣議においてもっとも反発した人物がいた。その人物は予想が付くと思うが松方経済産業大臣だ。
「総理。私は内閣改造なんて一切聞いていませんよ。そんな思いつきで急なことをしないでください。内閣改造となると永田町内は一気に緊張が高まり政策を立てているどころではありませんよ。今、この時期は日韓問題の早急な解決が図られるというのにどうしてそんな政争をしようとするのですか?」
政争。松方は自身が閣外にはずされることを予期していや、かなり確信してそのような言葉を用い批判してきた。周りの閣僚も松方が今回の改造において再任されることは絶対にないだろうと思い微妙な空気になった。
安斎と松方。2人の対立を止める人間はいないように思われた。しかし、この2人を止める人間が1人いた。年齢的にも政治的経験でも2人よりも圧倒的にベテランである人物がこの場にいた。そう、朝間副総理である。
「君たち、いい加減にしなさい。内閣内において対立したら戦前においては閣内の不一致で総辞職ものだぞ。今は内閣改造という制度がある。これは、総理が効率よく行政を行うためだ。閣僚はあくまでも内閣を構成する1人だ。総理の意見をいちいち聞かなくてもいいという気持ちもわかるが目立って対立することは認められたもんではない。松方。お前は、自分の意見をそこまで通したいのであれば自身が総理になればいい。安斎の言うことをしっかりと聞け」
「朝間副総理。あんたは、年上だからって偉そうにしてるんじゃねえ。そもそも1年で内閣総辞職に追い込まれたあんたが俺にいちいち文句を言うんじゃない!」
松方は何ということか朝間にも喧嘩を売った。年上に喧嘩を売るとはと安斎の顔は真っ青になっていた。恐れ多くて。そして、他の閣僚たちも安斎と同じように顔が真っ青になっていたり、絶句した状態となっていたりした。松方と朝間を除いたこの場にいた人物が思ったことはここから一刻も早く出たいということだった。
松方の言葉は朝間を完全に怒らせた。
「おい、松方。お前今言ってはいけないことを言ったな。私は、国会議員というのは礼儀を知っている人間として最低限のものがそろっているとは思っていたが、まさかここまで愚かな人間がいるとは思ってもいなかった。そして不愉快だ」
「何が不愉快だ。俺はお前のような党の主流派にいる人間が嫌いだ。政策をろくに立てることもできず総理になった奴が偉そうにするな!」
「……そこまで言うか。松方。私はもう呆れて言う言葉がない。勝手にしろ」
朝間は誰か見ても明らかに完全に怒っていた。いや、怒っていたという言葉は生半可だろう。ブチギレていたという方が今の朝間の様子をしっかりと捉えたものだった。
そして、朝間が、平和党におけるキングメーカーがブチギレるということが何を意味するのか。それは平和党に所属している国会議員であれば当然わかっていることだ。暗黙の了解だ。松方もそのことを知っているはずだ。しかし、頭に血が上り過ぎていた松方はそのことをすっかりと忘れてしまっていた。
「あ、あの、すみませんでした」
松方は慌てて謝る。しかし、
「いや、私は勝手にしろと言った。松方なんて人間は知らない」
朝間は平和党における古参、ベテラン議員。すなわち元総理ということもありキングメーカーだ。キングメーカーの機嫌を損ねれば待っているものは政界引退だ。すでに松方に生きていける世界ではなくなってしまった。次の選挙において松方は平和党の公認をもらうことはできないだろうし、もしも無所属や他の党から立候補するとなれば朝間が徹底的につぶすために刺客を選挙区に放つだろう。
松方の政治生命はこの瞬間に終わった。もちろん、大臣として続投することもなくなった。
松方の顔はさっきまで怒りで真っ赤であったのに今はそれとは真逆の真っ青どころか白い状態にまで顔色が変化していた。本人は絶望している表情をしている。安斎はその様子を見て哀れとか感じることはなかった。松方は自分がやった結末であり自己責任だ。安斎にとって松方の失脚というのは自分の政敵を減らすある意味いい口実にもなった。
この日の閣議は誰もいい気持ちがしなくて終わった。さて、内閣改造について翌日行われることが確認された。そして、翌日実際に内閣改造が行われたのだが、内閣改造と言っても本当に小規模の改造となった。まず、昨日文句を散々言い朝間にブチギレられた松方経済産業大臣は離任、それから事務所の経費に不透明なものが発覚していた前原国家公安委員長も離任、白浜法務大臣は答弁に不安を感じていたので安斎は離任させた。内閣改造で代わったのはこの3人だけであった。そして、新たに法務大臣と経済産業大臣が就任。また、内閣の定員が17人以内のため外交問題担当大臣専任の今村が就任することで前原が務めていた国家公安委員会委員長・内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全担当・防災担当)は野田内閣府特命担当大臣(原子力行政担当)が兼務することになった。
外務大臣の小野池であるが、新たに安斎の政策に近い人を任命したところで新任であるためうまくいかないと思い、すでに2年安斎内閣において外務大臣を務めている小野池に留任してもらうことにした。ただ、日韓問題については基本的に今村に任せることにしたため小野池ははしごを外された形となった。
これにより安斎は本格的に日韓問題を片付けることにする。
記者会見においてもこの内閣は外交問題担当内閣だと宣言した。少女像問題。大使帰還問題。2つの難題を前に安斎の政治手腕が試されることとなった。
改めて言いますが、現在の内閣において閣僚の人数は特例で総理大臣を除いて19人以内です。復興大臣が2022年まで。オリンピック担当の無所任大臣が2020年まで設置されることになっております。