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第5話 総理の仕事

 歴代外務大臣との意見交換会が終わった後。

 安斎は細川と朝間の3人で話し合っていた。


 「で、どうすればいいだろうか。歴代の大臣達から有意義な意見をもらうことができたが、政府としてどのような対処をしていくか」


 「総理が決めたことに私は従いますが、記者会見で政府の意見として発表する役目なのは内閣官房長官である私なのですからきちんとマスコミに突っ込まれてもいいように理由や考えを私に伝えてくださいよ」


 細川は安斎の意見に従うと言っているが、内閣官房長官という仕事は毎日2回政府の広報担当スポークスマンとしての仕事があるためマスコミから一番批判される対象となる。さらなる批判につながらないように総理と意見をしっかり統一しておかないといけないため警告をする。

 安斎はそのこと自体、自身が前内閣官房長官であったためわかっているが、きつい言われようで少しまいってしまった。


 「まあ、私も反対する理由はありません。安斎総理の思うがままに頑張ってください」


 朝間も安斎には反対のないようだ。朝間が何か企んでいるかもと発足当初は思っていたが今になってみれば朝間は安斎のことをかなり心配してくれていた。安斎の後見人の様な立場でいたいのだろう。安斎はそんな風に感じていた。

 

 「ありがとうございます。私として決めたことは大使の帰還は延長です。そして、韓国政府に対して像の撤去がなされないのであれば最悪我が国として経済制裁を加えることを伝えます」


 「経済制裁ですか……思い切りましたね。しかし、経済制裁を実施すれば国内ではマスコミや野党が、国外では同盟国のアメリカが圧力をかけてくるでしょう。どうしますか?」


 「アメリカが何らかの形で関与してくることは読めます。内政不干渉とかいいながら干渉してくるのがあの国ですからね。しかし、私は今回のことは隣国かんこくの責任であると強く思っているのです。あの国が私に関与すればおそらく安斎内閣は吹っ飛びます。でも、もう日本国民として隣国がいつもいつも反日を利用していることが気に食わないのです。我慢の限界なのです。一発何としても言いたいのです」


 「総理が決めたのならそれでいいですよ。では、さっそく原稿を作り明日の午前の記者会見で政府の対応を発表することにしましょう」


 細川がそう言って部屋から出ていく。安斎内閣が持っているのは真面目に仕事をしている官房長官細川の力量があると改めて安斎は思う。

 

 「では、総理。私もこのあたりで。今日は有意義な話し合いでしたよ」


 朝間もそう言って部屋を出ていく。朝間の口元は心なしか緩んでいるような気がしたと安斎は思ったが、すぐに気のせいだろうと片づけたのだった。

 

 朝間が部屋から出て行ったあと安斎は各業界の要人との会談という仕事が待っていたためずっと像をどう撤去させるのかを考えている余裕というものはなかった。まず、最初に経団連の梅村会長との会談があった。

 

 「梅村会長、わざわざ来てくださりありがとうございます」


 「こちらこそ安斎総理お会いしたかったですよ」


 ぱしゃぱしゃ


 安斎と梅村の握手を複数のマスコミがフラッシュをたいて一斉に撮影を開始する。安斎はいつものことであり慣れてきたような感覚を持っていたが、やはり一気に自分めがけてフラッシュがたかれるというのは慣れることはなかった。

 梅村に安斎は座ることを促した。

 梅村は椅子に座る。それに続いて安斎も椅子に座る。その直後、マスコミは一気に退出していく。ここからは国内の利益にかかわる重要な話し合いだ。マスコミにその話を聞かれるわけにはいかない。


 「それでは、話し合いを始めようではありませんか」


 梅村がそう言いだす。


 「ええ、いいですよ。で、今回は経団連としてはどのような要求を政府にするのでしょうか?」


 「いやですなあ。そんな要求という言い方は。こちら側としてはお願いをしに来ただけですからそんな身を構えなくてもいいですよ」


 何を言いやがる。

 安斎はそんなことを思っていた。

 経団連は日本経済団体連合会の略称である。日本の大手企業が所属しており政界に財界の意見を伝えることを主な任務の1つとしている。もちろん、それ以外の日本経済を活発にするため財界としてどうすればいいのか考えてもいる。だが、一番の問題というよりも安斎が梅村の言葉に不快に感じたのは要求ではないという言い方であった。

 経団連は安斎も所属している与党平和党の支持基盤の1つである。経団連の支持があってこその政権なのだ。経団連から頼まれたらなるべく政府の方針として反映しなければならない。もしも反映しなければ次期総選挙の時に支持をしてもらえなくなる危険性がある。そうなった場合最大野党の民友党側に経団連の支持が寝返り政権交代につながってしまう可能性がある。だが、今政権交代になるとまずい。民友党には政権をまっとうにする能力がない。かつて民友党は政権を担っていた時期があった。10数年も政権の座についていた。その頃はまだ民友党には政権担当能力があった。しかし、民友党が山田内閣の時に下野して政権の座から遠ざかってからもう何十年が経つのだろうか。民友党が政権の座についていたということを民友党の議員ですら忘れている節がある。

 こんな奴らに日本を任せることができない。だからこそ、安斎は経団連の要求を聞かなければならないのだ。そのことを経団連の梅村もわかっている。わかっているからこそこんなことを言っているのだ。つまりは脅しているのだ。


 「わかりました。では、お願いというのは?」


 話が進まないし、脅されている以上安斎からは下手に出せないので梅村の話をそこで終わらせて本題に入ろうとする。


 「はい。原発政策についてなのですがいいでしょうか。原発は現在日本においてフクシマの事故以来タブーの様なものになっています。政府として脱原発を進めなければいけないのはわかりますが、それでもあの事故が起きても日本の原発の技術は世界トップクラスです。何としても原発作業を廃絶にするわけにはいかないのです。脱原発の期間をもう少し遅らせてくれませんか」


 原発について。そう来たか……

 安斎はあまり話にしてほしくない話題となり困惑する。

 原発。原子力発電。

 日本においてはかつて起きてしまった東日本大震災の時の福島第一原子力発電所の事故以来原発の安全に曇りが出て市民が新設や再稼働の反対に関する運動を進めた。政界では電力関係の業界の支援を受けている議員もいるため脱原発を進めることが困難であったが、当時の与党と野党の間で期限を設けてその期限までに脱原発を目指そうという話になった。だが、そのことに反発している人はかなりいる。業界の支援を受けている議員に配慮して期限を決めたのであったが、そもそも業界としては原発の廃絶など断固認めたくはないことなのだ。原発製造メーカー大手の西芝や四菱重工などは会社として全面から猛反発している。経団連もそういった企業が会員として属しているためその企業の意見を何としても政府に伝えようとしているのだ。

 安斎は原発については専門家でないため危険だというのはわかっているが、本当にどうして危険なのかどうかまではわかっていない。あの事故があったから危険だという考えに落ち着いているのかもしれない。原発について勉強しなくてはいけないと思いつつも総理大臣としての職務が忙しくそこまで手が回らないのが現状である。


 「政府としてもそのことについては検討しているところです。いい答えができるように努力してまいります」


 安斎はとりあえず、なるべくポジティブな回答をしておく。うんともすんとも言えない状況で簡単な口約束などできない。外務大臣に続いては経済産業大臣経験者でも呼ばなくてはいけないなと安斎は考えていた。

 経団連会長梅村との会談が終わると次はようやく外交の話に戻った。内閣官房副長官の喜市隆文と外交問題について話し合う。そのあと、すぐに米国のポーカー大統領と電話会談がセッティングされていた。ポーカー大統領との電話会談は時間にしてわずか15分。その15分は短いとみると長いとみるかは人によって違う。安斎にとっては長かった。15分の間にポーカー大統領から安斎は一方的に要求を叩きつけられていた。その内容がこれだ。

 日本は、アメリカの日本に対する貿易赤字を解消するため貿易の量を抑制すること。

 日本企業のアメリカで現地生産を積極的に進めること。

 金融緩和について今後しないこと。

 韓国に大使を早急に帰国させ両国関係の和解を日本が進んですること。

 以上4カ条を突き付けてきた。

 安斎はこの内容を聞いてブチギレそうになった。内政干渉じゃないかと思った。アメリカは昔から本当に勝手だ。日本を属国だと勘違いしているのではないか。だが、日本はアメリカの51番目の州であると揶揄されることがあるので嘘だとは完全には言い切れない。

 安斎が起こった理由は金融緩和についてもだ。各国が自由に経済を回すために政策を立てているのだが、それをやるなと命令してくることが内政干渉なのだ。

 安斎は、ポーカー大統領のその要求についてNOと言った。YESなんて言えるわけない。その結果、ポーカー大統領は不機嫌になったが、日本国を背負う内閣総理大臣としてアメリカの理不尽な要求にこたえることを断固して阻止することには成功した。しかし、アメリカに逆らったことで安斎内閣は吹っ飛びやすくなったのも事実だ。日本の歴代政権を見るとアメリカと距離を置こうとした総理ほどなにかと事件に巻き込まれる。一説にはアメリカが自分の言いなりにならない総理であると陰謀を作り出し政界から追放しているのだとか。安斎はそんな欲説を信じたくはないのだが、それがほぼ真実の様に思えて仕方なく最近は思っている。


 「やはり、帰還させないといけないのだろうか……」


 安斎は、この日も大使をどのようにするか考えている。

 大使が日本に一時帰国してから3か月。事態は全く動くことを知らなかった。少女像を撤去させない韓国をどのようにして説得すればいいのか。外交は本当に難しいものであると安斎は感じていた。

 その日、安斎は眠ることができなかった。明日も会議だ。何としても自分の内閣の時に解決させてやるぞという気合だけはあった。

 そして、日は変わったのだ。

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