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第3話 外務省との接し方

 安斎真一。

 49歳。

 既婚者。

 身長176センチ。

 体重68キロ。血液型O型。

 誕生日は9月26日。

 出身は長崎県。

 趣味はカラオケ。

 そして、職業は日本国内閣総理大臣。

 この物語は内閣総理大臣である安斎真一が隣国との外交問題に対してどう対処していくのか語っていく物語である。


 ◇◇◇


 昨日どうにか後任の大臣を選ぶことを安斎は無事にできた。しかし、安斎内閣にはまだまだ難問が立ち塞がっていた。それが、隣国との問題だ。現在隣国と問題が起きている。それが、慰安婦像問題だ。慰安婦自体がなかったというのが日本政府としての見解である。しかし、向こうとしてはあったと主張している。そして、そのことを忘れないための像を予想外にも駐韓日本大使館の目の前に設置したのだ。国際法上的には大使館についてウィーン条約などで定まっているが、この行為は以下の条文に違反していると言わざる得ない。


 ウィーン条約第二十二条2項


接受国は、侵入又は損壊に対し使節団の公館を保護するため及び公館の安寧の妨害又は公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する。


 大使館の前に像を設置するということはその国の威厳を下げることにつながります。なぜかっていうと、慰安婦は日本がやった悪いことだと主張しているのならばその国の大使館の前に置くとお前らはこんな悪いことをずっとしてきたんだぞと無言で世界にアピールしているのと同じことです。

 これに安斎以下日本政府はキレた。そして、大使を無期限で帰国させた。最悪の大使召還という言葉にはしなかったものの日本政府が強硬に出たと言ってもいい。それだけ日本政府内においてはもう情状酌量の余地がなかったのだ。


 「総理。外務省からお客です」


 「分かった」


 今日も首相官邸において外務省と隣国との対応について話し合う。この会議に参加するのは、安斎、朝間太郎副総理、小野池外務大臣、細川官房長官の4人だ。外交関係での重要閣僚たちが1つの部屋に集まる。一方外務省側からは役人5人が来ている。其のうちの1人に安斎は声をかける。


 「今村さん。お疲れ様です。本日はわざわざ事務次官自ら来ていただきありがとうござます」


 「そんなことありませんよ、総理。外務省としても今回の問題は最重要課題です。ですから、事務次官が自ら動くのにためらう必要はありませんよ」


 今村と呼ばれた男。彼は外務省事務次官である。事務次官というのは、省内におけると、大臣、副大臣、政務官の順に政治家のポストがあるが、事務次官は官僚における最高ポスト。すなわち真の意味でその省でのトップなのである。そのトップがわざわざ乗り出してきたこと自体に安斎は驚きを感じている。


 「今村さん。外務省的には今回の件。どうしたいと考えておられますか」


 安斎は早速本題に入る。官僚と政治家。駆け引きが大事だ。安斎は自分が通したい方向にこの話を持っていかなければならない。それは、官僚外務省サイドも同じ話だ。


 「私はこれ以上大使を帰国させておくのは両国間関係上悪いことになると思っています。それに、向こうに非があるのは明白なことです。こちらとしてはあえて帰国させることによって向こうから謝罪を引き出そうとするのが外務省内の大勢の意見です」


 「私は帰国を継続させるべきだと考えています。絶対に大使を戻させてはいけないと思います、なぜなら、向こうの国は返したところで謝罪など絶対にしません。今までの外交の歴史を見ても明らかです。日本はもうこれ以上あの国相手に譲歩をしてはいけないのです」


 安斎は強く主張する。

 その言葉に朝間、細川両氏も同意する。しかし、外務省の政務部門のトップである小野池外務大臣だけは違った。彼は元来ハト派だ。しかし、今回の韓国の件について本来は総理と同じく強硬策に出たいと思っている。しかし、外務省のトップであることが彼の意見をどうしても外務省の意見となってしまうので慎重に事を構えないといけなくなってしまっていた。外務省事務方は今回の問題の早期解決を望んでいる。そのことを小野池自体は理解していた。しかし、総理など与党平和党の議員たちの呆れた今回の気持ちというのもまた理解していた。2つの立場の間に板挟みになっていたのだ。どうすればいいのだと小野池は内心かなり困惑していた。


 「小野池外務大臣はどう考えていますか?」


 「ああ、そうですね。え。えぇーっと」


 小野池は自分の意見を求められて困惑していた。まだ、自分の意見がまとまっているわけではなかった。どうすればいいのか考えが付いていないのにだ。この会議を一回終了にしておきたかった。


 「私の考えは外務省と同じです。外務大臣であるので外務省の意見に追従します」


 小野池は外務省の意見に同意することにした。もう、これでいいやと考えてしまった。小野池はもしもこれで総理の不興を買ったとしたら自分は更迭されるだけだ。後任の外務大臣はきっと私よりも総理の思想に近い人が選ばれるだろう。小野池はそこまで考えた上でこの発言をした。ポスト安斎の候補でもある小野池はこの時点でもう私には総理の座が回ってくることがないだろうと確信した。あとは、もうしばらくは無役でいこうと覚悟を決めたのだった。


 「そうですか、小野池外務大臣の意見ありがとうございます」


 今村は小野池の言葉に満足そうであった。小野池は今村の意見に同意したことが本当は悔しかったが、組織の人間としてこういうしかなかった。外務省の要求を総理に認めさせることが外務大臣の仕事なのだから仕方なかった。

 そんな小野池の様子を安斎は見ていた。安斎自身このことを直接は経験していないが、官僚がどういったものなのかは最前線で見てきていたつもりであった。安斎は、閣僚としての経歴は意外と浅い。内閣官房副長官、内閣府特命担当大臣、そして内閣官房長官を経て内閣総理大臣になった。一方、党内の役職は幹事長、政調会長、広報部長などとかなり務めているため党で重職を担ってきた人物だ。内閣府以外の官庁組織についての闇に深く知らない安斎は小野池の苦しみを外面でしか判断することができていなかった。

 ただ、小野池のことを心配そうに見ていたのは安斎だけではなかった。朝間も小野池のことを心配そうに見ていた。朝間は朝間派の領軸であり小野池派の領軸である小野池とは異なる派閥であるが2つの派閥は元々は1つの派閥で会った経緯から小野池のことを注視していた。安斎内閣の陰の総理として実力を発揮している朝間も安斎と基本的なスタンスは同じであり外務大臣を経験していたこともあって小野池にはかなり同情的でいた。


 「外務大臣の意見もわかりましたが、やはり両国関係の悪化はすでに起きているため今更戻したところでほとんど影響がないと私は考えますがどうですか?」


 朝間副総理が手助けに入る。


 「いや、そんなことはないと考えております。外務省アジア大洋州局の方もそのような見解を出しています」


 「アジア大洋州局というと金島局長ですか?」


 「そうなります」


 今村は外務省アジア大洋州局長の名前を出して朝間の意見をけん制する。アジア大洋州局となると外務省内においてアジアを専門的に扱っている部署となる。専門家の意見というのはかなり重要となる。朝間は外務大臣の経験があると言ってもたかが1年務めていただけだ。何十年と外交に関わってきた人に勝つことはできない。

 朝間が悔しそうな表情をしていた。


 「まあ、みなさん。とりあえずは現状のまま維持する形でどうでしょうか? 向こうもどう出るのかわからない状況ですから」


 細川官房長官がこの話をとりあえず終わらせようと試みる。問題となる案件は後回しにしようということだ。安斎は本来は重要案件を後回しにはしたくない性だがこれについては官僚との対立をなるべく避けたいため仕方なく引くことにする。


 「そうですね。今回の意見の交換はこのあたりで終わりにしましょう」


 「わかりました。引き続き外務省としても意見を出しベストな結果を出せるように努力します」


 今村も細川の意見に同意し今回の会議を終わりにすることと結論を次回以降に先回しすることを容認する。

 会議は終わる。

 今村は外務省へと帰っていった。朝間も自身が財務大臣を兼任しているということもあり財務省の大臣室へと戻っていった。部屋の中に残ったの安斎と細川の2人だけだった。

 2人とも部屋の中に残って席から立つことも何も話すこともしないでしばらく時間が過ぎていった。


 「安斎総理」


 その沈黙を破ったのは細川だった。


 「どうした?」


 「このままでは状況はよくなりません。今村外務事務次官を更迭する人事をしましょう」


 安斎は細川の言いたいことが分かっていた。事務次官の人事について内閣が関与する。そこで安斎内閣として不適切な事務次官を更迭することにすべきだと細川は主張した。安斎もそのことが頭の片隅にあったため悩んでしまう。内閣が今後も政策を実行していくうえで障害となるものは排除しなくてはならない。しかし、官僚と対立しても内閣が続くことはない。どうしたものか。外務省は官僚組織の中でも影響力を持つ省庁だ。そのため外務省をうまく味方に入れることができないものか。安斎は必死に考える。しかし、安斎にはいい案が思い浮かぶことがなかった。その中で安斎はあることを考えた。


 「細川。今、平和党内の現職議員で外務大臣経験者はどれぐらいいたか?」


 「えぇっーと、詳しくは覚えていませんが現職であれば10人程度はいたかと」


 「では、外務大臣経験者全員を明日官邸に呼んでくれないか。もちろん、朝間副総理も呼んでもらうから」


 「わかりました。さっそく、連絡を取ります」


 安斎は外務大臣経験者に今回の件をどう片づけるか意見を求めることにした。そして、細川は部屋を出ていき、安斎1人が部屋に残る。


 「……まったく、総理も楽じゃないよ」


 安斎の独り言は静かな部屋に誰にも聞かれることなく発せられたのだった。

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