第2話 後任人事
安斎真一。
49歳。
既婚者。
身長176センチ。
体重68キロ。血液型O型。
誕生日は9月26日。
出身は長崎県。
趣味はカラオケ。
そして、職業は日本国内閣総理大臣。
この物語は内閣総理大臣である安斎真一が隣国との外交問題に対してどう対処していくのか語っていく物語である。
◇◇◇
翌日。
いつものように首相官邸に車に乗せられて向かう。首相官邸の玄関を入るとシャッターをパシャパシャとフラッシュをたいて撮るマスコミ勢がいた。安斎はいつものように「総理おはようございます」と声をかけられても無視をする。これにはきちんとした理由がある。別にいちいち挨拶をする義理などない。昔佐藤総理という人が13年前にいた。彼は毎日きちんとマスコミの相手をていたが、そもそも安斎はマスコミのことが好きではない。なるべく相手をしたくないというのが本音だ。だから、あまり関わらないようにしている。失言さえなければマスコミに囃し立てられないのだから。
首相官邸に入り閣議を行うため閣議室の横のマスコミへの撮影用の部屋に向かう。部屋の中に入るとすでに部屋の中にはすべての閣僚がそろっていた。閣僚全員の前に立ち椅子に座る。すると、椅子の前で立っていた閣僚たちは安斎が座った後に全員が一斉に座った。これも儀式的なものだ。
マスコミの撮影が終わると隣の閣議室へと向かう。閣議の様子は一般にマスコミなど撮影がNGとなっている。
閣議室においては17人の閣僚によって日本の未来を決める重要な会議が毎週2回開かれている。
閣議を主宰するのは内閣総理大臣であるが議事の進行については官房長官がする。
いつものように閣議が始まる。
「ただ今から、閣議を開催いたします」
細川官房長官が閣議の開催を宣言する。
「まず、閣議案件について小木曽官房副長官よりご説明申し上げます」
「国会提出案件について申し上げます。まず、「電力等エネルギー諸問題対策法案」の提出についてご理解いただきたいと思います。同法案は我が国のエネルギー問題について再生可能エネルギーの他新エネルギー開発を進める企業団体に関してのさらに補助について明文化したものです……」
小木曽内閣官房副長官が法案の説明をする。小木曽雄二官房副長官は参議院議員石川選挙区選出の当選3回である。安斎とはそこまで関係がいいというわけではないが、細川官房長官と親しくその関係で官房副長官となった経緯がある。
「続いて、朝間財務大臣より今年度の予算案についての説明があります」
「ええ、今年度の予算案についてですが……」
続いて朝間太郎財務大臣が説明を始めた。朝間太郎財務大臣は72歳、衆議院当選10回を誇るベテラン議員である。選挙区は鹿児島3区。そして、何と言っても元内閣総理大臣である。安斎の前の総理であった赤井浩一のさらに1つ前の総理大臣だ。内閣総理大臣としては1年1か月という短命で終わったものの朝間派を率いるため党内においてかなりの影響力を持っている。ちなみに今内閣においての正式な役名は内閣法第九条の第一順位指定大臣(副総理)、財務大臣、内閣府特命担当大臣(金融担当)、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全担当)の4つ持っている。
副総理であることもあり政権のナンバー2。しかし、実際のところ政権の真の黒幕と言ったところか。それは安斎自身もわかっていることだった。安斎内閣が発足して2年。先の参議院議員通常選挙は難なく乗り越え残っているのはあと1年の任期が残っている衆議院総選挙だった。残り1年となればおのずと解散をする雰囲気が出てくる。日本において衆議院が任期満了したことなどほとんどないのだ。そのことを安斎も知っている。どのタイミングで解散をするのか図っているのもある。
「では、本日の閣議はこれにて終了とします」
細川官房長官がそういうと閣議が無事に終了した。閣議が終わると安斎は他の大臣達と立ち話を始める。安斎は自分の内閣がすでに発足してから2年経っていることにある意味危機感を感じている。おかしなことだと思いになると思うが長いとなぜ危機感を感じるのか。それは、内閣が長く続くということはまず気が緩む。そして、党内からは総理になりたいポスト安斎と呼ぶべき存在が総理になろうと暗躍し始める。野党は追及する。マスコミも新鮮味がない総理などどうでもよく新しい総理をもてはやそうと現内閣を倒閣しようとして来る。だからこそ日々閣僚たちには失言などで悪目立ちしないように警戒を促しているのだ。あとは、総理と言えども世間話をしたいのでそれをしている。というよりも後ろの方が本当に狙いというかしたいことだというのは安斎だけの秘密である。
「森村さん、最近調子はどうですか?」
「総理。それが最近マスコミが私を叩きまくるんです。野党も。やはり私が女性だというのもあるんですかね?」
「ははは。まあ、女性だとこの国だといろいろ言われますからね。それにあなたを防衛大臣に任命したのは政策心情が近いと考えたからですよ。だから、国防が弱いならもっと勉強してください。私がまた手助けすると野党に追及させる材料になってしまいますから」
安斎が話している相手は森本香織防衛大臣だ。彼女は当選回数4回にして初入閣を安斎改造内閣で防衛大臣として果たした。ただ、それが当選回数5回以上のいわゆる大臣待機組ならびに多くの男性議員から嫉妬されていた。まだ、永田町は女性を軽視する流れが止まらないようだと安斎自身も彼女を入閣させたときに自分の肌で感じた。安斎自身昨今の女性の活躍という流れから女性を多く活用しようと考えていた。現在の安斎改造内閣において女性大臣は3人。1人が今話している森本防衛大臣。2人目は、小山治美厚生労働大臣。そして3人目が村山紗希内閣府特命担当大臣だ。この3人とも有能な大臣であると安斎は信じている。少なくとも大臣待機組と呼ばれている一部の男性議員よりは。
「総理、ところで聞きたいことがあるのですが」
安斎と森本の会話に割ってくる存在がいた。
「何だい?」
「実は、うちの派の入閣待機組の笹田君がちょっと身体検査に引っかかったみたいで……」
「そうか、じゃあ、また後任の大臣候補は選びなおしか」
「そうですね。一応うちの派からも候補を出しますが、もう総理はうちではなく別の派から選びますよね」
「まあ、人次第かな。そのあたりはまだ人を見ないと決められない。なので宜しく頼みますよ石川総務大臣」
安斎と話していた男は石川雅博総務大臣。党内においては比較的小さい派閥である石川派の領軸である。安斎とは盟友と言ってもいい存在である。そのため石川派は小さい派閥ながら総務大臣の石川、党副総裁の河瀬敏幸と要職に2名も起用されている。
今、安斎と石川が話している話は新任の大臣の話だ。実はこの1週間前に深見内閣府特命担当大臣が病気により入院することになり大臣の職を辞任した。本人に何かしらの不祥事がなかったため本当に病気による入院だったのだ。深見が辞任したことで野党に追及されるかと思っていた安斎だったが、野党にはそれほど追及されることはなかった。安斎が知らないことだが、実はこれには裏があって野党の民友党の支持母体に医師の労働組合があり病気に関して政争を起こさないでくれと労組系の議員にお願いがされていたそうだ。その結果、深見大臣の辞任について民友党が追及してこなかった、そういうわけだったのだ。そして、そんなわけで安斎は深見の後任の大臣の人事を急きょしなくてはいけなくなった。そこで、後任の大臣には盟友の石川に親しい人から選出しようと決めた。
しかし、結果は振り出しになってしまったのだ。
派閥均衡人事はやはり辞めた方がいいと安斎は考えたが、安斎自身には派閥の長老共に勝る政治的影響力を持っていないためできない事情がある。それに今は国内政治よりも外交問題の方が日本にとって重要なことだと考えている。
安斎はこのあと結局、深見の後任の大臣については神田予算委員長を充てる人事を決めて、失言がない安定した人材を起用する結果となったのだった。
国務大臣の人数を内閣総理大臣を除いて17人以内と表記していますが、これは小説の世界での話です。2017年4月現在において特例法により2022年まで設置される復興庁の長である復興大臣、2020年東京五輪まで担当大臣が設置されるため19人以内が現在の国務大臣の人数となっております。