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最終話 安斎(そうり)の決断

 お待たせしました。ついに最終回です。

「国交断絶もやむなしだと私は判断しました」


 今村のその言葉はかなり重く受け止められた。特に、日ごろから韓国に対して敵視を抱いていた安斎にとってその言葉がまさか外務省の筆頭官僚でもあった今村の口から出るなんてことを全く想像していなかった。

 あまりに想像外であったため安斎は絶句してしまった。安斎だけではない。この場にいた細川も小野池も顔がきょとんとしていた。小野池もまさか今村がこんなことを言うとは、頭の中で今後の外交問題について外務大臣としてどう解決をすればいいのか考え始めるも今村の国交断絶・・・・という4文字の言葉はかなり重い一撃であった。小野池は途中で考えることを放棄した。そして、細川もそれは同じであった。安斎内閣を2年間にわたって支えている細川は歴代でも最強の官房長官と言われている。内閣官房長官という役職は一般的には副総理という印象を国民は持っていると思う。しかし、それは間違いである。確かに内閣官房長官にはかなり大きな力や官房長官費という独自の予算を持っているなどしている。そして、もし内閣総理大臣の身に何かがあった時に事前に総理大臣の臨時代理の順位というものが組閣の際に発表されるが、基本的には担当大臣は関係なくその人の政治的経験やその人の政府内とりわけ与党内における立場・影響力に基づき1位から5位まで任じられる。この際に内閣官房長官は基本的に1位になるという慣例がある。もちろん、例外があり官房長官以外が1位の場合はこれを副総理と便宜上呼ぶようになった。そんな歴史的な背景がある。

 さて、細川は今村の判断を内閣官房長官としてスポークスしなくてはいけない。もちろん、今村も一閣僚であるので大臣会見は存在している。しかし、内閣官房長官の説明に再び戻ってしまうのであるが、内閣官房長官は副総理的な印象を国民が持っていると言ったが、内閣官房長官を海外の政府の役職で言うと政府の広報担当者になる。簡単に言うと、中国砥川よくニュースで政府のコメントを発表している人が出てくると思うが、その役割を官房長官の役割だと思ってくれればいい。そして、官房長官の具体的な仕事は、1日2回内閣官房長官はメディア向けに会見を開いていろいろなことを発表したり、質問を受けたりしているからだ。その質問の中にはほかの大臣の発言に対するコメントもしなくてはならない。細川はそのマスコミからどんな質問をされるのだろうと今から考えないといけなくなっていた。安斎内閣を2年間支えてきたのは細川が内閣官房長官としてかなり裏方で努力してきたからだ。保守色の強い安斎は一人暴走する可能性があった。現在の日本社会は右傾化していると言われているが、それでも国民の中にはまだリベラルの人もいるし、海外から見れば危険にとりわけ中韓両国はあからさまな態度で何かを言ってくる。そういった、問題伍斗を表面化させないために細川は裏方として奔走してきた。そして、今回もそうしなくてはいけないのかと考えるととてもつらいものであった。

 内閣官房長官を最悪やめるかもしれない……日頃の疲労によりそんなことを最近の細川は思っていた。しかし、それでも盟友の安斎のために頑張らなくてはいけないと踏ん張る。


 「今村大臣。それがあなたの出した答えなのですね」


 「はい。これが、私が出した答えです。現代において国交断絶と言うのは確かにリスクが高いものです。しかし、中東諸国を見ていると結構国交断絶をしている国ってあります。ですから、まったくもって珍しいものであるとも限りません。日本政府としての断固とした意志をそろそろ表明する時だと判断しました」


 今村は細川にそして安斎に対してもそうはっきりと言う。

 安斎にとって韓国との国交断絶は悲願。細川はそういう認識であった。しかし、今村のその言葉を聞いて安斎は突如として危機感を抱き、納得しないようであった。


 「し、しかし、今村大臣。本当に国交断絶なんかしてもいいのでしょうか?」


 「総理。どうしたのですか? まさか自分の総理の時に国交断絶をするとは夢にまで思っていなくて理解が追い付かないのですか? それとも国交断絶による世間の批判を恐れているのですか? それとも国交断絶で同盟国アメリカから批判されるのが怖いのですか?」


 「そ、それは……」


 安斎は反論できなかった。今村が言っていることすべてが当てはまったからだ。今村は、安斎が反論せずに黙っているのを見て図星だったな、とふいににやりとした。


 「総理、今なら間に合いますよ。もしも気持ちが今からでも変わりましたら至急外務省に連絡して大使を帰還させる努力を今からでも始めますがどうしますか?」


 今村は、安斎を試している。安斎は、そのことを今思い知らされた。自分の政治的スタンス的には、今すぐにでもかんこくと国交断絶をしたい。しかし、事はそう簡単にはいかない。日本と韓国との間には反日・反韓というねじれはもちろんの事、親日・親韓という信条もある。経済的にも日韓は緊密に結びついている。だから、安斎がいくら反韓の政治家だから今すぐにでも国交断絶と言うと相当の影響が無効だけでなく、日本にも来る。その際に、右翼からは大歓迎されるが、経済からは非難殺到だろう。右翼は日本の経済や国力においてただ立場を、信条を言っているだけであって貢献しているわけではない。真の意味で日本を支えているのは日経連をはじめとした日本の経済界だ。そして、安斎率いる与党平和党の最大支持母体の一つであるのが、経団連だ。経済から多くのバックボーンを受けている平和党政権はいくら右のスタンスを持っているとしても韓国に対して強硬に出ることができないのが現状である。

 今村は、そのことをすべて知っている。

 そのことをすべて知ったうえで安斎にどうするのか答えを求めているのだ。試しているのだ。


 「わ、私は……」


 安斎は答えを言おうとするも言葉に詰まる。

 悩んでいる。答えを今この場で出さないといけないのか。安斎は葛藤する。

 その様子をほかの会議の面々は見ている。ただ、黙って見ている。細川と小野池はこれからどうするべきなのか考えていることもあり黙っているが、今村だけは違った。安斎の決断を待っている。


 「総理。早く決めてください。これだから日本の政治は決められないとか言われてしまうのですよ」


 今村は、安斎をせかす。


 「今村大臣。さすがにここまで重要なことを総理一人の決断に任せるなんて……無謀じゃないか」


 細川が、手助けに出る。

 しかし、それを今村が認めない。


 「閣議にどうせ出したところで結局のところ総理の心が決まっていなくては無駄です。だから、今ここで総理の意思というものを見せてもらいます」


 「……」


 今村の気力ある言葉に圧倒されたのか細川は逆に黙る結果となった。

 小野池は、その様子を見て「あの官房長官が……」と今村の恐ろしさを今になって気づいたのか恐れおののいていた。


 「総理、総理、総理! さあ、早く決めてください!」


 今村は、どこかの某有名野党議員の真似をしたのか総理を追及する。


 「ぐぬぬ」


 安斎は、その追及方法にどこかトラウマがあったのか、何かを思い出したかのように唇をかみしめて悔しがった。細川はあの民友党の辻田議員は結構あの手の追及で面倒くさいですからねと顔を青くしていた。


 「さあ、さあ、さあっ!」


 今村が畳みかけるように答えを求める。


 「……」


 安斎は考える。野党に追及されても耐えてきた。のらりくらりと野党からの質問をかわしてきた。しかし、今村の追及に関して安斎にとって逃げ道というものはなかった。今村はそのことをわかって質問をしてきている。

 あと、ちょっと。

 今村の顔からはそのような言葉をまるで発しているかのようなオーラを放っていた。

 逃げ道がない。

 正攻法で出るしかない。つまりは、自分の思っていることをそのまま今村に言わなくてはならないのだ。


 「わかりました。もう覚悟を決めました。私は、韓国と国交断絶を決意します」


 「「そ、総理!?」」


 安斎のその言葉に細川と小野池の二人がすぐさま反応する。


 「さすが、総理です。その判断をすると私は信じていました」


 今村は、安斎をほめたたえる。

 その言葉を聞き、どうせそう答えさせるつもりだったのだろうと今村を安斎はにらみつける。今村は、「何のことやら」と目を安斎から背けた。


 「これ以上、私は我慢できない。日本と韓国は一心同体。確かに経済の面においてその言葉はかなり重要となってくる。いくら憎いと言っても共倒れしてしまえば元もこうもない。しかし、日本は別に韓国とだけつながっているわけではない。ほかの国ともつながっている。第一、なぜ隣国だからと仲良くしなくてはいけないのか。中南米を見ればブラジルとアルゼンチンは仲が悪いし、イタリアだって、ドイツだって近隣と最近は和解したと言われつつもまだ仲が完全にいいとは言えない。日本は無理して隣国と協調する必要はないんだ。こっちが、仲良くしたところで国連や米国でロビー活動をして我が国を陥れるような汚い手を使う国なんて信用に足らない。だから、私は国交断絶を決意した」


 安斎は今村たちに向けてそう言い放つ。

 その言葉を聞いて細川も小野池ももうこうするしかないとうつむき、そして覚悟を決める。


 「総理がそう決めたのならば官房長官として私は発表しなくてはいけませんね」


 「閣議は波乱になりますね」


 細川は、小野池は具体的な行動へと移るために部屋をあわただしく出ていった。

部屋の中には安斎と今村の2人になった。


 「総理、いや、安斎さん。あなたはこのような結末でよかったのですか?」


 「いや、このような結末になるとは思ってはいなかったよ。それもこれもすべて今村さん。あなたの作戦だったのでしょ?」


 「ふふふ。バレていましたか。私が、本当は韓国のことが大嫌いでありあの国と国交断絶をする機会を外務省の中で誰よりも探り、狙っていたということを」


 「あなたは、外務省の官僚として本当に有能でした。しかし、なぜか韓国関係のことに関してはとても冷淡であった。少女像の問題において解決すると見せかけてこちら側の強硬な態度をとっているという情報を常に大使館に送っていたことも掴んでいますよ」


「そこまで、知っていたのならどうして大臣に任命したのですか? あなたは、別に国交断絶まで望んでいなかったはずですが」


 今村のその言葉に安斎は一言だけ言う。


 「お前らはいつ俺達を解放してくれるのか」


 「その言葉は一体?」


 「さあ、なぜだかわからないが、私の頭の中で常にこの言葉が出てくるのですよ。そろそろあの国から解放されるというのも悪くないと思いましてね」


 「そうですか、ありがとうございます。総理、ところでこれから私はどうすればいいでしょうか?」


 「どの道、国交断絶をして正式に受理、実施されたのちに私は総理を辞任します。あなたもその時に辞任すればいいのではないですか? 目的を果たしたのですし」


 安斎の言葉に、今村はうなずく。そして、「ありがとうございました」と一言いうと、部屋から出ていった。部屋に残ったのは安斎一人になった。


 「まったく、この部屋もそろそろ見納めか……」


 一人部屋に残り、安斎は総理をやめる準備をし始めたのだった。

韓国と国交断絶した日本がどうなったかは、まだこの時の日本国民かれらにはわかるはずもなかった。

                                  完。


 最終回が思った以上に苦労しました。ここまでお待たせしてしまったのは本当に申し訳ありません。最後、どこに持っていくかでかなり迷いましたが、個人的にはこういう落ちにしようと思いこんな終わり方になってしまいました。

 では、また次の社会問題シリーズで。

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