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第10話 今村の決断

 しばらく更新で来てませんでした。申し訳ありません。

 安斎が覚悟を述べる。その言葉を聞いて今村はしばし黙っていた。今村は葛藤していた。総理の言い分について理解はした。確かに現在の日本国民の世論に配慮するとなると大使は帰還させない方がいい。そんなこと百も承知だ。しかし、今村は、今は安斎の要請により外交問題担当大臣という内閣における大臣を務めている本業は外交官だ。外交官は、余論などの感情に左右されずに大局的に世界の政治情勢を把握しなくてはいけない。今村的には韓国と仲良くすることが大局的に日本にとってはいいことであると考えている。そして、外務省の多くの官僚が今村と同じ意見を持っている。

 ただ、このことを安斎に伝えたところで素直に聞いてくれるとは思っていない。安斎はいわゆる右翼の中でもネット右翼という層に支持されている。その理由が安斎の政治思想に嫌韓というものがあるからだ。ネット民を中心に嫌韓が流行っている。それに支えられて安斎は政治家をやっている。ただ、安斎の支持層がネット民だけであったというのならば今村はそこまで悩むことはなかっただろう。嫌韓の思想は、今はネット民だけではない。多くの国民とりわけ若い世代これからの日本を担っていく世代を中心に広まっている。つまりはこれからの日本の意思として嫌韓、韓国に対してバシッとしていくことが大事なのではないだろうか。


 「今村大臣?」


 今村は安斎の話を聞いてから黙り続けていた。安斎は今村がずっと黙っていることをとても不振がって声をかけた。


 「はっ、ああ、え、えぇっと、安斎総理どうしました?」


 今村は安斎が声をかけてきたことでとても動揺した。今村はこれからの外交の事、日本の事を頭の中でずっと考えていたので急に声をかけられたことで一種の混乱であった。人間いくつになっても自分が考え事をしている時に、他の人から声をかけられると混乱するものだと今村は自分がまだまだだと思った。


 「今村大臣がずっと黙っているので心配して声をかけたのですが、大丈夫でしょうか?」


 「はい、問題はありません。少し考え事をしていまして。申し訳ございません」


 安斎は、かなり動揺している今村に対してかなり心配になっていた。今村が今、自分の話を聞かないで一体何を考えていたのか。安斎は超能力者ではないので、今村が頭の中で考えていたことを読み取ることなんて全くできない。だからこそ、今村には自分の口からしっかり何を考えていたのか話してもらいたかった。


 「考え事とは一体何でしょうか?」


 安斎は、今村を問い詰める。

 今村が安斎の敵か味方か。それは安斎にはまだわかっていない。半ば無理やり安斎内閣の閣僚にしたものであるのでいつ反旗を翻すかわからない。今村は外務省の事務次官であった。つまり外交についてのプロだ。このプロが反旗を翻したとなるとかなりの人が今村の意見に同調するだろう。関ヶ原の戦いにおける小早川秀秋のように裏切った瞬間に多くの人が付くかのようなことがあるかもしれない。なので、安斎は今村の真意を見抜こうとする。


 「……」


 今村は黙っている。

 さっきまで考えていたことを素直に安斎に伝えておくべきかどうか迷っている。素直に伝えれば安斎も今村の言い分というものをわかってもらえるだろうし、今村自身も韓国に対する制裁について多少なりの理解をしていることをわかってもらえる。しかし、外交官として武力よりも先に言葉で、交渉で平和を勝たることを職業としている職業柄そんなことを口に出して言えることができなかった。今村の商業外交官としてのプライドかそれとも日本のことを思い総理のために働くために自らの真意を素直に話すか。今、今村には二つの選択肢があった。

 今村は葛藤していた。どうすればいいのだと。自身のプライドを捨てるのか、それとも総理に従順するか。

 悩んでいる、葛藤している今村の様子を安斎、細川、小野池の3人は黙って見つめていた。今村がどんな結論を出すのか静かに待っていた。

 今村が何分間だろうか、しばらく黙っていた。何分どころではなかったのかもしれない。何時間少なくとも1時間は過ぎていた。途中、部屋の中に官邸の事務員が入ってきて安斎にこの後の用事があるので早めに切り上げてくださいと連絡をしてきたが、安斎はその連絡を聞くだけ聞くと無視してそのまま事務員を部屋から追い出した。安斎は確か次の予定は向井明示党代表との会談であったが、向井氏との会談であれば無視しても構わないと判断した。蛇足的になるが、のちのち安斎は向井にこのことで怒られているが、連立離脱といった最悪の事態にはならなかったのでそれほど重く結局は見なかったそうだ。

 さて、安斎は、自身の予定を伸ばしてまでも今村の答えを求めていた。

 そして、ついに運命の時間がこようとしていた。今村は下を向いてずっと黙っていたのだが、顔を安斎達正面に向け悩みがなくなり気分が楽になったのか若干顔にゆとりがあった表情をした。

 今村はずっと考えていた。自分のプライドについてどうするべきか考えた。総理の考えについても考えた。日本の国民の考えについても考えた。そして、韓国側の立場としても考えた。これらの異なる立場の考えを総合してどうするべきなのか考えた。自分が今どうすればいいのか。この国のために何をなすべきなのか。

 今村は、ずっと考えていた。しかし、考えているだけでは何も変わらない。安斎は今、自分の政権下においてこの問題を解決しようとしている。そのことをかなり評価しなくてはいけない。だから、安斎の考えを尊重する。そう、今村が導き出した答えとは─


 「総理。私は大使の帰還については延期すべきだと考えます。日韓合意が明確に実行されたと判断されるまでは少なくとも帰還させるべきではありません。また、日韓合意が実行されなかった最悪の場合には─」


 今村は、ここで一拍開ける。そして、もっとも重い言葉を言う。


 「国交断絶もやむなしだと私は判断しました」


 次回で最終回(予定)です。

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