雪の日。
雪玉がぶつかろうとしている。
僕はとっさに手で顔をかばった。
雪玉は僕の目の前で砕ける。
「すごいね。そんな事もできるんだ」
少女は笑う。
校庭を覆った一面の白い雪原の真ん中。
面白いものでも見つけたように、一人、目立つ少女は笑う。
見たことの無い、雪のように可愛らしい少女。
「え? 僕……」
「そうそう! すごいね、普通の人は避ける事なんてできないよ!」
「そうかなぁ」
「特に君、ボーッとしていたからね」
確かに呆けていた。
気づいたら雪玉が目の前にあった。
僕は顔をとっさに手でかばったんだ。
「君もやれば出来るんだね」
「嫌だなぁ、僕のことを何だと思っていたんだよ」
ちょっと意地悪したくなり、そう返す。
仕方ないだろ? 良いじゃないか。少しばかり腹を立てたって。
「ううん、感心してるんだよ」
「そうなのかなぁ」
少女はまたも笑みを向けてくる。満面の笑み。
気のせいか、先ほどより顔が近い。
「すごいなぁ。いつもは凄さを隠してるんだね!」
「そんな事は無いから」
「ねぇ、雪玉を大きくしない? 雪ダルマを作るの」
「え? 誰が?」
「あたしと君で」
「僕も!?」
「手伝ってくれるよね? だって君、何でも出来る良い人なんだもん!」
「……」
こう言われては、断れない。
「でも、どうやって作るのかな?」
知らないの!? とは言えない。
優しく教えてあげる事にする。
「こうして転がすんだよ」
「うわぁ、どんどん大きくなってる! すごいすごい! でも、お、重たくない!?」
「そりゃ、これだけ大きくなっちゃったからね」
見るからに大きい。
「さぁ、今度は頭を作ろう?」
「体と同じように?」
「そうそう。まずは小さな雪玉を転がして……」
よっこいしょ、と載せた頭も重かった。
「あとは、枝を刺して、顔と鼻を作って……あ、口も!」
「すごい! 出来たよ!」
「君が作ろうと言ったから」
「うんうん! でもこの雪ダルマさん、話さないのかなぁ?」
「『ボクに何か用かい? お嬢ちゃん?』」
「あはは! なにその声!」
「……せっかく雪ダルマになってあげたのに」
「ごめんごめん。でもすごいね、雪ダルマが喋ったよ!」
「『ボクは話せる雪ダルマなんだ』」
「あはは!」
ところで、この少女は誰だろう。
クラスの子じゃない。
「君すごいね! あたしね、こんな楽しい雪遊びは久しぶりだった!!」
僕も久しぶりだ。クラスの子も含めて人とこんなに話すのは。
この子が構ってくれる子で良かった。
もっとも、始めは雪玉をぶつけられそうになったわけだけど。
「ねぇ、名前何というの? クラスの子じゃないよね? 学年は?」
僕は少女に聞いていた。
「あたしはね──」
ここから始まるお話もある、これはそんな物語。