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ソウル・シャウト・ジェネレーション  作者: ますたか きょうたろう
第五章
35/38

【7】死闘(3)

「……終わり? 終わりだと……? お前は何か大切なことを忘れているな……」

 磯崎はうつむきながら、低い声で言い、その口元にうっすらと不敵な笑みを浮かべる。

「何……?」

 真斗は警戒する。

「忘れたか……!! 私は無限にエーテルを使える! つまりそれは、こういう事も可能だ!」

 顔を上げ、磯崎が四つの鉤爪を放つ! 真斗は構えるが……

「な……何!?」

 放たれた全ての鉤爪が……闇へと吸い込まれて消える! そして……真斗を取り囲むようにいくつもの闇が発生する!

「マスター! 注意してください!」

 ナナが叫ぶ。それと同時、闇の一つから鉤爪が出現する! 真斗は素早く反応し、魂装具を振るい弾き返す! 黒い軌跡が次なる攻撃を弾くべく斬撃を放つが……弾かれた爪は再び闇へと消え――別の闇から現れ真斗に襲いかかる!

「っ……!!」

 足元から放たれた一撃をぎりぎりのところで上体を反らし、避ける。しかし、次なる鉤爪が左上後方から、そして正面から迫る!

「うっ……うおおおっ!」

 刀を振るい、正面の鉤爪を弾きつつ、身体を右に回転させ左からの一撃を躱そうとするが――わずかに間に合わず激痛が肩に走る!

「ぐ……!」

 その間も次なる攻撃が繰り出され――真斗を八つ裂きにせんと四方八方から絶え間なく刃が殺到する! 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 身を返し、刀を振るい、斬撃を撒き、真斗は致命傷を受けまいと必死に攻撃を凌ぎ続ける!

 右下から鉤爪が迫る。右手で刃を降りおろし、これを弾きつつ漆黒の斬撃を放つが――


 ――ごっ!


 鉤爪の再度の攻撃。鈍い音と共に斬撃が消える! 爪は勢いを失わず真斗の右のふくらはぎを穿つ!

「ぐああっ!」

 斬撃の威力が……弱まってきている!?

「どうした? そろそろエーテルが不足してきたんじゃないのか? さあ、いつまで持つかな! ふははははは……!」

 磯崎の笑いが響く。

「マスター! もうエーテルが……!!」

 ナナが悲痛な声を上げる。

「くっ……そっ……!!」

 真斗が刀で正面からの攻撃を弾いた……直後! さらにその後ろからもう一つの鉤爪が迫る!

「しまっ……!」

「――真斗くん!」

 怜奈の悲鳴が響く!


 ――ぎぃぃぃぃぃぃん……!


 …………

 それは……幾度となく見た背中。思わず真斗の胸に熱いものが込み上げる。

「……ごめんね、真斗くん。大分遅くなったわ」

 鉤爪を魂装具で受け止め、背を向けたまま言う。

「マサミ先輩!」

 真斗より先に、怜奈の方が叫んでいた。しかしその間にも真斗の背後から二つの鉤爪が迫りくる!


 ――ぎゅぎぎぎぎぎぎぎっ!


「おっとと……こっちもオッケー♪」

 回転させた大鎌で鉤爪を巻き取った響子が振り向き、親指を立ててウインクした。

「響子!」

 今度は宝條が叫ぶ。

「ぐっ……次から次へと……貴様らぁっ……!!」

 磯崎が怒りを露わにし、弾かれた二つの鉤爪を振るうが……響子が動く! 旋風の大鎌が瞬時にこれをも拘束する!

「……真斗くん。小早川教授の敵……怜奈の想い、叶えるんでしょ」

 雅美が真斗に向き直る。真斗は強く頷く。

「今がその時……! さあ……いくわよ……!」

 雅美の意図をくみ取り、真斗が雅美の前に出て構えを取る。雅美は魂装具を低い位置で構え、その体躯を捻る。地を踏み締め、一気に全身のバネを解放する! 運動エネルギーが雅美の身体を伝い、その腕へと集約され、巨大な槌を高速で前へと押し出す! その瞬間、真斗は飛ぶ! 左の足が雅美の槌を捉える。そして――


 ――ど……ごぉぉぉぉぉぉぉっ!


 振り抜かれた雅美の魂装具の勢いを得、弾丸と化した真斗は磯崎へと迫る! 左手を前に、右手を引き、突きを構える! 漆黒の刃から湧き出すオーラが尾を引き、残像を残し、深淵の闇を刻みながら、突き進む!

「くっ……くふふっ!」

 磯崎が声を漏らす。

「!?」

「やはり――」

 磯崎は両腕を開く!

「やはり、最後の手は取っておくものだな!」

 磯崎の胸元に闇が現れ――そこから一本の鉤爪が生える! そして爪は闇を渡り、磯崎へと進む真斗の背後に出現! 真斗の右腕を巻き、鎖を絡め、その勢いを殺さんと鉤爪が宙に停止する!


 ――ぎっぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ……!!


 踏ん張る鉤爪と、真斗の突進力がせめぎ合い、空気を震わせる!

「く……くっ! おおおおおおっ!」

「ぬううううううっ!」

 真斗と磯崎の口から声が漏れる。

 ――――

 …………

 やがて……真斗の身体は磯崎にあと一歩の手前で――ほとんど勢いを無くし――刹那、空中に止まる。

 磯崎の口が、にやりと歪む。

「これで……終わりだ……!!」

 踏ん張っていた反動を活かし、上空の鉤爪が真斗の胸を目がけ降下する! 真斗の心臓を狙い、穿ち、えぐり取りにかかる!


 ――ず、ざんっっ……!!


 …………

 真斗の眼前を、紅いものが通り過ぎた。真斗の心臓を貫くはずだったそれは、紅蓮に染まる刃に貫かれ、そして火の粉を散らし、消える。それと同時、真斗の右手を拘束していた鉄鎖が、光を放つ大剣に断ち切られる。

 片膝で身体を支えながら、魂装具を放った宝條と怜奈が叫ぶ!

「行けっ! 夜霧!」

「今よ! 真斗くん!」

 真斗は右足に力を込め、地を強く蹴る! 負傷した足から血が噴き出す! しかし――真斗はそのまま強く全身を捻り、渾身の力で右手を前へと突き放つ!

「マスター! 行っけぇぇぇぇぇ!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ……!!」

 ナナが、そして真斗が吼える!

 右手に握られた漆黒の刃が闇を吐き、空を斬り、音を穿つ! そして――深淵の闇を纏う無音の衝撃波が放たれる!

「なっ……!? ぐっ……ごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……っ!!」

 闇は磯崎の胸へと突き刺さり、骨を粉砕し、血管を断裂し、螺旋状の尾を引きながらなおも進む! 磯崎の足が地から離れ、身体が宙を舞う! 衝撃のままに磯崎は吹き飛び――貯水タンクへと激突! タンクが大きくへこみ、そして止まることのない闇が――磯崎の身体を通過し、タンクを貫通する!

 やがて一筋の漆黒は――夜の闇へ溶けて……消える。

 磯崎は白目を剥きながら……タンクから漏れ出した水と共に、べしゃり、と落ちた。

 …………

「はぁっはあっ……はあっ……!!」

 真斗の刀が虹色の霧となり、消える。その場に倒れ込みそうになる真斗を……柔らかく何かが包む。

「やった……わね」

 耳元で怜奈の声が聞こえた。

「……ええ」

 真斗はそう言うと、わずかに笑った。

2016/12/23:一部表現を変更

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