表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウル・シャウト・ジェネレーション  作者: ますたか きょうたろう
第五章
33/38

【7】死闘(1)

「怜奈先輩っ!」

 真斗の右手が……怜奈の肩を掴み、空中で抱きとめる! そして真斗は屋上へ向き直り必死に左手を伸ばすが……指先は柵をかすめ空を切る。真斗の視界が――歪む。

 駄目なのか――!!


 ――どんっ! ――どっ……。


 鈍い……衝撃音。真斗は――ゆっくりと目を開ける。怜奈は――目の前にいた。ビルの屋上に力なくうつ伏せに倒れている。振り返ると、先ほど上空から真斗と怜奈が落下していた場所には、うっすらと消えかかっている大剣の影。

「ふん……」

 磯崎が鼻を鳴らす。その視線の先には、地面に倒れながらも、右手を出す宝條の姿。

 真斗と怜奈がビルの外へと落下する、その直前、宝條はそこに魂装具を具現して弾くことで、ビルの上へと落下の軌道を変えたのだ!

「く……なんとか……間に合ったか……しかし……」

 今ので胸の傷が開いたのか、宝條に苦悶の表情が浮かぶ。

 真斗は腕に力を込め、身体を起こしながら、出血でジャケットを赤くを染めた宝條と、依然倒れたまま動かない怜奈を見た。

 …………

 あの時と同じだ――

 両親を亡くし、そして……妹に救われたあの日。

 本当は……手が離れたんじゃない。澪は自ら腕を振りほどいたんだ。そのままアスファルトへ頭から落ちるはずだったオレを――かばう為に。

 そして……オレだけが助かった。……澪の記憶を引き換えに差し出して。

 残酷な事実。無力さに苛まれ、自身を嫌悪し、罪悪感に締め付けられ、魂は軋みをあげて哭いた。

 その重圧に耐えられなかった。だからずっと、真実から目を背けてきた。 

 ――嫌だ……もう、あんな思いは。

 誰も救えず、ただ守られて自分だけが残る。大切な人を目の前で失う。そんなのはもう、嫌だ――

 …………

「まったく……つくづく君は私の邪魔が好きだな」

 倒れる宝條の傍らに磯崎が近づき、見下ろす。左手から延びる二つの鉤爪がゆらり、と宙で狙いを定める。

「よかろう……では貴様から先に逝くがいい!」

 宝條の頭と背に向かい、その凶刃が降りかかる!


 ――じゅばっ!


 磯崎の前を漆黒の何かが通り過ぎた。やや遅れて――からんからん、と乾いた金属音が響く。磯崎は左手から伸びた鎖の先を目で追う。宝條へと振るわれた二つの鉤爪は……そこには、無い。鎖は鋭い断面を残し、切断されていた。そしてその先にあったものが地面に転がっている。

 一瞬何が起こったのか、状況が理解できない磯崎。何かが飛来してきたその方向を見る。

 その先には――右手で魂装具を振り抜いたままの姿勢の真斗の姿。その手に握られた刀の刀身は黒く染まっていたが……蒸発するように黒い霧が湧くと、本来の白銀色へと戻った。

「……。君の仕業か? しかし今のは――」

 磯崎は何かを言おうとしたが、それを遮るように真斗はうつむき加減のまま、呟く。

「……ナナ」

「……はい。マスター」

 ナナがいつになく、静かに、だが力強い声で答える。そして――

「具現せしたる我が力――」

 ナナの声が響く。

 真斗の心に、どこからか自然と言葉が、そして色々な想いが、感情が浮かんでくる。それは魂の――叫び。

「主たる我が魂の叫びに応え――」

 真斗から虹色の光が揺らめきながら湧き上がる。

「彼の者の願い叶えんと――」

「其の戒め解き放ち――」

 ナナと真斗は続ける。そして――

「――いま此処に、漆黒の怒りとなりて顕現せよ!」

 ナナと真斗の口から力ある言霊が発せられる!

 真斗の魂から湧き出したエーテルが手にした魂装具を包み込み、光を放つ!

 そして――

 手に握られるは空気をも闇色に染める漆黒の刀。刃から湧き出す黒いオーラが宵闇を飲み込み、深淵へと誘う。

「なんだと……!?」

 磯崎が驚愕する。

「……ま……真斗……くん……」

 意識を取り戻した怜奈が、うっすらと目を開ける。

「怜奈先輩! 良かった……」

 近づくと真斗は怜奈を抱き起し、壁にもたれかかるように座らせた。相当なダメージを負っている為、まだ立ち上がることはできないようだが、S.N.Sの強化回復がある。安静にしていればなんとか大丈夫だろう。

「真斗くん……無理……しないで。あなただけでも逃げ――」

 真斗はゆっくり首を振り、そしてほほ笑む。

「大丈夫です。後は、オレに任せてください。それに――約束したじゃないですか。必ず二人で小早川教授の無念を晴らすって」

「…………」

 しばしの間。そして怜奈は黙って頷く。はらり、と目から一筋、熱いものが頬を伝う。

 …………

「磯崎……お前だけは……許さない!」

 刃の動きに合わせて闇色のオーラが軌跡を描く。磯崎を見据え、真斗は魂装具を構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★★★小説家になろう 勝手にランキング★★★
『小説家になろう 勝手にランキング』に参加しております。
ワンクリックで投票完了します。よろしくお願いいたします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ