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ソウル・シャウト・ジェネレーション  作者: ますたか きょうたろう
第五章
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【5】嘘と真実(2)

「しかし、結局小早川の死体は出なかったな。まさかそこまで燃え尽きてしまうとは、さすがに私も予想していなかったよ」

「許さない……あなたも……U-TOPIAも!」

 まるで思い出話でも語るかのような磯崎に肩を震わせる怜奈。その手の中で感情に呼応するかのように虹色の光が激しく輝く。怜奈はそれを強く握りしめ、瞬時に魂装具を具現する。

「くっ……くっくっく、くははははは……!」

「何がおかしい!」

 突如笑い始めた磯崎に真斗が怒鳴る。

「いや……失敬。まさかその娘からそんな言葉が聞けるとは思わなかったものでね。実の父も私と同じU-TOPIAのメンバーの一人だったというのに」

「な……!? 何を! 馬鹿なこと言わないで! 父がそんなはずない!」

 磯崎の口から飛び出したその衝撃的な内容に、怜奈が悲鳴に近い声を上げる。

「だったら何故、君の父は『21』に関わる研究をしていたと思うのかね?」

「……っ」

 その言葉に怜奈は口をつぐんでしまう。

「……まあいい。餞別代りに教えてやろう。小早川が救った少女……全てはそこからだ。その治療法、それこそが『21』の基礎理論となったものだ。即ち――魂からの記憶の再生。小早川は少女の魂に大量のエーテルを供給することにより、その失われた記憶を呼び戻し、再構築することを成し得たのだ」

「な――」

 思わぬ事実に驚愕しながらも――その話題にどうしても真斗の脳裏には澪の顔がよぎる。しかし、意識的にすぐにそれを頭から追い出す。今は――それに気を奪われている時ではない。

「その後、ある者の主導の元、世間には極秘裏にU-TOPIAは結成され、その研究の末に『21』は誕生した。自身もホルダーとなった小早川は組織の指示の元、『21』の機能を拡張すべく吸収増幅機構の開発に着手、そして成功した――しかし、ここで小早川はU-TOPIAの、そして『21』の真の目的を知ることになる。記憶障害の治療を目的として開発を続けていた奴にとって、それは到底容認できるものではなかったのだろう」

 例えU-TOPIAメンバーでも父は正しい目的で研究をしていた――その事実に怜奈は救いを感じずにはいられない。

「U-TOPIAメンバーは現実世界で互いの顔や素性を知る者は少ない。そんな中たまたま見知った仲だった私に、小早川はその苦悩を打ち明けてきたのだ……」

 人は――心は重い悩みをいつまでも一人で抱えていられるほどに強くはできていない。だからこそ人は誰かを求める。そうやって生きている。小早川教授は、きっとそれなりに磯崎を信頼していたのだろう――真斗はそう感じた。

「吸収増幅機構は応用性が高い。例えば『21』に組み込めば、ほぼ永久的に魂から魂装具へのエーテル供給が可能にもなる。その力の強大さは君たちにもよくわかるだろう。だから……私は提案したのだ。その力を以って二人でU-TOPIAを裏切り、『21』の全てを手に入れよう、とな」

 自慢話でもするかのように――磯崎はにやりと笑った。

「しかし……小早川はそれをも拒んだ。更には吸収増幅機構の破棄――廃棄処分までほのめかし始めた。それは実に愚かな決断だ。だから――私はその前に吸収増幅機構を手に入れることにしたのだ!」

「それで四年前、お前は小早川先生を襲ったのか!」

 宝條が強い語調で磯崎を糾弾する。

「……あの日、奴の持つ記録水晶を手に入れ全ては思惑通りに終わるはずだった。しかし……まさか吸収増幅機構へのアクセスコードを三枚の記録水晶に分けて記録していたとはな……大きな誤算だったよ――だが……! 袴田!」

 次の瞬間――響子の背後、空調の室外機の陰から高く空へと躍り出る一人の男の姿! ……袴田だ! その右手に握られたレイピアが月光を浴び闇に輝く。そして跳躍が頂点に達すると突きを構え……一気に響子の背に向かって降下する!

「!」

 気配を察知し、振り向く響子! 左足を引き、身を反転させ一撃を躱すが――さらに背後から磯崎が響子の頭めがけて鋭い蹴りを放つ!

「ち……!」

 反応した響子はとっさに右腕を立て、これをガードするも……その衝撃に右手から記録水晶がこぼれ高く宙に舞う!

「!! ……早く記録水晶を!」

 宝條が叫び、走り出そうとするが……宙に舞う記録水晶を袴田がレイピアの『面』で打ち払い、さらに高く舞い上げる! それを追うように磯崎が高く飛び……その手に記録水晶を収めると、そのまま一回転し、貯水タンクの上に着地した。

 ゆっくりと振り返り、真斗たちを見下ろす磯崎。その右手には三枚の記録水晶。磯崎は左手でズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、そして――記録水晶をそれにかざす。

「さあ……これで吸収増幅機構の力は私のものとなる……!!」

 三枚の記録水晶が虹色に染まり鈍く輝く。そして磯崎の端末へとその光の粒子が吸い込まれていく!

「神崎……いや、小早川怜奈! 礼を言うぞ。全てお前のおかげだ……! ふはははははは……!!」

 貯水タンクの上で高笑いをする磯崎。宝條が叫ぶ。

「くっ……吸収増幅機構のインストール完了までにはまだ時間がかかるはずだ! 神崎、夜霧! 今のうちにケリをつけるぞ……! 響子! そっちは任せる!」

 響子の前には袴田が立ち塞がり、怒りの形相で響子を睨みつけている。

「如月響子……! 貴様……俺を騙してたのか! 俺の力になりたいと言ったのは……俺に好意を抱いた素振りは……全て嘘だったのかっ!」

「……そうよ。でもね、惚れただなんてあたしは一言も言ってないし。それはそっちが勝手に思い込んで舞い上がった事でしょ? にしても――ほんとキモいわね、アンタ」

「なっ……きっ……貴様ぁー!」

 袴田が怒りに任せ魂装具を振るう。響子は華麗にこれを躱し――ビルの外へ、大きく飛ぶ。

「茜、こっちは任せて! こいつ少し、しつこい男みたいだし。ストーカーになる前に解決しとかなきゃなんないみたい!」

 それを追う袴田と共に、響子は夜の闇へと消えていった。

2016/12/24:一部表現を変更。

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