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ソウル・シャウト・ジェネレーション  作者: ますたか きょうたろう
第四章
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【5】ブリーフィング

「ふむ……そうか……」

 響子と袴田の襲撃、そして宝條の事について一通りの説明を聞いた磯崎教授は唸るように呟いた。

 磯崎研究棟の一室。真斗らと教授の四人は先日と同じように小テーブルを囲み座っていた。

「それにしても……怜奈が魂装具の能力を解放するほどの相手とはね」

 雅美が先ほどの事を思い返すように言う。

「あ、それなんですけど……あれって一体何なんですか?」

 真斗は先ほど怜奈の魂装具を見たときから気になっていた事を訊ねる。

「それはね……と、こういうことはエフ先生にご教授願ったほうがいいんじゃないかしら? ……ビリーもたまにはしゃべればいいのにねえ」

 雅美はそう言いながらビリーの顔を見る。当のビリーはというと笑顔でエフのほうに向かって、どうぞどうぞと手のひらを差し出す。その様子にエフは苦笑する。

「エフって物知りだし、説明もわかりやすいよねー」

 一方、ナナは目をきらきらさせてエフの話を今か今かと待ち望んだ様子だ。

「いや……お前の仕事だからな、本来」

 真斗はナナを横目でじっ、と見る。ナナはてへっ、と舌を出してごまかす。

「魂装具はマスター自身の魂からエーテルを供給することで能力を解放できるものがあるんだ。形が変わったり、特殊な能力が使えたり、な」

 エフの説明に、真斗は耳を傾ける。

「さっき見た通り、怜奈の魂装具は槍へと変化し、炎を操れるようになる。そして、あの響子というやつは風を使いこなすようだな」

「じゃあ……オレの魂装具の刀身が黒く染まって黒い衝撃波みたいなのが出たのも……」

「……恐らく、な。だがこれを自在に扱うにはホルダーの力量や、魂装具の熟練度も必要になってくる。真斗の場合、極限状態で一時的にその力が発揮されたんだろう」

 真斗はじっと自分の手を見る。あの力が……もっと自在に使いこなせれば怜奈先輩の力になれるはずだ……!

「すごーい。マスター! じゃあ頑張ってあれを使いこなせるようになろうよっ♪」

 そんな想いが伝染したのか、ナナは胸元で両手に拳をつくり真斗を見据えて言う。

「ああ。そうだな」

 真斗は強く頷いた。

 …………

「……なんにせよ、多少の怪我はあるものの、みんな大事に至らなくてよかった。それに記録水晶も奪われずに済んだ」

 教授が口を開く。

 確かに。と真斗は思う。かなり危うい場面はあったものの、怜奈を含めこれくらいで済んだのは幸いだったと言えるだろう。負った傷もS.N.Sの身体能力強化の恩恵で、既に回復し始めている。

「でも……もし、また響子ちゃん……ううん、彼女に襲われたら、正直言って記録水晶を守りきれる自信はないわ……」

 自分を狙う相手とはいえ、友人を急に呼び捨てにするのは憚られたのだろう、少し濁した表現に直して怜奈が言う。

「…………」

 怜奈の言葉に、一同は沈黙する。空気が急に重苦しくなる。

「……それなら……記録水晶を磯崎先生に預かってもらうというのは、どうかしら?」

 沈黙を破ったのは雅美だった。

「勿論、この一件が解決するまでの間だけど」

 はっ、と顔を上げた皆の視線を浴びながらそう付け加える。

「磯崎先生に!? それは先生が危険すぎるんじゃ……!」

 真斗は反論するが、教授はそれを手で制し、下を向きしばし考える。

「それはいい考えかもしれん。今後も君たちが狙われることに変わりはないが、少なくとも記録水晶を奪われることはなくなる。……それに、どのみち私は元々記録水晶を一枚所有しているんだ。なんらリスクに変わりはないよ」

 確かに……教授の言う通りだ。それに記録水晶を預けることで、戦闘になったとしても精神的負担は大分軽くなるだろう。真斗はそう思った。

「それにまさか、ホルダーでもない者が記録水晶を持っているともなかなか考えつかんだろう。おかげで臆病に生きてきたからこそ、私は今まで記録水晶を守り切れているのかもしれんな」

 磯崎教授はそう自嘲気味に言うと笑った。

「早乙女くん、ここに出入りしていることは――」

「ええ。その際はかなり周囲に注意を払っているので……多分大丈夫かと」

 磯崎教授と雅美が言葉を交わす。教授との繋がりをスコーピオン側に悟られていないかの確認だろう。

「どうするかね? 神崎くん。私はどちらでも構わないよ」

 怜奈はしばらく考えていたが――

「――はい。大変申し訳ないですが……お願いできますか」

 怜奈の言葉に、教授は黙って頷く。

 怜奈がストラップから記録水晶を外し、教授に手渡す。

「確かに。大切に預かろう」

 磯崎教授はそれを受け取ると、小さな布に包み内ポケットへとしまった。

 …………

 とうに日は落ち、外はすっかり暗くなっている。

「さて……実は仕事が溜まっていてね、私は今日はここで徹夜の予定なんだが……君たちはどうするのかね?」

 磯崎教授の言葉を受け、雅美が真斗と怜奈へ向き直る。

「今日のところは解散しましょうか。先生の護衛も兼ねて今夜はアタシも学校に残るわ」

「それなら二階の仮眠室を使ってくれて構わんよ。シャワーもあるし、生活できる程度の設備は一通り揃っている」

「ありがとうございます。じゃあ遠慮なく」

 雅美が言う。

「では……磯崎先生、マサミ先輩お願いします。じゃあ、私たちはこれで」

 そう言うと怜奈は立ち上がり一礼して部屋を後にする、真斗もそれに続く。

 ――と部屋から出ようとした真斗の耳元で雅美が囁く。

「……怜奈のこと頼んだわよ、真斗くん」

 真斗は雅美の目を見て……わずかに頷いた。

 …………

 真斗と怜奈は周囲を警戒しながら研究棟を後にする。そして特に会話もなく、正門へと向かって歩きだす。真斗はこれからどうするべきか必死に考える。このまま別れてしまって本当にいいのだろうか? 学校ですら安全でない今、独りになるのは危険だ。……しかし、じゃあどうすれば、いや……どうすればいいのかはわかる。二人で居ればいいのだ。問題は……そうすることを怜奈にどう言えばいいのか……真斗は答えを必死に探す。

 すっかり暗闇に包まれた学校の敷地内。無言で歩く二人を街灯が照らしだす。

 やがて――真斗が必死に知恵を絞るも気の利いた方法は思いつかぬまま、二人は正門へとたどり着く。

「あっ……あの、怜奈先輩!」

 勇気を振り絞った真斗は、怜奈のほうへと向き直る。

「ん? 何?」

「……あっ、いやその……」

 ――が、ごく自然な態度で怜奈に見つめ返され、真斗の勇気は一瞬で消滅した。

「……? まあいいわ。じゃあ、行きましょうか」

「へ? ……行くって、どこへ?」

 怜奈の急な提案に、真斗は間の抜けた声で返す。

「決まってるじゃない。あなたの家。学生寮よ」

「え……? ええぇぇーっ……!?」

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