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ソウル・シャウト・ジェネレーション  作者: ますたか きょうたろう
第二章
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【4】救世主

 路地裏の壁に寄り掛かるように地面に座り、一息つく。

「ファーストミッションコンプリート! ですね」

「……なんとか、な」

 笑顔で話しかける少女。安堵感も手伝って真斗も自然と笑みが漏れる。

「でも……なんでオレにあんな事ができたのか……」

 真斗は自分の右手を見つめる。先ほど振るった刀の一撃。あれは明らかに自分の力では不可能な芸当に思えたからだ。

「ああ。あれはですね、わたしがマスターに干渉した影響です」

「……?」

 少女の答えに、真斗は首を傾げる。

「正しく言うと……生物には身体に不要な負荷をかけないようにリミッターが掛けられていて、通常は身体能力を百パーセント発揮できないように調整されているんですが……」

 どこかで聞いたことがある話だ、と真斗は思う。

「S.N.Sには魂に干渉することで、リミッターを一時的に解除して、能力を最大限に引き出せるようにする機能が備わっているんです」

「なるほど……さっきのはそういうことか」

「それだけじゃありません。回収がしやすいように、通常の人間よりもエーテルを見えやすくもしているんですよ」

 えへん、と少女は得意げに胸を反らす。

 エーテルを自分の意志で回収しているわけではない真斗は、それを素直にありがたいと受け取っていいのか判断に困り、思わず苦笑する。しかし、結果的に真斗はそれに頼るしかない状況である。ここは素直に感謝しておくべきなのだろう。

「さて、それじゃあ帰るか。腹も減ったしな」

 そう言いつつ、真斗が立ち上がった。その時――

「おい」

 薄暗い路地の先から投げかけられた男の声。その声色に友好的な含みは感じられない。やがて、暗がりの中から声の主が徐々にその姿を現す。

「人の縄張りで狩りたぁ、随分いい度胸してるじゃねえか? なぁ?」

 鋭角に吊り上った黒いサングラスをかけた、如何にもガラの悪そうな男だ。

 威圧的な男の態度に、真斗は思わず後ずさりつつも――違和感を覚える。こいつ……今『狩り』って言った、それって、まさか……

 警戒を絶やさず、真斗はじっ、と男を見つめる。

「……ん? テメー見ない顔だな」

 灯りに乏しい環境のせいで、男も近づいてきてようやく真斗の顔が見えたようだ。サングラスをしているのでそれは尚更だろう。

 二メートルほどの距離にまで近づいてきたその男は、しばし真斗をじろじろと眺めた。まるで何かを品定めするような視線で、決していい気分はしない類のものだ。

 ひとしきり真斗を観察した男は、急にその口をにいっ、と歪めた。

「へっ……さっきの動きでもわかったが……テメーまだ新人だな?」

 男は先ほどの真斗のエーテル回収を見ていたらしい。それにも関わらずさして驚いた様子はない……ということはやはりこの男も……

「じゃあ知らねーと思うが、ここは俺の狩場なんだよ。今夜はテメーのおかげで貴重な獲物エーテルを取り損ねちまった……」

 男はゆっくりと真斗へ近づく。対して真斗は距離を取ろうと半歩後ずさる。

「でもなぁ……そいつは水に流してやる。なぜなら……」

 その間に男の右手から例の輝きが湧き出し、そして何かの形を成していく。

 そして――

「……テメーの魂で、補ってもらうからよ!」

 叫ぶと同時、男の右手に出現した大振りの鉈が真斗の喉元目がけ凶悪な輝きを放ちながら迫る!

「――!」 

 真斗は迫る一撃を左手に持っていた刀――魂装具――でなんとか受け止める! 刀は納めている状態なので、鉈の分厚い刃を鞘で受け止めていたが――破損はおろか、傷がついた様子もない。

「……ちっ!」

 防がれるとは思っていなかったのか、男が舌打ちをする。が、男はすかさず次の攻撃へと移る。

 受け止められた鉈を刀から離すと、その反動を活かし、今度は真斗の左側頭部目がけて、再び右からの一撃を放つ! 真斗は上体を反らしなんとかこれを躱すが、男は振りぬいた勢いに任せ右足を踏み込むと、真斗の顎を目がけ下から上へと刃を振りあげる!

 真斗は右に身を捻り、かろうじてこれを避ける。男の鉈が空を斬る音が耳元のすぐ横で響く。

「マスター! 攻撃! 攻撃してください!」

 胸元から少女の声が響くが、連続攻撃を躱すのに精一杯の真斗にそんな余裕はない。現に大きく体勢を崩し、次の攻撃に備える事すらできていない状況だ。

 当然、男はそんな真斗を見逃すはずもなく――次なる攻撃が真斗へ襲いかかる! 右手を引き一気に放たれたそれは、これまでの薙ぎ払いではなく、顔面を狙っての突きだ。

「――っ!」

 もう身を捻って躱すことはできない! 真斗は重力に身を任せ後ろに倒れ込む! 目の前を通り過ぎる凶刃の輝き。寸でのところで躱すことに成功したが……

「ぐうっ!」

 そのまま地面へ激しく身体を打ち付け、瞬間、衝撃が走る。左手に握っていた魂装具が音を立てて路地裏の隅へ転がった。

 痛みに耐え、なんとか上体を起こすも――真斗の視界に入ってきたのは既に次なる一撃を構えた男の姿。

「へっへっへっ……これで……終わりだなぁ!」

 男が真斗目がけて飛びかかる!

 だが尻餅をついた状態の真斗に成す術はない。

「マスター!!」

 少女の叫び声が響く。

 ――駄目だ! 真斗は両腕で頭を守るように抱え、目をぎゅっと強く閉じる!


 ――ぎいぃぃぃぃん!!


 …………

 闇夜の静寂を破る、鈍い衝撃音。

 それは金属と金属が激しく激突した際に放たれるそれのように真斗には思えた。

「……?」

 真斗はゆっくりと、目を開く。

 ……無事だ。なんともない。

 そして、ゆっくりと視線を上げる。

 そこには、真斗に背を向けて立つ一人の姿があった。暗くてよく見えないが、わずかに揺れる長い髪とそのシルエットから、女性のように見受けられる。

 その右手には地面に突き立てられた身の丈ほどはあろうかという長い棒が握られていた。それは鈍く金色の光沢を放っており、先端は膨らむようにカーブを描いている。その中央には猛禽類の瞳のような鋭いアーモンド型の大きな宝石が埋め込まれ、闇夜に紅く輝いていた。

 真斗はしばし呆然とその人物の背を見つめていたが、自分を襲った男の存在を思い出し周囲を見渡す。

 男は数メートル離れたところで、真斗の前に立つその人物に視線を向けていた。ここでようやく、真斗はこの人物が自分と男の間に割って入ったのだと理解する。

 守ってくれた……のか?

「なんだテメーは!」

 男がその人物に向かって叫ぶ。

「…………」

 しかしそれに対する返答はない。

「そのガキの仲間か!」

「…………」

 やはり返答はない。

 男は苛立ちの表情を見せ、姿勢を低く構える。

「チッ……気に入らねえ……なんだか知らねえが、邪魔しようってんなら……テメーから狩ってやるよ!」

 苛立ちが頂点に達した様子で、男が地面を蹴った。物凄い跳躍だ。真斗を襲った時とは比較にならないほどの速度で突っ込んでくる。

「……有財餓鬼うざいがき、ね」

 真斗には、その人物がぼそりと呟いたのがかすかに聞こえた。

 数メートルの距離を瞬く間に詰め、眉間目がけて迫りくる凶刃。

 しかし、その人物は右手のみで金色の棒を正面でプロペラのように勢いよく回転させ、その一撃を容易く弾く。

「ぐっ!?」

 男の顔が歪み、動揺の色を見せ……ることはなかった。

 次の瞬間、男は吹き飛んでいた。狭い路地裏の壁に勢いよく右、左、右とぶつかりながら吹き飛び――最後は突き当りの壁に激突して……どさり、とうつ伏せに落ちた。

 恐るべき早業。回転で攻撃を弾いた直後、この人物は男が反応するよりも速く回転を止め、さらに左から打ち払ったのだ。

 防御からの一瞬の反撃。それも片手のみで。

 真斗はあっけにとられたまま、その背を見つめ座り込んでいた。

 降りぬいた右手に握られていた金色の棒がかすかな虹色の光を残し霧散する。

 ゆっくりと右手をおろし、真斗へと振り向いたその顔は――真斗がよく知るものだった。

「れ……怜奈……先……輩……!?」

「あ、あれ……? もしかして……真斗くん?」

 真斗を暴漢から救い出した人物――神崎怜奈も少し間の抜けた声を上げた。どうやら自分が守ろうとしたのが誰であるのかまでは、わからぬままの行動だったらしい。

 意外な場所での意外な遭遇。しばし真斗と怜奈は、ぱちくりと目を瞬かせる。

「ちょっとぉ、怜奈? どうしたのよ? いきなり走り出したりして」

 さらに真斗の耳には意外な人物の声が響く。この声は……

 ほどなく独特の走りで姿を現したのは――やはり早乙女雅美、その人だった。

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