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名探偵・藤崎誠シリーズ

証拠隠滅

作者: さきら天悟
掲載日:2016/08/17

「もう、破滅だわ」


「どうしてくれるのよ」


「手荒なことしないって言ったのに」


女は髪を振り乱し、幾つもの言葉を男にぶつけた。

男はある一点を見つめ、やり過ごす。

でも、何か思案しているようにも見えた。


「もう、このホテルから出られないわ」


女は昨夜、男に呼び出された。

彼女の夫には緊急のオペが入ったと言い訳して。

女は、首元の痛みを和らげるように無意識に摩っていた。

だが、実際の痛みではなく、心の痛みだった。


「どうするのよッ」


女は泣き叫び、男にすがった。


「見つかったら、身の破滅よッ。

きっと殺されるわ」


男はサイドテーブルの置いたスマホを手に取った。

落ち着くためだった。

現代人にとって、スマホは体の一部と言っていい。


「グッグっても、答えなんかでないわよ」


男はハッとした。

何か見つけたようだ。

それはアドレスにある男の名前だった。

男は電話した。





「はい、藤崎ッ」

名探偵藤崎誠は珍しくイラッとしていた。

オリンピックのいい場面だった。

男子200M個人メドレー決勝。

日本の萩野が米フェルプスに挑んでいた。

最後の自由形、フェルプスがどんどん2位以下を離していく。

藤崎は渋い顔で言った。


「もう一度言ってくれッ」


電話の内容が頭に入っていなかった。


「そんなの簡単だ」


藤崎は即答した。

苛立ちで適当に答えを出したように。


「カッピングしろ」


藤崎は電話を切った。







次の日の夜。


彼女の夫は言った。


「マイケル、フェルプス?」


彼はニヤニヤして彼女に言った。


「そうなの、オペが終わって疲れちゃってね。

試しに、時間がちょっと開いたから行ってみたの」


彼女の首元にはフェルプスの肩と同じ、大きな丸い痣があった。


「痛くないの?」


夫が彼女に聞いた。


「うん、大丈夫。

吸われる時にちょっと痛いけど」


カッピングとは、手のひらサイズのタコツボのような器の空気を抜いて、

肌を吸わせる民間療法である。

血行を良くし、疲労を回復させるが、直径3~4センチの丸い跡が2週間程残る。


夫は妻に微笑みかけ、浴室に入って行った。


女はニヤリとした。


「証拠隠滅、成功ッ!

木の葉を隠すなら、森の中。

キスマークを隠すなら、カッピングね」


首元に手をあてた。

しかし、夫を裏切った心の痛みはまだ消えていなかった。

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