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名探偵・藤崎誠シリーズ

証拠隠滅

作者: さきら天悟

「もう、破滅だわ」


「どうしてくれるのよ」


「手荒なことしないって言ったのに」


女は髪を振り乱し、幾つもの言葉を男にぶつけた。

男はある一点を見つめ、やり過ごす。

でも、何か思案しているようにも見えた。


「もう、このホテルから出られないわ」


女は昨夜、男に呼び出された。

彼女の夫には緊急のオペが入ったと言い訳して。

女は、首元の痛みを和らげるように無意識に摩っていた。

だが、実際の痛みではなく、心の痛みだった。


「どうするのよッ」


女は泣き叫び、男にすがった。


「見つかったら、身の破滅よッ。

きっと殺されるわ」


男はサイドテーブルの置いたスマホを手に取った。

落ち着くためだった。

現代人にとって、スマホは体の一部と言っていい。


「グッグっても、答えなんかでないわよ」


男はハッとした。

何か見つけたようだ。

それはアドレスにある男の名前だった。

男は電話した。





「はい、藤崎ッ」

名探偵藤崎誠は珍しくイラッとしていた。

オリンピックのいい場面だった。

男子200M個人メドレー決勝。

日本の萩野が米フェルプスに挑んでいた。

最後の自由形、フェルプスがどんどん2位以下を離していく。

藤崎は渋い顔で言った。


「もう一度言ってくれッ」


電話の内容が頭に入っていなかった。


「そんなの簡単だ」


藤崎は即答した。

苛立ちで適当に答えを出したように。


「カッピングしろ」


藤崎は電話を切った。







次の日の夜。


彼女の夫は言った。


「マイケル、フェルプス?」


彼はニヤニヤして彼女に言った。


「そうなの、オペが終わって疲れちゃってね。

試しに、時間がちょっと開いたから行ってみたの」


彼女の首元にはフェルプスの肩と同じ、大きな丸い痣があった。


「痛くないの?」


夫が彼女に聞いた。


「うん、大丈夫。

吸われる時にちょっと痛いけど」


カッピングとは、手のひらサイズのタコツボのような器の空気を抜いて、

肌を吸わせる民間療法である。

血行を良くし、疲労を回復させるが、直径3~4センチの丸い跡が2週間程残る。


夫は妻に微笑みかけ、浴室に入って行った。


女はニヤリとした。


「証拠隠滅、成功ッ!

木の葉を隠すなら、森の中。

キスマークを隠すなら、カッピングね」


首元に手をあてた。

しかし、夫を裏切った心の痛みはまだ消えていなかった。

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