焔の獅子と氷の狼 Ⅲ (side:シルヴィア/ザイン)
前の話から1年以上経ってる……!!!Σ( ̄□ ̄;)
年明けに更新するつもりで…って、前も同じ事を言ってるし…orz
もう少し話をストックしてから投稿するつもりでしたが………平成最後の波に乗りたくなりましたwww
重なりあった試合開始の声と共に鳴ったゴングが耳に届くよりも早く、姿が残像を帯びる早さで、空気が震える程の衝撃と共に鈍い轟音を響かせ、互いに繰り出した蹴りがぶつかり合う。
『初撃からなんと言う激しさーーーーっ!』
『まさに、矜持のぶつかり合いだーーーーっ!!』
大興奮の解説の声、轟く歓声、そして鈍く、重く響く無数の打撃音に、知らず膝の上で握りしめた拳を労るように撫でる柔らかい感触にはっとして横を見ると、見事にドレスアップした夜君がじっと2人の戦いを見つめていた。
「男の半分は矜持で出来ている、なんて言うけど……何て言うか、こう見ると一種の病気だよねぇ。」
ベール越しに見えた、どこか呆れたような顔と声音に肩に入った力が僅かながら抜けた。
「男の半分は矜持、か……。上手いことを言うものだ。」
誰が言ったのかは解らないが、実に的を射た言葉だ。
「雄にとっては最早性、武人としては必要な物だと私は思うが、病だと言う夜君の気持ちも解るよ。」
苦笑しながら言うと、夜君は肩を竦めた。
『フォルティス選手のラッシュが止まらなーーーーい!』
『ザイン王がまさかの防戦一方だーー!!!』
『どうしたことか、個人戦での余裕さえ感じられた戦い方とは全く違ぁう!!!己の全てを以てザイン王を玉座から引き摺り落とそうと言うのかぁっーーー!!』
『フォルティス選手、嗤っている!!凶悪に、狂喜して嗤っているーー!!』
「まるで狂戦士みたい。」
苦く、苛立たしげに2人を見つめながらポツリと呟いた夜君の言葉は、今のフォルティス殿にピタリと当てはまる様に思えた。
◇
「どうして、このような事になったっ!?お前ほどの男が何故邪法等に手を出した!」
連撃を防ぎながら叫ぶ様に問いかければ、更に連撃の速度を上げながら、フォルティスは苦々しく顔を歪めて呵呵と嗤った。
「はっ、簡単な話よ!某が慢心し、お主を見縊ったが故に負け、それを受け入れ切れなかった結果よっ!」
死角から飛んできた鋭い爪は、掠めた鬣を、巻き込まれた空気を凍てつかせて空を切った。
『ここでフォルティス選手、グラキエスの代名詞でもある氷爪を繰り出したぁ!!ザイン王、これで防御することも叶わなくなったぞーー!!』
「某は自らが王になることを一片も疑わなかった!お主にシルヴィア殿を得るために出場すると聞いた時さえ、互いの健闘を祈ると口にしながら、お主に対して申し訳ないとさえ思っていたっ!なんたる傲慢、なんたる過信!!愚かすぎて笑えもせぬわ!」
芝居がかった様子で嗤いながら叫ぶフォルティスは、自らを嘲りながら、掻き消えそうになる自我を必死に繋ぎ止めている様だった。
「お主が獅子族の代表を勝ち取り、某の前に立ち塞がって尚、某はその驕りを改めることはなかった。故にお主に負け、故に愚かにも奴等の手を取った……故に、もう引き返せぬっ!」
鼻先を氷の爪が掠め、追うように一閃で生み出された無数の氷の礫が襲い来る。
「っく……!」
『ザイン王かわしきれなーーーいっ!!!』
『氷爪の恐ろしさは、この息を吐かせぬ爪と礫との連続攻撃っ!まさに"冷徹のグラキエス"の真骨頂を遺憾無く発揮していると言えるでしょう!!』
「某がけっして赦されぬ罪を犯したは事実、断罪されるは道理!されど、ただで倒れるつもりは、元より無いっ!!」
「…………後悔は……」
振り下ろされた爪を飛び退いて避け、距離を取って問う。
「……願わくば、自らの力のみでこの高みへと登り詰めたかった…」
フォルティスは自嘲に口許を歪ませるも、その奥には獣人としての歓喜と呪術によって引きずり出された狂気が覗く。
「しかし、だがしかしっ!この命を差し出そうとも、全力のお主と闘えるなら、我が人生に一片の悔いは無しっ!|」
「そうか……ならばよい。」
息を吐き、真正面からフォルティスを見遣って…にやりと不敵に笑ってやった。
「だが、易々と全てを手放せるとは思わぬ事だ。最強を超えた勇者様がお怒りだ。」
「勇者か…」
示し合わせた様に2人同時に貴賓席を見上げる。
「…………………あぁ、あれは……恐ろしいな。」
「死神など、容易く追い払うだろう。」
「違いない。」
「「…………………。」」
「くくく…」
「ははっ…」
「「あっはははははは!!!」」
『んん?なんだ?ザイン王、フォルティス選手、共に笑っているぞ??!!』
困惑する会場を尻目に、声を上げて笑った。罪も、苦悩も、この身に背負った重責も…全てこの場ではもうどうでも良い。
貴賓席を見上げれば、安堵した顔をするシルヴィアとベールに隠されていても解る程に不機嫌そうな夜宵が見えた。
「このような極限にあっても、斯様に笑えるとは……」
フォルティスの周囲をより一層冷たい冷気が漂い、空気を凍てつかせて出来た氷の細かな欠片がチラチラと光を弾く。
「勇者には感謝せねばならぬ。」
「そう思うなら死ぬ気で生き残れ。手加減は出来んぞ。」
己が全身を駆け巡る焔に身を委ねると鬣がゴゥっと音を立て、白を超えて蒼い焔へと変わるのを視界の端に捉えた。
「無茶を言う。」
口でそう言いながらも、少年の様に楽しげにフォルティスは笑う。恐らく……私の顔も大差ないだろう。
どちらともなく細く息を吐いて地を蹴った。
◇
目の前で戦う2人は、戦士としての矜持と意地を賭け、持てる全てで抱えた苦悩も、背負う重責も、全てを振り払うように力を奮っている。その姿は、獣人の理想と現実を体現しているかの様だった。
「〜……〜〜♪、〜〜〜、〜〜♪」
隣から微かに漏れた歌声に視線を向けると、夜くんが顔をしかめながら歌っていた。私の視線に気づいたのか、苦笑いを私に向ける。
「もう少しだけ、時間をあげたいからね……。」
歌を媒体にするのは聖属性の魔術か魔法だと聞くが、恐らくはフォルティス殿の呪いの完成を遅延させる何かなのだろう。頭を下げると、再び苦笑した夜くんは、それ以上は何も言わず舞台へと視線を戻した。
「しっかし……すっかりザイン様まで楽しんでるねぇ。」
「仕方がないさ。戦いになれば高揚せずには居られない……あれは獣人の性だよ。」
「むぅ…」
夜くんは嫌と言うほどそれを理解しているのだろう、僅かに唸って嘆息した。
「それに……もう2度とこんな機会は無いだろうから…」
罪が白日の元に晒されれば、2度と親友として並び立つ事は叶わなくなる。正真正銘、これが最後。
お互いにそれが解ってるからこそ、旦那様もフォルティス殿も持てる全ての力で拳を奮い、夜くんも少しでも保たせようと苦心してくれている。
『おっとぉ?どうしたことだぁ!!!激しい拳の応酬を続けていた両者が動きを止めたぁー!!!!』
どれ程経っただろう…短くも長くも感じた激しい攻防の末、両者は距離を取って動きを止めた。
荒れる呼吸を僅かに整えた2人から、今日1番の冷気が、熱気が吹き上がり、会場中が固唾を飲んで決着の時を見つめる。
「「オオォォオォォっ!!!!!」」
上がる2つの咆哮、爆発するような打撃音と猛烈な衝撃波、波状に吹き上がる様に舞った砂塵と観客の悲鳴のその中で………夜くんだけが目を反らすこと無く勝敗の結果を見詰めていた。
空気が弾けたかの様に風が止んで砂塵が晴れていく。闘技場の中心には、崩れ落ちたフォルティス殿を見下ろす旦那様が項垂れる様に立っていた。
誰もが口を開けず静寂が満ちた只中で…拳を握りしめ、空を振り仰いだ旦那様は、拳を天へと突き上げた。
『…………………け、決着だーーーーー!!!!!!』
爆発するような歓声が会場を揺るがした。




