閑話 パティシエと勇者欠乏症の魔王(said:秋冬)
「飯が出来たぞー…って、またか。」
「うん…また、だね。」
声を掛けながら入ってきたネイサンに苦笑しながら頷く。目の前には熊よろしく、部屋の中をウロウロする魔王と双子の小鬼。ここ数日で見慣れてきた光景だ。
夜宵ちゃんが単独でラウルスに向かってからまもなく2週間が経とうとしている。現在、僕達は貴族の別宅だったと言う一軒家を借りて生活をしている。と言うのもネイサンとオリヴァーが宿の部屋では作業が出来ない、と言ったからである。ネイサンは広めの調理場…特にオーブンと冷蔵庫が、オリヴァーは図面を描くための広い机や資料が必要だったためだ。この辺りをヴォルフさんに相談したら、商人ギルドに話を通してこの家を紹介してくれた。別宅とは言え部屋数も多く、最新の魔導式オーブンや冷蔵庫、お風呂やトイレもあった。家具や魔導具も込みで売りに出されているらしく、書庫に大量の本まであって僕達的には大満足…だけど、ルーくんは"心配ない、必要経費だ。"と言うだけで家賃をけして教えてくれなかった…………金額聞くの恐い。
で、夜宵ちゃんから連絡が来たのはラウルスに発った翌日の事。
"厄介事を片付けなきゃいけなくなったから、最低でも2週間半は帰れそうにない"とのこと。詳しい事は解らないけど、今後の計画にはどうしても必要なんだって。
その連絡を受けたすぐ後、ルーくんはこの家を借りる手続きを済ませ、小鬼くん達を連れてダンジョン攻略に出掛けて行った。ルーくんが居ない間、商人ギルドのすっごい人や予約の出来ないとんでもない職人さんとか…とにかく、どうやって頼んだらそんな人達が喜んで来るの?って感じの人達が出入りして、ネイサンとオリヴァー達と道具や材料の相談してた。最初は恐縮してたんだけど、王様までふらっと来ちゃって…まぁ、ぶっちゃけ慣れたよね。
で、ルーくん達は1週間半位で帰って来た。
僕は入ったことは無いけど、普通ダンジョン…それも上級ダンジョンとなると1つ攻略するには早くても2ヶ月半はかかるらしい。しかも、Bクラス以上の冒険者が10人位で挑んで完全攻略出来る確率は4割を割るらしい。
夜宵ちゃんやルーくんは勿論だけど、小鬼くん達も結構な規格外………うん、深く考えるのは止めよう。
で……話はここからなんだけど、帰ってきてからルーくん達はどうにも落ち着かない。僕と一緒にネイサンやオリヴァーを手伝ってくれる時は普通なんだけど、暇な時間が出来るとソワソワ、ウロウロ…。見かねてどうしたのか訊ねたら、返って来た言葉が……
"夜宵分が足りない"
いや、小鬼くん達が夜宵ちゃんから離れて寂しがるのは解るんだけどね?ルーくんのそれは、最早欠乏症と言うか禁断症状に近いものでは?とりあえず…心配して損をした、とネイサン、オリヴァーと脱力した。
後から聞いた話だけど、夜宵ちゃん…通信を暫く切った状態にしてるらしくて、そのせいもあって落ち着かないんだって。
「はぁ…本当に仕方がないやつだな。」
溜め息を吐いたネイサンは、一度部屋から出て戻ってきた時には小さな籠を手にぶら下げていた。籠の中には色とりどりのマカロンが入っていた。
そういえば、この間カカオの実サイズだけどアーモンドを見つけたって言ってたっけ。
ネイサンは僕の手にマカロンを1個乗っけると、大股にルーくん達に近付き、問答無用でその口にマカロンを突っ込んだ。
「「「……………。」」」
「落ち着いたか?」
ルーくんと小鬼くん達は無言でもぐもぐしながら頷いた。ネイサンは、職人さんと細かい打ち合わせをすることが増えてから急激にこちらの言葉が上手くなって、今ではルーくん達とも滑らかに話せるようになった。
「飯が出来たぞ、食ったら菓子作り手伝え。嬢ちゃんが喜ぶぞ。」
こっくりと頷いたルーくん達を連れていく様は、ハーメルンの笛吹みたいでちょっと笑える。ネイサンは、なんと言うか…面倒見が良いと言うか、結構世話焼きだ。すっかり僕達の生活リズムはネイサンに管理されている。
「あ、美味しい。」
ルーくん達の後を歩きながら口に放り込んだマカロンはさっくりと軽く、程よい甘さとベリー系だろうか?酸味がマッチしていてとても美味しかった。
「秋冬、お前も手伝ってくれ。」
「うん?」
振り返ったネイサンに首を傾げて見せる。
「お前が1番嬢ちゃんの好みを知ってるだろう?」
「あー…まぁ、そうだね。じゃあさ…」
こうしてまた、この世界で初めての充実した、穏やかな1日が過ぎて行く。
夜宵ちゃん……ルーくんの禁断症状が今より酷くなる前に、早く帰ってきてねぇ……。
ネイサンさんが調教師にクラスチェンジしましたww
夜宵分が足りない…で、某4コマ漫画を思い出した人は挙手!




