勇者、説得を試みました。
「あれって…」
『彼等の子じゃ…』
彼等の周りには、強固な結界が張られていた。嘆き悲しみ、憤怒する彼等が凶行に及ばぬ様に…そして、彼等の嘆きに引き寄せられた瘴気の侵食を抑える為の様だったが、渦巻く瘴気によって砕け散るのは時間の問題の様に見えた。
「…良くない、わねぇ…あれじゃ、魔獣になる前にぃ…子供達がアンデットになっちゃうわぁ…。」
神獣、聖獣達は長い時を生きるせいか出生率が低い。だから、群れ全体で子育てをする。きっと群れと、ここに居る全ての者で見守ってきた命のはず…瘴気を呼び込んでるのは両親だけじゃない…だからこれ程に濃くなっているのだろう。
ぴしっ、と音を立てて結界にヒビが入る音に考えるよりも先に身体が動いた。周囲一帯への浄化と結界の強化を同時発動して、結界内に滑り込んだ。
突然の乱入者に2人は子供の身体を抱えて唸り声を上げた。獣の姿では子供を抱き締められない為に人化したのだろうが、腕や顔の半分等が力を制御しきれずに獣に戻ってしまっている。見たところ、どうやらフェンリルの一族の様だ。
「……私は、夜宵。」
結界ギリギリの所に膝を付いて、そっと声を掛ける。
『ヤ、ヨイ…』
『勇者、ノ…?』
警戒はしてるものの、反応を返してくれたことに内心ほっとする。
「うん、元…だけど。」
『何ヲ、シニ来タ…』
「……………あなた達の、子供を…私に助けさせて。」
『…助ケル?助ケルダト?!』
男性のフェンリルがぶわりと毛を逆立てて怒りを露にする。
『我ガ子達ハ既ニ命ヲ落トシタ!モウ戻ラナイッ!!』
「このままじゃアンデットになっちゃう!」
叫び返すと彼はくしゃりと顔を歪ませた。
「瘴気を引き寄せてるのには気付いているんでしょう?」
『理解ッテル…理解ッテル、ケド…私達ニハ止メラレナイノッ!!』
女性がぼろぼろと涙を零しながら、ぎゅうっと腕の中の亡骸を抱き締める。奪われた痛みを、悲しみを、怒りを…真に忘れられる者など居ないだろう。そう思うと、胸が痛んだ。
「…私達なら、子供を助けてあげられるわ…。」
するっと私の肩から降りたユトゥルナ様が優しく、囁く様にしっかりとした声で言い、傍近くまで這っていってその姿を美しい女性へと変える。
『精霊…?』
「私は、水の…ユトゥルナ。」
ユトゥルナ様は女性の頬を優しく撫でてから子供の身体に触れた。
「……属性は…火ね、私では相性が悪いけど…」
ユトゥルナ様が私を振り返る。私は頷き、傍に寄って女性の前に膝を付いた。
「私なら…」
『何ガ、出来ルト…』
「私、生き返る時に神様にお願いして…半分は竜族だけど、半分は精霊になったの。私は……陽光の精霊竜。」
『陽光…ノ…』
女性は涙で濡れた瞳で私を呆然と見つめた。
「私に、この子達を助けさせて。魂はまだ離れてない…この子達の魂ごと眷属精霊に出来る。」
『……生キ、返ル…ノカ…?』
「産まれ直す、が正しいけど…あまり、時間はないよ。」
ゆるゆると男性の姿が人へと戻っていき、私とユトゥルナ様にすがる様に膝を付いた。
『コノ子達ニ…モウ1度、会エルナラ…』
『オ願イシマスッ…!』
2人は揃って頭を下げた。それににわかに私は慌てた。
「お願いしてるのはこっちなんだからっ!」
頭を上げさせて、互いを抱き締め合う2人に少しだけ離れて貰ってユトゥルナ様と2人、子供達の前に立つ。
「こんなぶっつけ本番になる予定じゃなかったんだけどなぁ…」
「仕方がないわぁ…夜宵ちゃんはぁ、どうせ放って置けないでしょう…?」
口調がいつも通りに戻ったユトゥルナ様に微笑まれる。
「……それは、そうですけど。」
「だったらぁ…腹を括るしか無いじゃなぁい…?」
「解ってますよぅ。」
ふぅ…と息を吐き、気合いを入れて意識を集中させた。




