魔王、試練の夜。
「まったく…付き合ってられん…」
深くため息を吐きながら、私は部屋の扉を押し開けた。
◇
双子と異世界人の2人を宿に連れていき、手続きをしてから双子を寝かし付け、ギルドへ戻ると夜宵とギルドマスター、そして秋冬は酒場へ移動して酒を飲み始めていた。
「おかえり、ルー。ありがとね?」
「ん。」
ほんのりと頬を染めた夜宵は、へにゃっとした笑みを浮かべて私を労った。
夜宵は、秋冬がどうしていたのかを聞いていた最中だったらしく、夜宵は蜂蜜酒を、秋冬はエールをちびちびと飲みながら話していた。夜宵自身の話は、ここで話せる内容ではないので後日、と言うことになった。
───で…何故か目の前ではギルドマスターと秋冬の飲み競べが行われている。
「やっぱり飲める口だなぁ、そうじゃねぇかと思ったんだ。」
ギルドマスターがニヤリと笑う。
因みに、この男…酒場に来ると必ず誰かしらとこんなことをやっているらしく、今のところ無敗だそうだ。
「後悔しても知らないよ?僕、酔ったこと無いから。」
並々と注がれたエールの大ジョッキを空けて、秋冬はにっこりと笑う。夜宵が言うには、秋冬はザルを通り越して枠だからギルドマスターが勝つのは無理だろう、とのこと。よくは解らないが、とても強いのだろう。
大いに盛り上がっている様子を見ながら溜め息を吐いて隣を見ると、夜宵はうとうとし始めていた。体調も戻りきっていない所に酒が入ったせいだろう。
「夜宵、宿に戻るか?」
「ぅ~…」
小さく唸って、とろんとした瞳が見上げてくる。
「…っ…疲れて、いるだろう…?」
「ぅん…」
無防備なその表情に些か動揺しながら問うと、頷きはしたが再びうつらうつらと船を漕ぎ始める。小さく笑って、抱き上げるべく立ち上がった所で秋冬と目が合った。
「……………。」
「……………。」
暫し無言で視線を交わした後、再び並々と注がれたエールを一気に飲み干して秋冬は立ち上がった。
「お、何だ?降参か?」
「違うよ、ちょっと待ってて。」
そう断って、秋冬は此方に来た。
「夜宵ちゃん、寝ちゃったの?」
「あぁ、そうみたいだ。」
「そう……」
間近に立つと、私よりもいくらか秋冬の方が背が高い。
「ルーくん」
呼び名に難色を示したかったが、すぅっと細められた瞳に灯る、鋭利な光に喉元に刃を当てられるような錯覚を覚えて言葉を飲み込んだ。
「夜宵ちゃんは、僕にとって凄く…本当に凄く大事な子なんだ。だから…」
そっと耳元に囁かれた言葉は、不思議な畏怖を抱かせた。
「泣かせたら、許さないよ…?」
◇
「………………はぁ…」
夜宵を横抱きにしたまま部屋に入り、ベッドに夜宵を降ろす。
「……壁が…厚くなってる気がするのは、私だけか…?」
夜宵のブーツを脱がしながら呟く。
秋冬といい、精霊王といい…将来的にはシリウスやレオニスも、夜宵を取り巻く者は総じて夜宵を溺愛し過ぎている。そうして、彼等は夜宵を手に入れる為の厚い厚い壁になるだろう。
脱がしたブーツをベッドの脇に起き、ベッドに腰掛けてじっと夜宵を見下ろす。
上気した頬、僅かに開いた唇から覗く赤い舌と零れる吐息、無防備に曝された白い首筋、ほどけて乱れた長い髪…一房取って口付けると、太陽と花の香りがした。
「夜宵の、私に対する安心感を崩す方が…断然難しそうだがな。」
「……ん、…ぅ……」
苦笑しつつ、夜宵に上掛けを掛けて立ち上がりかけたところで夜宵が目を開けた。
「夜宵?」
夜宵はぼんやりとした瞳で小首をかしげ、手を伸ばしてきた。やんわりと髪をすくように頭を撫でながら小さく笑い、ちょんと鼻の頭にキスをして満足そうな顔をすると、再び眠ってしまった。
「…………。」
本当に、夜宵は無意識に私を煽る。片手で赤くなる顔を覆い、ベッドに突っ伏す。このままここに居て何もしないで居られる自信は無いので、早々に退散────出来なかった。
夜宵の手が、しっかりと私の服の裾を掴んでいた。
「…………夜宵が悪い。」
そう言い訳をし、さっさとブーツを脱ぐと夜宵の隣に滑り込む。
「長期戦は覚悟の上だが、あまり無防備にして…私に噛みつかれても、知らないぞ…夜宵。」
囁いて額に口付け、少し高めの体温と柔らかさを堪能しながら、私は一晩中桃色の欲望と理性を戦わせ続けた。
勿論、翌朝見事にギルドマスターを潰した秋冬に問答無用で笑顔のまま詰め寄られたのは言うまでもないが、夜宵は驚いた様子がなかった…やはり、この壁を崩すのは難題だ。
…バッサリ消して書き直しましたが、危うくルークスがヤンデレ一歩手前まで行きかけました。ふー…危ない、危ないww
ルークスは、気のながーーーい人ですが…結構色々妄想はしてるんじゃないかと思います(*´ー`*)
桃色の欲望は、皆様のご想像にお任せしますが…一晩中、何してたんでしょうね?www




