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勇者と魔王~2人で始める国創り~  作者: 黒猫庵
閑章 これまでの日常とこれからの日常
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黒の暴食来襲 中編(said:シリウス)

「で、どうした?それは。」


狼のギルドマスターさんが姉様を指して兄様に聞きました。


「火山麓の森で虫に会ってな…それからこの状態だ。」


姉様は兄様にお姫様抱っこされてその首に腕を回し、肩口に顔を埋めています。今居るのは、ギルド1階のホール…人がいっぱい居る場所で、姉様がこんな行動に出ることはまずあり得ないのですが、温泉から姉様はこの状態です。


「虫ぃ〜??」


ギルドマスターさんは眉間に皺を寄せて、ふと何かを思い出したように顎を手で擦りました。


「その虫は、黒光りする平たいやつか?」

「あぁ、体長は夜宵くらいで…」

「触覚の長い…動きのやたら早いやつ。」

「「それです。」」


ぼく達は声を合わせて答えた。


姉様の悲鳴を聞き駆けつけると、姉様は十数匹の虫に囲まれて錯乱状態に陥っており、複数の極大魔法を放ちそうになっていました。慌てて兄様がそれを止め、その間にぼく達が虫を倒しました。


「夜…ルキフィガか?」


ギルドマスターさんが声を潜めて問うと、姉様の身体が大きく跳ね上がって震えだしました。


「場所を変える。」


ギルドマスターさんは、一言そう言ってホールに面した2階の部屋に案内してくれました。商談等に使われる様子の部屋のソファーに向い合わせに座り(姉様は兄様の膝の上です)、さて…とギルドマスターさんは口を開きました。


「数はどの位居た。」


問われて兄様がぼく達を見ました。


「ぼくは7匹です。」

「ボクは8匹。」

「15匹か…骸はどうした?」

「夜宵が譫言の様に放置は駄目だと言うので、燃やして埋めてきたが。」

「よしよし、対処にはしっかり頭が回ったみたいだな。」


満足そうにギルドマスターさんは頷きました。


「夜宵は、あれが苦手…なのか?」


姉様にではなく、ギルドマスターさんに兄様が聞くと、ギルドマスターさんはため息を吐いて背もたれに凭れました。


「1年前…魔王軍との一戦より少し前な、ルキフィガが大量発生したことがあってな。」


ルキフィガ…単体でのランクD-のこの虫は、別名を《黒の暴食》と言い、10匹以上になるとランクがB+まで跳ね上がるそうで、1匹見たら周囲に最低500匹は居ると言われている。雑食で繁殖力がとてつもなく、かつてルキフィガの大群に国が滅ぼされた…と言う記録もあるそうです。その為、発見したら直ぐに掃討作戦が組まれるんだそうです。


そのルキフィガが大量発生したのは、魔王軍との一戦の為に姉様達がアエスタスに入り、交戦に備えて周囲を見るがてらギルドマスターさん達とクエストをこなしていた時だそうです。


「夜宵の世界にも…大きさはかなり小さいらしいが、似たような虫が居て、生理的に駄目なんだと。」


魔蟲ですらない、ただの虫が駄目だとか冗談だと思った、とギルドマスターさんは苦笑しながら言いました。


苦手なもの等無さそうな姉様が、卒倒しそうな位嫌がるものだがら皇子達も面白がって掃討戦に無理矢理連れて行ったんだそうです。


あの野郎共…ぼくとレオニス、兄様から静かな怒りの気配が発せられます。


「でな、作戦中に逃げ回ってた夜宵がはぐれてな…で、キレちまった。」

「「「キレた??」」」


ぼく達の声が綺麗にハモりました。


「あー…なんつーか、追い詰められ過ぎて恐怖を凌駕したんだろうな…今思い出しても寒気がする光景だった。」


キレてしまった姉様は、惜しみ無くその能力を使って総数五千を超えたルキフィガの、実にその9割程を1人で狩り尽くしたそうだ。


「そのお陰でルキフィガの素材が山ほど手に入って、その後の一戦に役に立ったがな。」

「……そうか。」


兄様は少し苦々しい顔をした。


「で、だ…お前達はあれを知っておくべきだと思うんだ。」

「「?」」


ぼく達は小首を傾げました。


「夜宵、今回のルキフィガは恐らく1年前に取り逃がしたやつだ。」


ピクリ、姉様が震えます。


「この1年、目撃報告は上がっていない。てぇことは、奴等相当に数を増やしてるはずだ。」


カタカタと更に震えだした姉様を見て、ギルドマスターさんを止めようとぼく達が腰を浮かすと、兄様が首を振って止めました。


「巣も1つや2つじゃすまねぇだろうから、卵もうじゃうじゃ在るだろうな。」

「……うじゃ、うじゃ…」


姉様が小さな声で呟きました。


「間もなく孵化期だ、更にうじゃうじゃ増える。」

「…うじゃうじゃ…うじゃうじゃ…」


いつの間にか姉様の身体の震えは止まり、ぶつぶつと呟きながらゆらりと上体を起こした瞬間、姉様の中で何かが切り替わったのをはっきりと感じました。


「どうする?夜宵。」

「………。」


姉様は兄様の膝から降りて、ゆっくりと立ち上がりました。


「……駆逐、する。」


柔らかい、慈愛に満ちた笑みを張り付け、静かで底冷えするような殺気を迸らせて姉様ははっきりと言いました。


「よしよし。」


ギルドマスターさんは満足気に頷くと大股で扉に向かい、扉を開け放って声を張り上げました。


「野郎共、緊急クエストだ!!」


ホールが一瞬で鎮まります。


「本日、ルキフィガ15体を確認!規模は、1万を超えると推測!討伐戦は、明朝開始する!」


鎮まったホールが、不安と興奮に次第にざわめき始めました。


「ギルド職員は各所に連絡、クエストに出てる奴等をできるだけ呼び戻せ!」

「「「はい!」」」

「Dクラス以下は、準備を整えて明朝まで待機!Cクラス以上は訓練所に集合しろ!」


ギルドマスターさんはそこで一度言葉を切り、更に声を張り上げました。


「先陣は、"狂嵐の戦姫"が務める!野郎共、心してかかれ!!!」


瞬間、爆発的な歓声が上がった。

前編後編で終わらせるつもりが…。


ルキフィガはラテン語で「光を厭うもの」…つまり、Gを指します。中二病全開(笑)な名前ですよねー。

因みに、黒猫庵は北の出身なので…いまいちGの怖さが解りません。

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