勇者、尻尾を見つけました。
スキンヘッドを引き摺って、尻尾を巻いて逃げていった男達を見送ってから、しんと静まり返ったギルドホールを振り返った。
「えーっと…お騒がせしました。」
ぺこり、と苦笑しながら頭を下げるとあちこちから歓声が上がった。囲まれる前に私達はそそくさとギルドを後にした。
「結局目立っちゃった…ごめんね。」
前を歩く3人に謝る…が、返事が帰ってこない。不思議に思って間近まで近付くと、八つ裂きとか火あぶりとか水攻めとか…最終的には存在ごと無かったことにする…とか…とっても良い黒い笑顔で物騒な話の結論は出たみたいなので…ナニモキカッタコトニシヨウ……
「ん?どうした、夜宵?」
「なんでもないよ?」
にっこりと笑みを返して隣に並ぶ。
「ともかく、宿に向かおうか。久々に柔らかいベッドに寝たいから…奮発して、良いとこ泊まろう?」
「そうだな、ゆっくり休みたいしな。」
「せっかく温泉にも行くんだしね。」
復活してから後、ずっと水浴びをして身体を綺麗にしてきたんだけど、冬が近いからそろそろ限界。この世界では、沸かしたお湯で布を濡らして身体を拭くだけで、王候貴族でもないと家にお風呂なんて無いのが一般的。
勿論、宿にもお風呂は付いていないし、そもそも庶民や冒険者には入浴の文化自体無いと言っても良い。
ただ、アエスタスは火山が近くにあり、街壁に隣接する森の奥、火山の麓に温泉がある。勇者だった頃に偶然見付けて物凄く喜んだのは私だけで、変な臭いのする湯に浸かるなんて…と言われた。因みに、ルークスは魔王城にだだっ広いお風呂が有ったらしく、入浴の習慣があったみたいで賛同してもらえたが、温泉は初めてだそうだ。
アエスタスに居る間は毎日温泉に通うつもりで居るので、中央広場に面した割りとお高い宿【金色の騎竜亭】を選んだ。ギルドにも近く、商業区、職人街にも接していて王城からも然程離れておらず、街の外に出るのも容易で、利便性はバッチリだ。値段はトリプルが1泊1800サール、シングルが1200サールで2泊で合計6000サール。4人部屋なら5200サールで済むので、そうしようとしたらルークスに怒られた。夜営で一緒なのと宿で同室なのとは違うと…どうやら、私の女子としての恥じらいは既に何処かへ行っていたみたいです…反省。結局トリプル1部屋とシングル1部屋を取ることにし、先払いした。
「さてさて、じゃあ屋台巡りと参りますか!」
部屋に荷物を置いて…といっても殆どイベントリの中だけど、服もちょっとオシャレな軽装に着替えて、街へ繰り出した。昼食は屋台巡りと決めていたので、宿である程度小銭に両替してもらった。
良い匂いに誘われて、THE屋台みたいなお肉の串焼きや焼きたてのパン、海産物の網焼きやソーセージ、瑞々しい果実等を4人で買って食べながら歩く。お腹は一杯になってきたが…甘いものが食べたい…。砂糖や蜂蜜は高価なので、庶民には手が出ない。貴族以上ならば口に出来るが…一度食べさせて貰ったそれは、砂糖の塊だった。私はあれをお菓子とは認めない!
「どうした、夜宵?」
「……美味しいお菓子、食べたい…」
それらしい店はやっぱりなくて、がっかりしているとルークスは慰めるように頭を撫でてくれた。
屋台巡りがてら、調味料等の不足気味になっている物が有るかを市場を回って確認し、今後必要な物を相談する。シリウスとレオニスの装備を揃えるつもりで居るので、吟味しつつも買うのは最終日に回すことにした。
色んなお店を冷やかし、陽が少し傾き始めた頃に少し早いが街を出て転移魔法で温泉へと向かった。
森の奥…と言うよりは山の中と言っても相違ない場所に在る温泉は、直径5m程で水深は浅く、川が側を流れているお陰で温度も少し熱い位でちょうど良い。手早く髪や身体を洗って温泉に浸かると、じんわりと染みる温かさに思わず吐息が零れた。
あ、勿論裸ではないですよ?ルークス達は腰布を巻いただけだけど、私はルシオラ様が用意してくれた水着みたいなのを着てる。ルシオラ様って…用意が良すぎるよなぁ。
途中でのぼせてしまったシリウスとレオニスを涼ませながら、たっぷり1時間程のんびりして街へと戻った。
「んー♪気持ちよかったぁ♪」
「子供らには少し熱かったみたいだがな。」
まだ頬が真っ赤な双子は、しかしにこにことしていた。
「大きいお風呂…気持ちよかった、です。」
「また入りたいです。」
「アエスタスに居る間は通おうねー。」
双子と繋いだ手をにぎにぎしながら笑い、夕食はどうしようか…と相談していた時だった。
すれ違った誰かの気配にチリチリとした感覚を覚えて、私は歩みを止めて振り返った。
「夜宵?」
「「姉様…?」」
3人に声を掛けられるも、私はじっと振り返った先を見ていた。
「ルー、悪いんだけど2人を連れて宿に戻っててもらっても良いかな。」
視線をはそのままで、ルークスに告げる。
「夜宵。」
「半刻経っても戻らなかったら先に食事をとって。」
「夜宵!」
強く呼ばれて視線をルークスへと向けた。酷く心配そうな様子で顔をしかめていた。
「…危ないことはしないよ。」
「当たり前だ。」
ぐっと眉間に更に皺が寄せて渋面を作るルークスに苦笑しつつ、不安そうな顔をしている双子の頭を撫でる。
「私だけの命じゃないわけだし、無茶はしない。」
「何かあったら…」
「連絡する。」
イヤーカフを指で弾いて笑う。
「ご飯が美味しいところは、宿のフロント嬢に聞いてみて。」
「…わかった、気をつけて。」
今一度、双子を撫でて私は駆け出した。
はい、MHSにド嵌まりして更新が疎かになりました!申し訳ありません!
アストルムでの話で一応1章を終わらせるつもりでいます。もう少しお付き合い願います。




