勇者、故郷を懐かしみました。
ルークスの瞳の色に関する記述を、トワイライトトパーズからアメトリンに変更しました。
作者の勘違いです( ̄ロ ̄lll)
現在、私達は双子が潜んでいたダンジョンに再び潜っていた。私が先頭、双子が真ん中で最後尾がルークスだ。
今はまだ入り口付近で、魔獣は居ない。
私は、歩きながら双子を振り返る。
雪の様な白髪で、前髪の右側の一房だけが黒いシリウスと、以前のルークスの様に夜の闇の様な黒髪で、シリウスとは逆の左側の一房だけが白いレオニス。
2人は瞳とシリウスが左、レオニスが右の額に生えた3本の角が綺麗なインディゴライト。
じっと見つめて、くるり向きを変えると後ろ向きで歩く。
「時間が惜しいから、ダンジョンを攻略しながら君達に色々と教えて行くね。」
「「は、い。」」
声は、やっぱり出していなかったせいか掠れている。
「で、まず君達にしてもらうことは、主に3つ。」
シリウスとレオニスに向かって指を3本立てて言う。
「いっぱい食べること、いっぱい寝ること、で基礎を身に付けること。以上です。」
ぽかんとした表情で見上げてくる双子を、ルークスが腰を折って後ろから覗き込む。
「思っている程容易くはないぞ。」
「基礎体力、基礎戦闘、基礎魔法、基礎知識、文字の読み書きに礼儀作法、基礎調理に基礎医学…基礎って言ってもかなりあるからね。」
2ヶ月でみっちり詰め込む予定だ。
「ただ、これだけ出来ればどこでも生きて行けるはずだよ。」
頭を撫でながら言うと、双子はどこかくすぐったそうな顔をする。そんな顔にそう遠くない記憶を掘り起こされて、ほんの少し苦い気持ちが胸に広がって苦笑した。
「「……?夜、宵…様…??」」
「なんでもないよ。」
不思議そうな顔をした双子をもう一度撫でて笑う。
「ん?」
「どうした?夜宵。」
「ミセリア様から通信だ…」
双子を撫でていた腕には、今腕輪が2本はまっている。
1本は、ルシオラ様専用。
もう1本は、王様達専用でシンプルな細身な腕輪だ。
細々と文字が彫られ、橙、黄、碧、紫の4つの魔石が埋め込まれているその腕輪の魔石の1つ、紫の魔石が淡く光っていた。指先でちょん、と魔石を撫でる。
「ミセリア様?」
『夜宵ですか?』
声が聞こえた途端、ミセリア様の背後から数名の歓声が上がった。どうやら、魔道具開発部が後ろに居るようだ。
因みに、魔道具は一般的に普及率がとても低い。
理由は、使う素材が希少で高額な物が多く、作れる技術者も極限られており、比較的大きくて持ち運びに不便だからだ。その為、王候貴族等の裕福な者以外はお目に掛かる機会は皆無と言っても良い。
唯一の例外はカエレスエィスである。
魔道具の殆どがカエレスエィスで開発されており、試作品を実際に試運転させているために、都市でしばしば魔道具を見かけることもある。
『本当に、こんな小さな指輪で…』
半信半疑だったらしいミセリア様の声は、驚きを含んでいた。
『夜宵、直ぐにでもこの構ぞ「ミセリア様、用件がそれなら切りますよ!」…すみません、つい…』
あ、今きっとミセリア様も魔道具開発部の人達も絶対ションボリしてる!
見たいな…今度は映像機能も付けようかな…。
『こほん…今日は、皇子達の動向を伺おう思いまして。』
「あー…ちょっと待ってくださいね。」
意識を集中させて霧の結界繋がると、気配を探る。
「んーと…あぁ、後2、3日で抜けそうですね。」
『2、3日ですか。』
「ただ、話せるようになるには少々時間が掛かるかも。」
『どういうことですか?』
ちらりとルークスを見遣る。
ルークスは、悪びれた様子もなく悪戯が成功した子供の様ににんまりと笑った。
「奴等の周囲にだけ、幻惑の魔法を掛けておいた。」
『そういうこと、ですか。』
ミセリア様は、納得したように呟いた。
幻惑の魔法は、幻覚を見せたり感覚をずらしたりと、主に精神に作用する魔法だ。
元々、霧の結界は幻惑作用もあるのだが、それに更に上乗せしたとなると、極限状態では精神に異常をきたすのは必至だろう。
「上手くすれば、更に1ヶ月延びるかも?」
『分かりました、他の王達にも伝えておきます。』
時間が増えるのは助かる、とミセリア様は言った。
「そちらの調査は進んでますか?」
『残念ながら、芳しくありませんね。』
国内に間諜が居ることは解ったが、その影を掴めないと言う。
「んー…内部に入った方法さえ解れば良いんですけど…」
『進展があったら報せますよ。』
それでは、と言って通信は切れた。
「間諜探しは難航しているようだな。」
「みたいだね。」
考えながら答えた。
案外、灯台もと暗し的なことなんじゃないかとは…思うんだけど、この件はもう少し動向を見守ろう。
「さて、脱線したけどそろそろ行こうか。」
今一度、双子の頭を撫でて歩きだす。
「私とルーから離れないようにね。」
「戦い方もしっかり観察するようにな。」
解らないことは聞くように、と後ろからルークスは言う。
意外と面倒見が良いのかな?まぁ、力だけで魔王になれた訳じゃないだろうし…魔王軍の士気が高かったのは、王としてのルークスの資質だろうなって思う。
「んじゃ、しゅっぱーつ。」
そうして、4人でのダンジョン攻略が始まった。
道すがら、ダンジョンの解説をしながら向かってくる魔獣を切り伏せ、素材の剥ぎ取り方などを教える。
双子の体力を考えながら休憩を入れ、奥へと進む。
ダンジョンは、初級が30階、中級が50階、上級が100階、この上に神級が存在しているが各々で階数が違い、構造も通常の物とはかなり異なる。恐らくは、封印された神の力の差なのだと思う。この他に遺産級と呼ばれる人工迷宮が存在していて、こちらも一筋縄ではいかないものだが…まぁ、この辺の解説は良いだろう。
「…っともうボス部屋、だけど…」
双子を振り返ると、今日の行軍は無理そうだ。
ボス部屋手前は、所謂セーフティゾーンなので今日はここで夜営するのが良さそうだ。
「大丈夫?」
「「は、はい…」」
ヘロヘロになってもちゃんと付いてこれた辺り、見込みはありそうなので、今日もしっかり食べてもらおう。
「ルー、私は食材をもう少し狩ってくる。」
「その間に、火を起こせば良いか?」
「うん、2人にもやり方を教えてあげて?」
「わかった。」
双子を一撫でし、セーフティゾーンを出て食用になる魔獣を狩りながらぐるりと49階を巡る。
狩った魔獣はその場で解体し、肉類は血抜きをしてイベントリへ素材になる部分と一緒に放り込む。
途中、隠し部屋を見つけたが中の気配だけ窺ってセーフティゾーンに戻ることにした。
「ただいまー」
「お帰り、夜宵。」
戻ると、丁度火が起こった所の様だった。
「よーし、ちゃっちゃと作るよー♪」
火を付けられた双子を誉めてやってから、調理に取り掛かる。今回のメニューは、塩とハーブを刷り込んだ豚肉をバナナの葉擬きで野菜と包んで蒸し焼きにしたものと、バケット、オニオンスープ擬きだ。
こちらの世界には無い物が有るので擬きなのは許してほしい。
双子はお腹一杯食べて、疲労のためか再び倒れるように眠ってしまった。上掛けをかけて少し離れる。
「ずっと、そんな顔をしているな。」
「ん?」
双子を眺めていたら、ルークスにそう言われた。
「双子を側に置くことにしてからずっと、どこか懐かしそうな顔をしている。」
「あぁ…うん、そうかも。」
肩を竦めて苦笑する。
「両親が孤児院を経営してたって言ったでしょう。」
「あぁ。」
私の両親は、養護施設を経営していた。
だから、物心ついた時には常に20人前後の子供が側に居て、それは賑やかなものだった。
両親は、私を施設の子供と区別せずに育てる方針だったので、小さい頃から大家族の感覚だった。
「子供が居るのが当たり前だったから…なんか、ね。」
「なるほどな。」
「召喚される直前は、最年長だったから余計にあの位の子供を見ると構いたくなっちゃうんだよね。」
養護施設だけあって、虐待や育児放棄で来る子も少なくなかったので、接し方も慣れたものだが。
そんな話をしていると、双子が跳ね起きた。
悲鳴は掠れていたが、見開いた瞳から涙が零れていた。
どうもこの2人は意識をある程度共有している様だ。
「シリウス?レオニス?どうしたの?」
「「あ、ぁ…ぅ……」」
声にならないのか、小さな呻き声が漏れる。
「こっちにおいで。」
手招きすると、素直に側まで来たのでぎゅっと抱き締めてやる。僅かに身を固くした双子の頭をよしよしと撫でると次第にしゃくりを上げ始め、やがて掠れた泣き声を上げてすがり付いてきた。
暫くして、泣き疲れて眠ってしまった2人の頭を膝に乗せて撫でていると、火を挟んで座っていたルークスが立ち上がった。
「ルー?」
「………。」
どことなくムスっとした様子のルークスは私の後ろに座ると、腰に手を回してこてんと頭を肩に預けてきた。
「ルー?ね、重いんだけど…」
何度呼び掛けてもルークス応えず、結局双子が起きる翌朝まで私はその体勢のままになった。
ルークスは、面倒見は良い方です。
魔王と言う立場は嫌がりながらも、軍の訓練などは自らしていたと思います。
ただ、夜宵が双子にかかりきりになるのは面白くないので、最後のは小さな嫉妬ですww




