勇者、第一領民を発見しました。
「いつ間に作ったんだ?あんなもの。」
「うん?…あぁ、指環?」
押し問答の末に押しきられて、再び腰抱き状態で転移し、魔王領の東側の海岸に戻ってきて早々、ルークスは私を離さないまま問うてきた。
いや、離してから聞いてください。
「着せかえ人形にされた後に、ルシオラ様に教えてもらったの。」
ルークスの胸をぐいぐい押すと、渋々と言った様子で離してくれた。
「無駄にならなくて良かった。」
「本気で…」
「疑ってたよ?」
霧の結界内に、皇子達の船がまだ在ることを確認しながら被せる様に答えた。
「うぅん…疑っていた、より…覚悟を決めてた、の方が正しいかな。」
「覚悟?」
海岸をゆっくりと歩きだすと、小首を傾げながらルークスが付いてくる。
「あのね、ルー。私…この世界が好きだよ。」
還ることは叶わないと聞いて哀しんだ。
築き上げた2年間が虚像だと知って絶望した…しかけた。
「だけど…私は、私の敵を徹底的に叩くって決めた。
だから………私はあの時、世界を滅ぼす覚悟を決めてた。」
髪を揺らす潮風を受けながらルークスを振り返った。
「王様達は、私が良心から世界を滅ぼすことを思い止まったと思ってるだろうけど…私は、もうそんなに優しくない。」
優しくは、居られない。
「出来るだけ、関係の無い人を巻き込みたくはないけど…必要なら、躊躇はしない。」
「……夜宵…」
「だけど、正直…ホッとしてる。」
困ったように笑ってルークスを見上げる。
「見て、聞いて、歩いた世界の全部が嘘じゃなくて…世界の全部を、嫌いにならなくて。」
くるりとルークスに背を向けて、またゆっくり歩きだす。
「指環はさ、私の信じたい気持ちだったんだと思うの。王様達が私の敵だったら…」
するりと伸びてきた長い腕に閉じ込められる。
「ちょ、ルー?」
「夜宵は、優しい。」
「…優しくないよ。」
眉根を寄せてルークスを見上げる。
「……優しかったら、ルシオラ様や精霊さん達を止めてる。」
昔の自分ならそうしてる。
今はまだ、冬の入り口だから良い…だけど、アルビオンの冬は歴史上最も厳しいものになるだろう。
冬を越えても、春に実りは無く、国が荒れ、魔獣が跋扈し…無数の命が失われることになる。
アルビオンの国民は私の復讐とは、何の関係もない…それでも、間接的に皇子達を苦しめられるなら見ぬふりをする。
「だが、それに胸を痛めてる。」
「……それでも、私は止まらない…止まれない。」
「そうか。」
ルークスは、優しい顔をして私を見下ろしている。
溜息を吐いて身体をルークスの胸に預ける。
「そもそもね、私の良心はルーなんだからね。」
「私が良心…?」
不思議そうな顔をしたルークスはちょっと可愛い。
「あそこでルーに会わなかったら、独りで皇子達の事を知ったら…私は迷わず破壊神にでもなってたと思うよ?」
ルークスが二つ返事で一緒に居ることを選んでくれたから、私は壊れずに済んでいる。
「だから、頼むよ?私の良心。」
「夜宵の心も、身体も…全ては私が守ろう。」
誓う、そう言って額に口付けられた。
ぶわっと、一気に顔が赤くなる。
「~~~~っ!」
茹で蛸の様になって、口をぱくぱくとしているとルークスがくつくつと笑い出す。
「っ!ルー!!」
「はははっ!」
笑いながらも緩めないルークスの腕から脱け出そうと、腕をバシバシ叩くと、ツボに入った様子の腕が緩んだ。
さっさと脱け出すと、蹲って笑い続けるルークスの背をやや本気でぽかぽか叩いた。
「いたっ、痛いっ…ふふ、済まない、っくくく!」
「全然誠意が感じられないっ!ルーの馬鹿!」
プイッとそっぽを向いて足早に街道を歩きだす。
暫くして、ルークスが追いかけて来た。
くそぅ、魔王(笑)め!
「それで、私のは無いのか?」
むくれながら睨むも、効果は無いようでルークスは楽しげな笑みを浮かべてる。
「……そう言うと思って作ってある。」
溜息を吐き、イベントリから取り出してルークスに見せた。
「これが、ルーと私の。」
「耳飾り…か?」
所謂イヤーカフと呼ばれるものである。
細かく緻密な模様を描く約1㎝程のリングタイプ。
1つは金色で太陽のチャームと朝焼け色の魔石が、1つは銀で月のチャームと黄昏色の魔石がぶら下がっている。
「オリハルコンとミスリルで作ってみた。」
そう言って金のイヤーカフをルークスに渡す。
「銀のではないのか?」
色的に言ったら銀…ミスリルのがチャームも魔石もルークス用、だがこれには意味がある。
「お互いを守るって意味で、色を交換。」
後は、金も太陽も象徴するのは男性で、銀と月は女性を象徴するものなのだが、こちらの世界にはそう言った意味はないらしい。
「…………。」
「……気に、入らなかった…?」
じいっと手の中のイヤーカフを見つめるルークスにやや不安になって聞くと、ルーは身を屈めて来た。
「着けてくれ。」
「……ルーは…時々、すごく甘えるよね。」
「嫌か?」
「嫌じゃないよ、可愛いし。」
そう言いながら耳に着けると、可愛いは余計だとルークスに言われた。可愛いのに…。
「私も着けて良いか?」
「ん?構わないけど。」
ルークスは私の手からイヤーカフを取って耳に着けると、満足そうな顔をした。
それに苦笑しながら、再び歩きだす。
「王様達のとは違って、転送機能は付いてないからね。」
歩きながら機能の説明を始める。
「その代わり、お互いの位置はより強く感じるようになってるよ。」
勿論、マップにもマーカーが表示される仕様だ。
これによって、知らない場所に居たとしても転移魔法で転移してこれる様になっている。
「いずれ戦争にでもなるだろうから、その時用だね。」
「確かに、そうだろうな。」
今は、離れて行動する必要も無いから必要じゃない。
「通信機能も付けたけど、視界に入らない位の距離になったら自動的に繋がる様にしたよ。手動でも繋がるけどね。」
「それも、使う機会が少なそうだな。」
「まぁね。あ、一応耳から外せば通信機能は切れるからね。」
聞かれたくない、聞かせたくない会話も無いとは言えないからね!
男同士の話とか、女同士の話とかね。
「後は…肌身離さず、じゃなくて肌身離れず、にしといた。」
「肌身、離れず…?」
「うん、手から離れて一定時間が経つと手に戻るようになってる。」
これも、強いて言えば保険のような機能だ。
「ふむ、便利だな。」
「どれも、直ぐには必要ないけどね。」
2人で笑い合う。
「何気なく街道を歩いているが、どこに行くか決めてるのか?」
「とりあえず、街道に沿ってダンジョンを攻略しながら砦とか街の様子を見に行こうかと思うんだ。」
「……街か。」
魔王領にも街は存在する。
また、防衛の為の砦もほぼ街に付随しており、殆どが街道沿いに在る。
「生き残ってる可能性は有るけど…」
「死霊になっている可能性も高いか。」
主戦力は他ならぬ私が殲滅してしまった。皇子達は腐っても実力者だ…残った戦力では敵わないだろう。
そして、あの皇子達が通り道に有る街や砦を蹂躙しないはずもない…。
「最悪、そうなってたら浄化しないとだし…」
「そうだな…」
思案顔のルークスを見上げる。
魔族は情が薄いと聞くが、ルークスを見る限りそうは見えない。
心配が顔に出ていたのか、目が合うと微笑まれた。
「覚悟はしている、大丈夫だ。行こう。」
「うん。」
考えても仕方がない。
そう割りきって私達は歩き出した。
◇
結果から言うと、私達はまともな領民とは遇うことが出来なかった。
2週間程かけてダンジョンを攻略しながら3つ程の街を回ったが、その全てが破壊され、蹂躙され、弄ばれていた。
死霊化も勿論していたが、何よりも正気を失って魔人から魔獣へと堕とされて居る数が圧倒的に多かった。
こうなると、命を奪う他無いのだが…
「何とか出来ないかなぁ…」
ダンジョンの入り口を潜りながら呟く。
「しかし、あぁなってしまうと…」
「でも、身体は死霊化してないし魂もまだ…」
まだ身体も魂もそこに在った。
何とかして元に戻すことは出来ないか…そう思ってしまい、彼等の命を奪えずにいた。
「んー…ルシオラ様に聞いてみようか。」
「それで駄目なら、諦めるしかないな…。」
話に区切りがついた所で僅かな気配を感じた。
咄嗟に戦闘体勢に入るが、気配は一向に動かない。
「………弱い…」
ルークスが呟く。
現在居るダンジョンは、中級ダンジョンだ。
浅層とは言え、この気配は弱すぎる。
「んー?」
首を傾げながら臨戦体勢を解くと、気配の出所を探る。
「この辺…かな?」
「ひっ!!」
がこんっと音を立てて、僅かに隙間の空いた岩に手をかけると小さな声が耳に入った。
ルークスと顔を見合せ、岩戸の様になっている様子の岩をそっと動かした。
そこに、痩せ細った子供が2人…身を寄せあい、息を殺して震えていた。
また更新が遅くなってしまいました。
ネタが…尽きました。
暫くはこんな感じで更新空くかもです。
勇者と魔王は…なんだか、バカップルみたいですね。
書いてて、爆発しろwwと思いました。




