勇者、偽りと決別しました。
ダンジョン内で、夜宵は常に明るく振る舞っていた。
ダンジョンで気を付けることや、魔獣の倒し方、素材の剥ぎ取り方、食べられるもの等を説明しながら奥へと進んでいく。
時間も限られているので、今回は初級ダンジョンを回ると決めて最初のダンジョンはあっさりと最下層まで進んだ。
最下層には、どす黒い瘴気が渦巻くクリスタルと所謂ダンジョンボスと呼ばれる大型ボスが鎮座していた。
「あれを倒せば、このダンジョンは一応クリアだね。」
ぐぐっと伸びをした夜宵はにこりと笑う。
「無理は、しないようにな。」
「この程度のダンジョンは無理にならないよ?」
苦笑して駆け出した夜宵に続く。
私が言わんとしていることを、夜宵は理解している。
理解していて、解らないふりをした…だから、今は触れずにいよう。そう決めて、ダンジョンボスを倒すことに専念した。
ボスを倒し、通常はしないんだけど…と言いながら、クリスタルを上級光魔法で浄化すると、ダンジョンに清浄な空気が満ちた。
外に出ると、日が傾き掛かっていた。
初めてのダンジョンだったせいか、思ったよりも時間が掛かってしまったようだ。
「今日は、これで休んで…明日からはもう少しペースを上げないとね。」
次のダンジョン近くへ徒歩でのんびり移動する。
「夜宵、何故通常はクリスタルを浄化しないのだ?」
「浄化しちゃうと、魔獣の出現率が下がるからだよ。」
ダンジョンにも利点は多いのだそうだ。
ダンジョンに魔獣が出現する限り、危険はあるが浅層の魔獣以外は外に這い出しては来ないし、冒険者がいる限りその可能性は低くなっていく。
そして、冒険者がダンジョンに潜り続ける限り、魔獣の素材等を仕入れ続ける事が出来る。
「ただ、今回に関しては瘴気を祓う事が目的だから浄化することにしたの。」
直ぐに湧かれても困るしね、と夜宵言った。
「冒険者ギルドを招ければ、楽になるだろうけどね。」
「それは、この土地の力を取り戻してから…だな。」
「だね~」
暮れかけた空を見上げた夜宵の瞳は、どこかぼんやりとしていた
◇
それから、時々夜宵はぼんやりとしていることがあった。
それは、夜営の時や移動中は勿論、ダンジョンで戦っている時にも見られた。
危なげなく…まるで流れ作業の様に戦って居たのは流石としか言い様がなかったが、心配ではあった。
「そろそろ、到着する頃だね。」
夜宵がそう言ったのは、初級ダンジョンを20個程クリアし、中級ダンジョンを数個クリアした頃だった。
「………。」
「……ごめんね、ルー…。」
「何を謝る?」
夜宵は少し俯いて、何かを振り払うように首を振った。
そして、私の間近まで来ると額をそっと私の胸に預けた。
「もう少しだけ、もう少しだけ心配かけちゃうけど…」
呟くような声音で言う夜宵の肩が震えていた。
「過去の、勇者だった愚かで弱い自分と…決着をつけるから。もう少しだけ、付き合ってね…。」
そろりと夜宵の背に手を伸ばして、片手で彼女を抱き締めると彼女が僅かに身体を強ばらせた。
「夜宵は、本当に可愛い。」
「…………可愛くない。」
真面目に話してるのに、と夜宵は頬を膨らます。
その顔に僅かに笑み、その背をぽん、と軽く叩く。
「気にする必要はない、私は夜宵の味方だ。」
「………ありがとう。」
「そろそろ行こう。」
頷いた彼女を連れて、以前と同じ東の海岸に面した岩山に降り立った。
「まだ、着いては居ない様だな。」
た兵士達が慌ただしく動いてる所を見るに、かなり近くまで来てはいるのだろうが。
「少し、待とうか。」
「船の中に、潜まなくて良いのか?」
「夜営用のテントとかを張ってるから…」
恐らく、宴でもするのだろう…と夜宵は言った。
確かに、船の前には幾つかのテントと酒樽や食べ物等が用意されていた。
その中の一角に、明らかな上座と見られるテントがあった。
「あそこか…」
「日が落ちるのを待って行こう。」
奴等が着いたのは、夕闇が塗り重ねられる様に夜の闇に変わった頃だった。
月は細く、闇を一層濃くしてくれたお陰で、私達は見咎められる事なくテントの裏手へと回ることができた。
張られた幕の隙間から覗くと、ちょうど奴等が入ってきた所だった。
テント内には3人、最も上座に皇子であるシーカリウス・アルビオン、その左右に筆頭魔法使いウィールス・ルクルムと聖職者リガートゥル・アウァールス、そしてテントの入口に騎士シレント・レギオニスが控えていた。
「やれやれ、やっと終わったのぅ。」
「年寄り臭いですよ、ウィールス」
設置された簡易ソファーにだらしなく伸びるウィールスにリガートゥルが笑いながら言う。
だが、双方の表情は明るい。
「仕方無かろう?どれだけ我慢したと思っておる。」
「それには、私も同感ですがねぇ。」
「まったくだ。」
吐き捨てる様に言ったシーカリウスの声に、中を覗かずに膝を抱えて会話を聞いている夜宵の肩が揺れる。
「皇子である俺が、あの化物の為にこんな所まで来る羽目になった。」
「山脈を越えると聞いた時には正気を疑いましたが、率先して盾になっていただけたので、助かりましたよねぇ。」
クスクスと上品に笑い、運ばれてきた酒の杯を傾けるリガートゥルは、上品とは程遠い蛇のような笑みを浮かべていた。
「しかし、裏切られたと知った時の顔は傑作であったな。」
恍惚としたような顔でウィールスが言う。
その瞬間を思い出したのか、奴はぶるっと身体を震わせる。
「あぁ、本当に…胸がスッとした。」
杯の酒を一気に煽ってシーカリウスが笑う。
「最っ高だった。あの女、微塵も疑わずに…くくくっ、本当に頭がお花畑な女だったな。」
「しかし、殺さずとも良かったのではないか?」
浮かべた笑みは、まさに快楽殺人者のものだった。
「生かしたまま、あらゆる実験をしてみたかったものだかのぅ。今までに無い研究結果が得られそうであったのに。」
「遺体を魔導素材にしては?」
「あぁ、それは良い!」
「なんにせよ、後は調査隊に任せればいい…まだ、仕事が残っているのだしな。」
シーカリウスは傍らに置かれた剣を見遣って言う。
「この剣を持って帰還し、魔王討伐と勇者の死亡を民草共に宣言せねばならんからな。」
「嘆き悲しむ演技をしつつ?」
「笑いを堪えつつ、ではなくてですか?」
違いない!そう、声を上げると奴等は笑い転げた。
激烈な怒りで血が沸騰しそうだった。今すぐにでも殺してやりたかった。
だが、抱えた膝に顔を埋める夜宵がそれをさせなかった。
ぎゅっと私の衣を握りしめた震える手が私を引き留めていた…これ程言われてもなお、奴等に心を残しているのかと思うと怒りに近い嫉妬心が沸いたが…
ゆっくりと上げた夜宵の顔に、その気持ちを悔いた。
決壊寸前まで涙の溜まった瞳は怒りと哀しみに満ち、上がりそうになる声を堪えた唇は噛み締められて血が滲んでいた。
堪らずに夜宵を引き寄せると、抵抗なく腕の中に収まった。
震える小さな背を撫でると、テントを今一度睨み付けてその場を後にした。
◇
浄化を終えた1番遠いダンジョン近くに転移して手を離すと、夜宵は崩れる様に座り込んで顔を手で覆ったまま震えていた。
ぽたり、ぽたりと血が滴ってスカートに染みを作る。
「夜宵…夜宵!」
慌てて彼女の手を強引に剥がして顔を上げさせる。
「よく、我慢したな…もう、泣いても良い…」
優しく頬を撫でると、限界を超えた瞳から大粒の涙が落ちた。
「…ぁ、あ……っ、うあぁぁあああっっ!!!」
堰を切ったように零れる夜宵の慟哭が夜の闇に響く。
私にはその身を抱きしめて、背を撫でることしかできなかった。
予想以上に勇者ご一行が下衆になりました。
3人は…まぁ、学生時代からの悪友で、三人三様に悪癖がある感じ。
うーん…ざまぁ展開にはしたいですが、すっきりするかは今のところ不明です(;>_<;)




