勇者、仲間に殺されました。
雪が自分の体に、冷たい床に降り積もっていく…
自分の口から零れる白い吐息で視界が遮られる。
寒い…寒いのに胸の辺りだけ焼けるように熱かった。
2年前、高校に上がったばかりだった私はこの世界に召喚された。
…伝説の勇者として。
漫画やラノベで良く見るベタな展開、だけど良く思う。
勝手に召喚しといて、選ばれた勇者だから魔王倒してこいとか…勝手過ぎる。
そんな事を了承しちゃう主人公は器が広すぎるというか、お人好しが過ぎるんじゃないかと。
乙女ゲーにしたって、御子様やら聖女様に祭り上げられてイケメンに囲まれて、少々チョロ過ぎる。
だが実際にそういう展開になって、ぶっちゃけ私は流された。
言われてしまったのだ…還す魔法は無いのだと。
そうなると、現実的に考えてこの世界で生きていくためには勇者をするしかなかったのだ、流されるしかなかったのだ。
2年間…頑張ったと思う。本当に頑張ったと思うんだ。
必死でこの世界のことを勉強し、戦うために剣術や魔法を覚え、恐怖に震えながら魔物と戦い…魔王を倒した。
それが数分前のことだ。
そして、魔王の魔力が無くなって崩れだした魔王城から慌てて脱出しようと、仲間たちに声を掛けて身を翻した私の胸を…今、長剣が貫いていた。
天井が崩れ、雪が舞い込んでくる。
「な、んで…」
零れ落ちた声は予想以上に弱々しく、僅かにひゅうっと喉笛が混じる。
ぎこちない動きで剣を突き立てる人物を振り返る。
彼はギラついた眼で至近距離から私を見上げていた。
あぁ…ふとした瞬間に見る眼だなと、頭の片隅で思った。
「なんで?解らないのか、化物め。」
そう言って彼は長剣をそのままに私を蹴倒した。
私の体はあっさりと氷のように冷たい石の床に倒れた。
おかしい…私の体はもう、剣で貫かれた程度では然程のダメージを負うことはない。
それ程に人間離れしている自覚はある。
なのに、体が言うことを聞かない。
「動けないだろう?」
くつくつと笑う彼を首だけをなんとか動かして見上げる。
と、視界に長剣が入り眼を見開いた。
「魔、力喰いの、魔…剣…!!」
「ご名答!!」
彼はいつもの穏やかで綺麗な笑みを浮かべて手を叩いた。
「流石のお前も魔王戦で消耗した上、その魔剣で刺されば身動きできないだろう?」
「…っ…な、んで…っ…!」
再度問うた。
冷たい4対の視線が私を見下ろした。
「最初から、決まっていたことですからねぇ。」
おっとりとした口調で聖職者が答えた。
「なんにせよ、今から死に行く貴様が知る必要など無かろう」
杖に凭れる様にしながら、魔導師が吐き捨てるように行った。
まるで影のように付き従う騎士が皇子に剣を差し出した。
「そ、れは…」
「これなら間違いなく殺せるだろう?」
騎士以外の3人が醜悪に顔を歪ませて嗤う。
「俺たちのために死んでくれ。」
剣が振り下ろされる…私の意識は闇に閉ざされた。