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自殺志願書

作者: 高橋勇樹

我が国では社会情勢や未来に不安と不満を抱え込む者が増え続けていた。

自ら命を終わらせる者も後を絶たず、中には大勢の人々を巻き込むような者も少なくなかった。

増え続ける自殺者と彼らに巻き込まれる第三者の被害の対策に政府は苦慮したが、自殺を法的に認め管理する事でとりあえず第三者への被害を減らす策を取る事にしたのであった。


「自殺志願法」と呼ばれたその法律は、自殺志願者が認可された病院へ赴き最終的な意志確認と書類への署名をもって安楽死を得られるというものである。

これにより自殺者の数は減らなかったが、二次的な被害は激減した。


かく言うボクも自殺志願者の一人である。

仕事も恋人も将来への夢も、何もかもを失くしてしまい残ったのは命だけ。

だが、ボクはすっかりと疲れてしまった。


もう一秒たりとも生きてはいたくないのだ。身辺整理を済ませ指定された病院へ向かう。

窓口にて自殺志願者である事を告げると、極めて事務的に書類を渡され規約を熟読した上で必要事項を記入し、一番下の欄に署名をするようと言われた。

見ると細かい文字でびっしりと書かれている。

どうせ間もなく死ぬのだから別にどうでもかまわないのだ、とにかく早く死んでしまいたいボクは、すぐに署名を済ませて書類を提出した。


しばらく待っていると処置室へ入るようアナウンスが流れた。

処置室にはベッドとそれほど大袈裟でもない機械と医師が一人待っていた。


「これから処置を始めます。まずはベッドで仰向けの状態になって下さい。その後こちらのマスクから麻酔に似たガスを送ります。苦しみはなく、まるで深い眠りに落ちるように死を迎える事ができるので安心して下さい。最後に、本当に処置を開始してもよろしいですか?」

「はい、早く楽にして下さい。」そうしてボクはベッドに横になった、体に白い布を掛けられ鼻と口を覆うマスクをつけられる。

「それでは始めます。深呼吸の要領でゆっくりと呼吸をして下さい。」そう言うと医師は機械のスイッチをオンにした。


ああ、これでやっと死ねる…マスクを通じてガスを吸い込む、医師が言っていたように匂いも苦しさもない。

次第に意識が遠のいて行った…



「健康体で良かったですね。」処置室にスーツ姿の男が入って来る。

「ええ、これでしばらくはしのげます。彼の意識は二度と覚める事はありませんが、彼の肉体はこの後も血液を生み出し移植用の臓器を育んでくれます。これで多くの人が救われますね。」



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