3.公園
食事を済ませて、自室に戻り出かける支度をした。
真弥は週に2日塾に通っている。
と、言ってもここのところは通うふりをしているだけでほぼ塾には行っていない。今日も塾に行くふりの準備をし、出かける時間になる頃リビングにいる妹に声をかけた。
「塾行ってくるね。鍵、閉めておいてね。」
「あ、もうそんな時間なの?いってらっしゃい!」
「行ってきます。」
ドアを開けようろ手をかけると、慌てた妹の声が飛んできた。
「あ、ごめん!悪いんだけど帰りにコンビニでノート買ってきてくれない?」
「わかった。また帰りに連絡するね。じゃあ…。」
―バタン―
「さて、行くか…。」
真弥が向かうところは決まっている。
塾に行く途中にある少し大きな公園がある。
休日は家族やカップルで賑わっていて、平日の夜には散歩やランニングのコースとなっていた。
真弥自身小さいころに家族で来た記憶もある公園だった。
公園の中央部分には大きな噴水があり、噴水を囲むようにしてベンチが一定間隔で設置されており、真弥はいつもこのベンチの空きを見つけそこに座って時間を過ごしていた。
ベンチの隣には外灯が設置されており、それなりの明るさがあるため本を読むことも不可能ではない。
「お、珍しい。今日は貸切ですね。」
だいたい、平日の夜でもカップルや散歩の休憩をしてる人たちがいるのだが、この日は真弥以外誰もベンチにはいなかった。
真弥には、ここに来るのにはもう1つ理由があった。
「今日はあの子もいないんだなー。」
そう言ってポケットから携帯を取り出し、いつも通っているチャットルームにアクセスした。
週2回この場所に来るようになって1ヶ月ほどした頃、ある存在に気が付いた。
自分と同じように1人でベンチに座ってる少年。
彼もまた、真弥と同じくここの常連のようだ。
彼がいつもいることに気が付いて以来、妙に彼の事が気になり、話しかけるわけでもないが時折彼の事を確認するようになっていた。
-れおんさんが入室しました―
れおん:こんばんは!!
いちご:あ、れおんちゃん!こんばんは!
しらゆき:こんばんは!
ロク:こんばんは。
れおんは、真弥のハンドルネーム。
しし座生まれに由来した特にひねりのないハンドルネームだが真弥はこの名前を気に入っていた。
このチャットルームはメンタル系のチャットルームで、パソコンからも携帯からもログインできるチャットルームになっていた。
いちご:れおんちゃん、モバイルからってことは塾サボってるな~?笑
れおん:あはは、バレましたか?笑
ロク:無理していく必要はないと思いますが、今日もいつもの公園ですか?
れおん:そうだよー^_^
ロク:気を付けて下さいよ…。毎回言ってますが、どこかお店に入った方がいいんじゃないでしょうか?
しらゆき:ロクはほんと、れおんが気になって仕方ないな~笑
ロク:からかわないでください…。こんな時間に女性一人では危ないです。
いちご:確かにそれはあるよね。私も前々からその辺心配だったんだけども。
れおん:大丈夫だよー。人通りもあるし明るい公園だから!
この場所は同じような心の悩みを抱えるものが集まり、年はバラバラだが妙に居心地がいい。
真弥にとって、唯一本音を話せる場所でもあった。