2.Kazutaka
明日天気に…なぁれ。
僕の心はいつでも雲がかかってる。
晴れもしないけど、雨も降らない。
どんよりした曇り空だ…。
僕の心が晴れてたのは、いつだったんだろう?
6時になりました、ニュースをお伝えします…
「もう朝か…。」
つけっぱなしのテレビから、いつもと変わらないニュース番組が始まる。
僕はほぼ眠らないで朝を迎える。
そしてまた、僕のくだらない1日が始まる。
明日ってどうしてあるんだろう。
1日の始まりは、必ずこの疑問が頭を過る。
僕の名前は清水和隆。
年齢は15歳。中学の3年生。
家族は、父親と母親と妹の4人暮らし。父は医者で母はインテリアデザイナー。
自分で言うのもなんだけど、わりと裕福で不自由のない暮らしをさせてもらってる。
だけど、僕にはそれさえもどこか他人事で、いまいちしっくりこないんだ。
父と母は立派だと思う。父は町では名の知れた病院の跡取り息子。母はわりと有名なデザイナーで海外に出向くこともしばしば。
何度か母の仕事の関係のパーティーとやらに連れて行かれたけど、母の偉大さを間近で見るほど僕は自分が意味のない物に思えて仕方なかったんだ。
家族の中で自分だけ浮いてる気がして、自分だけが蚊帳の外の気がして、僕は家が嫌いだった。
家にいる間は、何も考えなくていいように、誰とも顔を合わせなくて済むように、ひたすら勉強をしていた。
おかげで、成績だけは優秀で「さすが清水先生の息子さんだな」がお決まりのセリフになっていた。
学校生活は、クラスメイトからも先生たちからも評判は上々。
成績優秀で真面目で気取らない優等生。ってとこじゃないかな?
自分でも反吐がでるくらいの評価だけどね。
本当の僕はきっと、真っ黒で何もできない役立たずのガラクタだ。
どうしていいのかわからない。
それが僕の多分本音。
―ガチャ―
「あれ?穂奈美帰ってるの?」
2つ下の妹は部活動をしているため、帰りはいつも和隆より遅い。
普段ならいるはずのない時間に妹の靴があったため、和隆はリビングに向かって声をかけた。
「あ、お兄ちゃんお帰りなさい!!」
「ただいま。部活は?」
「今日はママのパーティーに出席させてもらうから、休んだの♪」
「へー。お前ほんと母さんの事好きだな。」
「だって、ママカッコイイじゃない?自慢のママだもん!」
妹の穂奈美は、兄の僕が見ても飽きれるくらいのママっ子だ。
小さいころなんて、母親の後を付きまわり手に負えないあまり、海外主張に連れて行くこともしばしば。
そのせいか、妹は英語が得意で例のパーティーによく参加してるようだ。
「ってことは、今日は夕飯1人か。」
「お兄ちゃんも来ればいいのに!!ママも来るなら来てもいいって言ってたよ?」
「僕はいいや。」
家の夕飯は、週末以外は基本的に妹と2人で食べる。
夕飯は家政婦さんが作って置いてくれる。
父と母が食事をどうしているかは、実のところ知らなかったりする。
日曜の夜は父の作ったルールで、家族揃って夕飯を取るのが決まりとなっていた。
僕には週に1回のこの時間がまるで拷問のようで、この時間が大嫌いだった。
味はおろか、何を食べたのかさえ覚えていないくらい、僕にとってはその場をやり過ごすことで精一杯なのだ。
「あ…。そうだ今日ね、あっちゃんねお孫さんが体調不良で保育園にお迎え行かないといけなくなっちゃたとかで急に帰らないといけなくなったみたいで、夕飯準備できなかったんだって!」
「へー、そうなんだ。僕だけなら適当にコンビニで済ませるよ。」
妹は家政婦の北村厚子さんのことを、あっちゃんと呼びとても慕っている。もちろん僕も感謝もしてるし、実のところ両親より居心地がよかったりする。
北村さんは僕にとって唯一の相談相手でもあった。
「そろそろ、ママの事務所行くね!事務所で待ち合わせしてるんだ。」
「いってらっしゃい。」
僕はパーティードレスの上から薄手の春物のコートを羽織って出ていく妹を見送ってから、自室に戻った。