ブサイクがブサネコに転生したら
35歳、職歴なし、彼女なし、友人なし、コミュ力なし、ブサイク、童貞。
俺のスペックをざっと説明するとこんな感じである。
俺と同じような人間はだいたいそうだろうと思うが、日々部屋に籠ってネットをしながら膨大にある時間を潰していた。
しかし人生とは分からないものである。つい数か月前、気まぐれに外を散歩していたとき事故にあってあっさり死んでしまった。
俺は人としての生を終え、そして新たに獣としての生を授かった――
「ぶぅちゃんおはよー、今日も可愛いねぇ」
「にゃあ」
人間として死に、そして次に目が覚めたとき俺は猫になっていた。猫になっても相変わらずブサイクであったが、人間の不細工と違って猫のブサイクにはある程度需要があったらしい。俺は生まれてしばらくした後、温かい家庭にペットとして迎え入れられた。
そして幸運な事に、その家は男にとって天国のような場所であった。
「よーしよし、ぶぅちゃんママのとこにおいで」
俺はママの胸に飛び込み、その豊かな胸に顔をうずめる。ママは俺の背中を撫でながら「甘えん坊さんね」と優しく囁いた。
二人の娘を産んでいるにも関わらずママの胸は美しい形を保っており、その柔らかさと大きさは随一だ。まるで母性の塊のように俺を優しく包み込んでくれる。
「ママばっかりズルい! 私にもぶぅちゃん抱かせて!」
そう声がしたかと思うと俺はヒョイと抱き上げられ、マミにギュッと抱きしめられた。
マミは小学五年生の女の子であり、ママに良く似た癒し系美少女である。ママの包み込むような母性はないものの、その膨らみかけの胸や白い鎖骨、細い腕には危ないエロスを感じずにはいられない。子供であるがゆえに少々抱っこの仕方が雑なのがネックだが、多少の苦しみを耐えるだけの価値はある。
「ふわーあ、おはよう。今日もぶぅはブッサイクだなー」
相変わらず朝から汚く俺を罵るモモ。しかしモモはマミから俺を抱き上げると、言葉とは裏腹にとても優しく俺の頭を撫でた。
モモは17歳。肌にも胸にもハリがあり、まさにピッチピチの女子高生である。こちらはママやマミとはタイプの違う、キリッとした美少女だ。この容姿に加えてツンデレ気味の言動。男心をつかんで離さない。
俺は前足で服の上から胸を揉みしだき、その若さを存分に味わった。
「あっ、こら! 変な事すんなよ!」
「まぁまぁ、この子はまだ赤ちゃんなんだから。お母さんが恋しいのよ」
「私はお前のお母さんじゃないっつうの」
モモはそう悪態をつくが、俺を胸から離そうとはしない。それを良いことに俺はさらに激しく前足を動かした。
ああ、まさに天国だ。人間だった頃こんなことをしたら間違いなく捕まっていたのに、猫であるというだけでこんなにも愛されてこんなにも許される。
ブサイクであることも、胸を揉むことも、働かないことも、寝てばかりいることも、何もかも許されるのだ!
猫に生まれて本当によかった。せっかくこんな美人ぞろいの家族に飼われたんだ、今世では人間の時に満たされなかったことをたくさんしてやる。猫なら何をやったって咎められない。モラルも常識も法律も猫には関係のない事だ。考え得る限りのイタズラを三人に仕掛けてやる!
決意を胸に胸を揉んでいると、突然俺を抱いたままモモが立ち上がった。
「病院今日だったよね? 私もついて行こうかな」
「あ! マミもいく!」
「そう? じゃあ今から行くから支度しなさい」
3人はそのままサッと準備を終え、俺を連れて車に乗り込んだ。
病院という単語が聞こえて少しテンションが下がったが、ワクチンは飼い猫の宿命であるから仕方がない。不安を紛らわすためモモの乳を揉みながら病院への到着を待つ。
「はーあ、しばらくぶぅとお別れかぁ。寂しいなぁ」
マミが俺の頭を撫でながら小さくため息を吐く。
俺は思わず首をかしげた。ワクチンなんて一瞬で終わるだろうと思っていたからだ。特に体の調子が悪いという事もないし、健康診断のための入院とかがあるのだろうか。
「……ちょっと可哀想だよね」
モモが俺の頭を撫でながらため息交じりに呟く。それにママが応えた。
「しかたないわよ、去勢は飼い主の義務だもの」
「!!!!!」
こうして俺の性欲は失われ、生後数か月で生涯童貞が決定したのだった。