第五話 「密着」 (改訂版)
サイズが合っていないという美香の訴えは受け入れられず、老女はシワが全くよらないようにするためだから我慢してほしいといわれた。それで美香は悪戦苦闘しながら全身タイツを着る破目になった。
そのため、ただでさえ伸縮性があるのでサイズがきつかったら密着する性質があるのに、必要以上の拘束感を受ける事になった。
「全身タイツってはじめてきたけど、こんなに気持ちよいものだったんだね。でもなんであたしってこんなイヤラシイ姿にならないといけないのよ」
この時、ようやく手足を全身タイツの中に納め視線を自分の身体に向けると、ボディラインがくっきりと浮き出ていた。しかも股間の部分がイヤラシイラインを浮き上がらせていたからなおさらだった。
「あなたねえ、背中のチャックは私が閉めるから、はやくマスクを被って頂戴」と老女にせかされ、美香はマスクを被った。すると視界はタイツ生地の繊維を通すようになったので、世界はピンク色に染まって見えるようになった。さらに、追い討ちをかけるように背中と後頭部のチャックを閉められたので、圧迫感を感じるようになった。
その時、美香の身体はピンクに染まり傍から見ると人間の形をした別の有機体のような姿だった。その姿の中で美香は気持ちよくなっていた。
「なんか眠たいわね、寝てもいいかしら? こんな布に覆われていたら気持ちいいわね」
そう考えると眠くてたまらなかったが、老女に何か指示されるのかと身構えていたら、寝ていてもいいわよといわれたので、本当に美香は眠ってしまった。
ピンクの人型と化した美香は老夫婦のなすがままにされていった。青銅の甲冑の型取りや身体の計測など様々な事をされたが、心地よさで深い眠りについていたので、微動だにしなかった。
「やっているな! どうだい彼女の甲冑の進行度は良好か? 」
そうやって入ってきたのは今回の『青銅の魔人』の出資者の男だった。この日は高価そうなスーツで身を整えていた。歳は四十ぐらいのようにみえ、それなりの顔かたちをしていた。
「おかげさまで順調ですよ。それにしても本当に雪子役は彼女でいいのですか? あなた様の力があれば未知数の新人ではなく、もっと人気がある女優を選ぶ事だって出来たと思いますが? わざわざ演技力が未知数のあの娘にしたのですか? 」
「ああ、出来たさ。でも、万が一、あの甲冑が暴走したら永遠に行方不明になる危険性だってあるじゃないか? そうなったら世間だって黙っていないはずだ。そうならないように、あえて行方不明になっても家族以外は探さないような娘を雪子役にしたんだ」
そんな話をしている横で美香はゼンタイに包まれ幸福感に浸っていた。その姿はすでに人のものとは思えなかったが、美しいものであった。